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がんを防ぐ ー 便潜血検査と大腸がん

2015年8月

 

日本人と大腸がん


がん
は日本人の死亡原因の第1位

 日本人の死亡原因の第1位はがん(悪性新生物)です。3人に1人(28.5%)ががんで命を落しています。働き盛り(40~60代)に限ると40%ががんで死亡しています。また、生涯では2人に1人(男性62%、女性46%)ががんに罹るとされています(2012年 厚生労働省)。

大腸がんの死亡数、発生数(罹患数)

 近年、食習慣の欧米化(高脂肪食・食物繊維不足など)により日本人の大腸がんが増えてきていると言われています。がんの部位別死因では肺がん、胃がんにつぎ、大腸がんが第3位(4万7千人)となっています。男女別にみると、男性では第1位:肺がん、第2位:胃がん、第3位:大腸がん(2万6千人)、女性では第1位:大腸がん(2万2千人)、第2位:肺がん、第3位:胃がんです(図1、2012年 厚生労働省)。

日本人の死因(大腸がん).png

 

 ただし、大腸がんにかかる人(新患数、罹患数)でみると、男女合わせて第2位です。男女別にみると、男性では肺がん、胃がんに次いで第3位(7万2千人)、女性では乳がんに次いで第2位(5万3千人)です(図2)。生涯から見ると、男性では11人に1人、女性では14人に1人が大腸がんにかかっています(図3)。

男女別臓器別がん死亡数(大腸がん).png
生涯での大腸がん発症リスク.png

大腸がんは予防できるか?

 集団検診の普及や診断法の進歩により、大腸がんは早期に発見できるようになりました。また、治療法の進歩にもより完治することの多いがんとなりました。しかし、それにもかかわらず年間約4万7千人が大腸がんで命を落としています。

 大腸がんにならなければ大腸がんで亡くなることはありません。すなわち、大腸がんの予防ができれば大腸がんによる死亡数を減少させることができる訳です。その様なことができるのでしょうか?

ストップ大腸がん.png


大腸がんは予防できる!

大腸がんのリスク因子

 大腸がんのリスク因子に関しては、かなりの事が分かってきています。リスクを上げるものとして肥満、飲酒、牛・豚・羊などの赤肉やベーコン・ハム・ソーセージなどの加工肉、喫煙、潰瘍性大腸炎、遺伝(家族歴)などがあります。一方、「確実」にリスクを下げるものとして運動があります。従来、確実な効果があるとされていた野菜は「おそらく確実」にランクを下げています。食物繊維・カルシウム・ビタミンD・葉酸は確実の判定にはいたっていません。また、アスピリンなどの非ステロイド系消炎鎮痛剤や閉経後の更年期症状に使用されるホルモンなどもリスクを下げる様です。

大腸がんのリスク因子.png

大腸がん検診

 食生活や運動などの生活習慣を改善すれば大腸がんの予防になります。しかし、その効果が現れるにはかなりの時間が必要です。生活習慣を改善することでリスクを下げながら、同時に大腸がん検診を毎年受けて大腸がんの早期発見・早期治療することが重要です。

便潜血検査

 大腸がんの検査と言うと、大腸を直接診察する内視鏡検査を思い浮かべるかもしれません。大腸がん検診では便に潜む血液の有無を調べる検査、いわゆる検便を行います。便を検査する事でがんにかかっているかどうか調べます。大腸がんがあると便が腸内を移動する際に便と組織が擦れて血液が付着します。便潜血検査では便に血が混じっているかどうか調べ、目に見えないわずかな出血も検知することが可能です。

 便の採取は自宅で行う事が出来ます。便の表面を採便用の棒でまんべんなくこすり、通常2日分の便を採取します。食事制限の必要もない簡単な検査です。

便潜血検査で陽性と判定されたら…

 便潜血検査では約7%が「精密検査が必要」という判定を受けます。大腸がん以外にもポリープ、痔、大腸炎、憩室炎などで出血します。したがって、その原因を明らかにするために精密検査を受けることが必要です。

 なお、便に血が混ざっていると一目でわかる場合は、便潜血検査を受けることは意味がありません。治療を必要とする場合があると思いますので、すぐに医療機関を受診してください。

便潜血検査で分かること

 がん病変からは常に出血しているとは限りません。早期大腸がんでは約50%、進行がんでは80~90%位の確率で便潜血検査が陽性となります。逆に言うと、早期がんでは50%、進行がんでも10~20%はこの検査では見逃されることになります。
 ただし、一度の検査で見逃された場合でも、毎年検査を受けることで3/4は治癒可能な段階で発見されます。

