>医療法人 啓眞会 くにちか内科クリニック

スマホ用QRコード

糖尿病とがん

院長の独り言 2017年4月号より

 

糖尿病患者は「がん」になりやすい

 

 日本人の死亡原因の第一位のがん。2人に1人はがんになり、3人に1人はがんで亡くなっています。高齢化社会の進行および糖尿病患者数の増加とあいまって、糖尿病にがんを併発する患者さんは増え続けています。日本糖尿病学会の調査によると、1990年代より糖尿病患者さんの死因は、それまで第1位であった血管障害を抜き、がんが第1位となりました。その後も上昇を続け、2001~2010年の調査では38.3%に達し、第2位の感染症(17.0%)、第3位の血管障害(14.9%)を大きく上回ってきています(図1)。

 

 一人一人の糖尿病患者にとっては、合併症によって失明、透析、脳梗塞・心筋梗塞に至る確率より、がんにより手術や抗がん剤治療を受けるようになる確率の方がはるかに高く、より現実的な問題と言えます。

 

 厚生労働省の2010年の統計によると、(糖尿病も含めた)一般日本人の死因の第1位は悪性新生物(がん)で29.5%でした。一方、日本糖尿病学会による2001~2010年の調査では、同第1位の悪性新生物(がん)は38.3%でした。すなわち、糖尿病患者は一般日本人より1.3多くがんで命を落としていることになります(図2)。

糖尿病患者は脳梗塞・心筋梗塞、腎不全などの血管障害による合併症による死亡リスク(14.9%)より、がんで死亡するリスク(38.3%)の方がはるかに高い2.6倍

 

 

 

各疾患別死亡率 第1位 悪性新生物 …一般日本人29.5% 糖尿病患者38.3%

糖尿病患者のがん死亡率は一般日本人の1.3

 

 

糖尿病とがん

 

 日本糖尿病学会と日本癌学会合同の「糖尿病と癌に関する委員会」の2013年の報告では、糖尿病の人はそうでない人に比べて1.2がんになりやすいとのことでした。

 

 これは多目的コホート研究(JPHC Study)をはじめとした我が国の8つの代表的なコホート研究※1)を統合・解析したものです。男性155,345名、女性180,792名、計336,137名が解析対象となり、平均10年の追跡調査がなされました。その間、男性19,977名、女性13,046名ががんになっています。

 

 がんの部位別でみると、大腸がんになるリスクは1.4倍肝臓がん1.97倍膵臓がん1.85倍と有意に増加していました。子宮内がんと膀胱がんでは統計学的有意差はないものの増加傾向がみられています。乳がんや前立腺がんでは増加傾向は認められませんでした(図3)。

 

 

糖尿病による発がんリスク上昇のメカニズム

 

 このように糖尿病は、いくつかのがんのリスクを高めることが明らかになってきています。なぜでしょうか? 先の合同委員会では二つの要素に注目しています。一つは糖尿病自体が、がんの発生と促進に関わっているということ。もう一つは、2型糖尿病とがんに共通の危険因子があるということです。

 

 前者には、インスリン抵抗性と高インスリン血症、高血糖、炎症などが、後者には加齢、男性、肥満、低身体活動量、不適切な食事、過剰飲酒や喫煙などがあります。

 

■糖尿病によるがん発生促進因子

①インスリン抵抗性と高インスリン血症

 インスリン抵抗性とはインスリンの効きが悪い状態、インスリン作用が低下した状態のことです。すると、それを補うため、膵臓のβ細胞からインスリンが過剰に分泌され高インスリン血症をきたします。

 

 インスリンの主な働きは糖代謝を促し血糖値を下げることですが、それ以外にも癌細胞の増殖を促進する作用もあります。また、癌細胞の増殖を促進するインスリン様成長因子-1(IGF-1)の活性を高めることで癌の転移を促進する作用もあるとされています。

 

