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2014年6月
人間ドック学会の血圧の基準値:147/94とは
つい最近、日本人間ドック学会と健康保険組合連合会(以下、健保連)は血圧や血糖値、コレステロール値、肥満度などについて健康診断や人間ドックで「異常なし」と判定する新たな基準範囲を策定すると発表しました(2014年4月7日)。
それによると、血圧の基準範囲は「収縮期血圧:88~147、拡張期血圧:51~94」となります。これは、従来同学会が定めていた正常血圧の基準値「収縮期血圧130未満、拡張期血圧85未満」と大きく異なっています。また、日本高血圧学会の定める正常域血圧の基準値「収縮期血圧140未満、拡張期血圧90未満」とも異なります。
マスメディアの報道は
この人間ドック学会の発表を受け、マスメディアでは下記の様に大きく取り扱っています。
なぜ、こんなことになったのでしょうか? 血圧の基準値(基準範囲)に対する考え方が高血圧学会と人間ドック学会では全く異なるからです。マスメディアはそれを理解できていないようです。
人間ドック学会の血圧の基準範囲とは
人間ドックを受けた約150万人の中から、「いわゆる健康人」を選びだしました。いわゆる健康人とは、下記の通りです。
いわゆる健康人の条件
悪性腫瘍、慢性肝疾患、慢性腎疾患など
退院後1か月以内
薬を常用している人(高血圧、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症等の疾患の治療のため)
B型肝炎・C型肝炎の人
その結果、約34万人が「いわゆる健康人」と判定されました。その内、約1/7の集団を無作為に選びだし、さらに統計的な処理を行い最終的に「超健康人(スーパーノーマルの人)」を約1万~1万5千人選びだしました。その「超健康人」の個々の検査値から基準範囲を求めました。
超健康人の血圧の基準範囲
人間ドック学会の「いわゆる健康人」の条件のうち「非肥満と血圧に関する基準:130/85未満」を除外し、他の項目が「いわゆる健康人」と判定された人を選び出しました。そのグループの血圧値の分布を正規分布となるように統制処理しました。
正規分布は通常下図の様に釣鐘状の形をとります。そして、釣鐘の中心部の面積が全体の95%になる区間(95%信頼区間)を求めます。その両端にあたる部分の血圧値が基準範囲となります。
その結果、基準範囲の両端の血圧は収縮期が88~147、拡張期が51~94でした。これによると収縮期血圧:147、拡張期血圧:94でも正常血圧です(図1)。これを超えると高血圧ということになります。
人間ドック学会の主張する血圧の基準範囲に関する問題点
医学の世界では血液検査などの基準範囲を決めるには、一般的に上記の方法が用いられます。また、その方法の妥当性も認められています。
しかし、この方法で血圧の基準範囲を決定することには、下記のような問題があります。
人間ドック学会も1,2,3に関しては問題があったことを認めており、「4月4日報道機関へ公表した内容について」と題する声明を発表しています(4月7日)。要約すると以下の通りです。
この基準範囲の決め方は、いわば「いわゆる超健康人」の幅の広い平均値を意味しているに過ぎません。また、「中間報告に過ぎない」「さらに検討する必要がある」とは、単に仮説に過ぎないということです。
このように、人間ドック学会の今回の発表は、いわゆる「見当違いの考え方」「勇み足」であったといえます。その裏には、増え続ける医療費に対する健保連と厚生労働省の思惑(*1)や人間ドック学会の存在感を顕示する必要性(*2)があったのかもしれません。
しかし、真の問題点は4にあります。すなわち、高血圧、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症の人でも薬を常用していなければ「いわゆる健康人」となるということです。また、肥満度と血圧の基準値を決める時は、それぞれの条件を外していることです。
また、正常血圧を130/85未満としながら、血圧に関してはこの条件を外しています(本文中に記載あり)。すなわち、あきらかに「高血圧、病気の人、健康ではない人」、または「その可能性のある人」が「いわゆる健康人」に組み込まれている可能性があります。そのような「いわゆる健康人」から導かれた血圧の基準範囲にはたして意味があるでしょうか?
日本高血圧学会の見解
日本人間ドック学会と健保連の報道に対して、日本高血圧学会は4月14日付けで「高血圧学会から国民の皆様へのお願い」というタイトルで、異例ともいえる声明を発表しています。要約すると次の様になります。
高血圧学会から人間ドック学会の「正常血圧」に対してのコメント
日本高血圧学会による高血圧治療ガイドライン
おわりに
今回、人間ドック学会と健保連は血圧の基準範囲を収縮期血圧:88~147、拡張期血圧:51~94への変更を検討中のようです。しかし、この基準範囲はあくまで仮説の段階であり、根拠がありません。血圧の「正常値」が複数存在することは多くの方に不安と混乱を与えることになります。
高血圧学会に続き日本動脈硬化学会も「人間ドック学会の”基準範囲”は国民の健康に影響を及ぼしかねない。誤解を与えないよう直ちに適切な対応をお願いしたい」との声明を発表しています。
一部のマスメディアが今回の新基準範囲を、あたかも「決定された」「正しいこと」のように報道し混乱に拍車をかけています。いつものことながら、困ったものです。
マスメディアは「患者よ、○○と闘うな」とか「血圧は高めの方が長生きする」「コレステロールは高めの方が長生きする」などと主張する、その方面で活躍中の著名人を引っ張りだしコメントを掲載しています。しかし、彼らが引用する研究・論文は医学界で広く支持されたものではありません。かなり非科学的で偏見に満ちています。
重ねて言います。今回の人間ドック学会と健保連の見解は、あくまで仮説であり根拠がありません。さらに、基準範囲の設定方法そのものに問題があります。明らかに間違った方法です。間違った方法で正しい結果が得られるとは到底考えられません。しかも、それを途中段階で発表するなんて…。非科学的であり無責任です。
言論の自由とはいえ、それを「決定された」「根拠がある」ことのように報道する一部のマスメディアや反医療を主張する面々は、いつもの事ながら困ったものです。これらの報道により、通院・治療が必要な人が「自らの判断で」薬の服用や通院を中止しないよう切にお願いしたいと思います。
註解
*1)高血圧の基準値を引き下げると高血圧患者が多くなり、結果的に医療費を押し上げることになる。
*2)人間ドック学会は医学界ではマイナーな学会であまり存在感がありません(関係者の方々 ゴメンナサイ)。人間ドックは外国にはない日本独自のシステムです。人間ドックが国民の「健康の増進」「病気の早期発見・予防」に貢献しているかどうか疑問視する声もありました。したがって、人間ドックの存在意義を実証する必要があったようです。また、厚生労働省や健保連から「医療費削減」という圧力があったのかも知れません(あくまで憶測です)。