便潜血検査を再度行うことは意味がない

 早期大腸がんが潜んでいた人がいたとします。便潜血検査で陽性の結果がでました。その人は精密検査を受けずに再度便潜血検査を受けました。今度は陰性でした(50%の確率)。その結果に安心して精密検査を受けませんでした。

 小さかったがんは次第に大きくなり、別の機会で見つかった時には既に進行がんになっているかもしれません。さらに、手遅れになっているかもしれません。すなわち、がんを早期で発見し治療できる、せっかくのチャンスを摘んでしまうことになった訳です。このように、検査で陽性の場合、便での再検査は意味がありません。必ず精密検査を受けるようにしましょう。

大腸内視鏡

 精密検査の方法は何種類かありますが大腸内視鏡検査が基本です。便潜血検査陽性で大腸内視鏡検査を受けた人の3~5%に大腸がんが見つかっています。そして、早期がんの場合、ほとんどはお腹を開ける手術(開腹術)ではなく内視鏡を使ってがん病巣を切除(内視鏡切除)することが可能です。

 また、内視鏡検査では30~40%にポリープが見つかります。その一部にがんが潜んでいたり、将来がんに変わる可能性もあります。そのようなポリープを切除することにより、がんの芽を摘んだり、将来の大腸がんのリスクを軽減することも可能です。

 便潜血検査では全ての大腸がんが見つかる訳ではなく、一定の限界があります(陽性率:早期大腸がん50%、進行大腸がん80~90%)。したがって、「何らかの症状がある」、「大腸がんの家族歴がある」、「大腸がんが心配だ」、というような方は直接大腸内視鏡検査を受けることをお勧めします(図5)。

便潜血検査の限界10.png

大腸がん検診は大腸がん死亡リスクを下げる

 このように、便潜血検査は一定の限界があります。それなら、「大腸がん検診を内視鏡で」という考えも出てきますが、現実的には不可能です。大腸内視鏡はそれなりの準備と手間がかかり、検診としては成り立ちません。

 しかし、便潜血検査は大腸内視鏡と組み合わせることで明らかな死亡率減少効果が認められています。そして、便潜血検査を受けることは、色々ながん検診の中でも最も死亡率が下がる事も証明されています。大腸がん検診はどの位の効果があるのでしょうか? 多目的コホート研究(JPHC研究)でこのことが検討されています。

 40~59歳の男女約4万人を平成2年(1990年)より平成15年(2003年)まで13年間追跡調査。大腸がん検診受診の有無とその後の大腸がん死亡率との関係について調査しています。平成2年(1990年)の研究開始時点のアンケート調査では、対象者の17%が過去1年間に便潜血検査を受けていました。そこで、過去1年間に便潜血検査を受けた人(大腸がん検診受診「あり」)と受けていない人(大腸がん検診受診「なし」)とで、その後の大腸がんによる死亡率が比較されています。

 調査開始から13年間に597人が大腸がんにかかり、132人が大腸がんで死亡しました。調査開始前1年間に大腸がん検診受診「なし」の人と比べ、大腸がん検診受診「あり」の人では大腸がんによる死亡率が約70%低下していました(0.28倍)。

 また、大腸がん検診受診「あり」の人では、大腸がん検診受診「なし」の人と比べて、大腸がんを除くがん全体や死亡全体で見た場合の死亡率も低下していました。そして、大腸がんによる死亡率の低下の度合いが、それ以外による死亡率の低下の度合いよりも大きくなっていました。

 さらに、大腸がん発見時の進行度でみてみると、検診受診「あり」の人で大腸がんが早期で発見される可能性が高くなり(1.34倍)、逆に進行してから診断される危険性は約6割減っていました(0.41倍)。

便潜血検査による大腸がん検診が「がん」をより早期に発見するのに役立ち、これにより進行した状態で発見するのを防ぎ、結果として大腸がんによる死亡を減らしていたと言えそうです(図6)。

大腸がん検診と大腸がん死亡率10.png

まとめ

 がんの部位別死因で第3位(女性では第1位)の大腸がんは便潜血検査で早期発見が可能です。便潜血検査は自宅で便を採取し、便に血液が混じっているかどうを調べます。簡便で苦痛を伴うことはありません。一度に多くの検査が可能で「検診」に適した方法です。

 便潜血検査で精密検査が必要と判定された場合、再度の便潜血検査は意味がありません。必ず大腸内視鏡検査を受けてください。

 便潜血検査と大腸内視鏡を組み合わせることで早期大腸がんの発見率が上昇し、進行大腸がんのリスクが減少します。その結果、大腸がんによる死亡を70%減少させることが可能です。

 ただし、便潜血検査による大腸がん検診では一定の限界があります。「何らかの症状がある」、「大腸がんの家族歴がある」、「大腸がんが心配」というような方は直接大腸内視鏡検査を受けることをお勧めします。

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