 膵臓はインスリンを作る臓器、肝臓は膵臓で作られたインスリンが門脈を通して最初に到達する臓器です。いずれも高濃度のインスリンの暴露を受けます。糖尿病と膵臓がん肝臓がんとの強い関連性(図3)のメカニズムの一つとされています。

 

 肥満や運動不足によっても高インスリン血症は引き起こされます。その代表例が大腸がんです。国際的な評価判定を示すWCRF(World Cancer Research Fund世界がん研究基金)とAICR(International Agency for Research on Cancer国際がん研究機関)によると、「運動は結腸がんのリスクを“確実に”下げる」、「肥満は男性の結腸がんのリスクを上げる」と判定されています。

 

②高血糖

 韓国人約130万人を対象としたコホート研究では、空腹時血糖の上昇とがんのリスクが有意に相関することが示されています。欧米での前向き研究でも空腹時血糖の上昇と共にがんによる死亡リスクが上昇することが示されています。

 

 日本人のデータとしては空腹時血糖値別にみた福岡県の「久山町研究」があります。健診で75g経口糖負荷試験を受けた40~79歳の住民を19年間追跡調査し、一般住民における耐糖能レベルとがん死亡の関係を検討しています。空腹時血糖値100㎎/dl未満のグループのがんによる死亡リスクを1.0とした場合、空腹時血糖異常(IFG)※2と耐糖能異常(IGT)※3では1.5倍、糖尿病では2.2倍となりました。 

 

 さらに糖尿病の中でも、新規に診断された糖尿病よりすでに診断されていた糖尿病の方が、全がん死亡率が高かったとのことです。このことから、罹病期間が長い糖尿病患者の方が全がん死亡率も高まることが示唆されたとしています。

 

 高血糖状態は細胞内の酸化ストレス(活性酸素などが増えている状態)を亢進させます。この酸化ストレスはDNAにダメージを与えることが分かっています。

 

③炎症

 2型糖尿病では肥満を伴うことも少なくありません。肥満によって蓄えられた脂肪組織では慢性的な炎症が起こっています。これもがん発症の要因になります。がんを抑えることに働くアディポネクチン※4の血中濃度が低いことなども、がんの発症に関与している可能性が考えられています。

 

■糖尿病とがんに共通する危険因子

 2型糖尿病とがんには共通のリスク因子があります。それは、加齢、男性、肥満、低身体活動量、不適切な食事(牛肉や豚肉などの赤肉、ハム・ソーセージなどの加工肉の摂取過剰、野菜・果物・食物繊維の摂取不足など)、喫煙、過剰飲酒などです。2型糖尿病を発症したり、悪化させたりする要因は、同時にがん発症リスクを上昇させることがわかっています。

 

①肥満

 肥満は2型糖尿病の最も重要な危険因子の一つです。同時に、食道(腺がん)、大腸、膵臓、乳房(閉経後)、子宮内膜、腎臓のがんリスクを上げる「確実に上げる」因子とされています(IARC:国際癌研究機関)。

 

②身体活動

 身体活動は2型糖尿病のリスクを下げます。同時に、身体活動は結腸癌、閉経後の乳がん、子宮内膜がんのリスク低下と関連することが複数の疫学研究で報告されています。

 

③食事

 食事に関しては赤い肉や加工した肉摂取が少ないほど、また野菜、果物、全粒粉などの摂取が多いほどがんのリスクが低いことが報告されています。また、肉摂取量が少なく、野菜、果物、全粒粉や食物繊維の多い食事はインスリン感受性を改善し2型糖尿病に予防的に働くとされています。

コーヒー摂取量が多い人では糖尿病とがん罹患ともに低いことが多数の研究で報告されています。ただし、糖尿病とがん予防のためコーヒー摂取を推奨するまでのコンセンサスは得られていません。

 

④アルコール

 中等量以上のアルコール摂取はがんリスク上昇と関連していることが国内外より報告されています。IARC(国際がん研究機関)によるとアルコール摂取は口腔、咽頭、喉頭、食道、大腸、肝臓、乳房のがんについて発がん性ありと判定されています。

 

 大量のアルコール摂取は2型糖尿病のリスクを上昇させるかもしれない。しかし逆に、中等度以下のアルコール摂取は2型糖尿病のリスクを低下させるかもしれないという疫学的研究もあります。

 

⑤喫煙

 喫煙は肺がんのみならず、咽頭・喉頭、食道、胃、肝臓、膵臓、子宮頸部、腎臓、膀胱のがんに対して発がん性ありと判定されています。2型糖尿病発症リスク上昇と関連しているとも報告されています。

 

 

糖尿病によるがん予防のためには

 

 肥満や運動不足、不適切な食事(赤肉・加工肉の摂取過剰、野菜・果物・食物繊維の摂取不足など)、喫煙、過剰飲酒などは糖尿病とがんの共通の危険因子です。

 

 糖尿病患者さんが食事療法、運動療法、禁煙、節酒など生活習慣の改善に取り組むことは、糖尿病治療に有効であるのみならず、将来のがんのリスクを低減にもつながります。

 

■がん検診

 糖尿病患者さんが、がん発症リスクを下げるためには第一に血糖コントロールを良好にすることです。また、不幸にしてがんができてしまった場合でも、がんを早期に発見することが大切です。そのためには、定期的に「がん検診」を受けることが推奨されます。

  • 胃がん、子宮がん、肺がん、乳がん、大腸がんの5種類のがんについては、厚生労働省が、がん検診の受診を推進しており市町村単位でがん検診が実施されています。
  • B型・C型などの肝炎ウイルをもっている糖尿病患者さんは肝臓がんに注意が必要です。早期発見のためには定期的受診時に腫瘍マーカーなど血液検査や腹部超音波などの検査を受けるようにしましょう。
  • 膵臓がんの早期発見は困難な場合が多いのですが、1年に1回位の血液検査や腹部超音波(エコー)検査を受けましょう。
  • 大腸がんの早期発見のためには便潜血検査が有用です。
  • 日本のデータでは糖尿病と乳がんのリスク関連は証明されませんでした。しかし、欧米の研究では2倍位のリスクがあります。2年に1回位の検診が勧められています。
  • 子宮がんの早期発見には、20歳以上の女性に2年に1回の検診が勧められています。
  • その他、全般的には人間ドックの利用や主治医に相談して定期的ながん検診を受けるのもよいでしょう。

 

■がんを疑う手がかり

 このような場合、がんが潜んでいるかもしれません。主治医にご相談ください。

  • 説明できない血糖コントールの悪化や体重減少はがん、特に膵臓がんが潜んでいるかもしれません。
  • 糖尿病を初めて指摘された場合も膵臓がんが潜んでいるかもしれません。
  • 経過中Hb(ヘモグロビン、血色素)の低下を認める場合。胃がん・大腸がんでは頻度が高い。正常範囲内の変化でも注意が必要。
  • 貧血に伴いHbA1cが見かけ上、低下します。糖尿病がよくなったのではなく、がんのため貧血が進行したためです。説明できる理由なしにHbA1c値が改善(見かけ上改善)した場合は要注意。

 

 

注解

※1)コホート研究:コホートはローマ時代の300人程度の歩兵隊軍団の意味。コホート研究はある特定の集団(コホート)を長期間追跡調査することで、病気の原因、特徴を解明していく疫学研究法。例えば、喫煙者と非喫煙者の死因・健康状態などを追跡調査する疫学研究。

※2)空腹時血糖異常(IFG):ぶどう糖負荷試験で空腹時血糖値110~125㎎/dl、2時間値140㎎/dl未満のグループ。空腹時血糖値のみ高い状態。IGTの前段階。

※3)耐糖能異常(IGT):正常と糖尿病の境界の状態、糖尿病の前段階。隠れ糖尿病、糖尿病予備群とも呼ばれる。

※4)アディポネクチン:脂肪細胞から分泌される善玉生理活性物質。動脈硬化や糖尿病を予防する働きがある。