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エルシニア菌とは |
エルシニア菌は腸内細菌科のエルシニア属に属するグラム陰性桿菌で、ヒトに対して病原性が確立しているのはYersinia pestis (ペスト菌)、Yersinia enterocolitica、Yersinia pseudotuberculosis です。
Yersinia pestis (ペスト菌)は有名なペストの病原体です。ペストは現在では絶滅していますので、ここでは食中毒の原因ともなるエルシニア(Yersinia enterocolitica、Yersinia pseudotuberculosis)について説明します。
エルシニア菌(Yersinia enterocolitica、Yersinia pseudotuberculosis)は冷蔵庫内温度の0~4℃でも増殖可能です。この点がサルモネラや大腸菌とは異なります。寒冷に強いためエルシニアは好冷菌と呼ばれることもあります。
菌体は小さな桿状または球状で、培養上では比較的小さな集落を形成。組織侵入性でリンパ組織に親和性を有していて、血液を介して全身に散布されます。
感染経路 |
伝搬経路は経口摂取が主です。エルシニア菌は豚・羊・牛などの家畜や犬・猫などのペット、野生動物などの腸管内に広く分布しています。糞便で汚染された食肉、殺菌が不十分な生乳・山水、・井戸水やペットなどの動物との接触、感染動物の糞便との接触などが感染源となります。
臨床症状 |
潜伏期間は通常4~6日ですが、1~14日間と幅があります。主な症状は、発熱、腹痛、下痢で、しばしば血便となることもあります。5歳より大きい子供や大人では、しばしば強い腹痛が右下腹部に見られ虫垂炎と紛らわしい場合もあります(偽虫垂炎)。発疹、関節痛、菌血症が見られる場合もあります。これらの症状は3-28日続きます。
■Y. enterocolitica による感染の臨床症状は多岐にわたり、下痢や腹痛をともなう発熱疾患から敗血症まで多彩です。
患者の年齢とこれら病像とはある程度相関がみられます。乳幼児では下痢症が主体であり、幼少児では回腸末端炎、虫垂炎、腸間膜リンパ節炎が多くなり、さらに年齢が高くなるにしたがって関節炎などが加わって、より複雑な様相を呈する傾向がみられます。発熱の頻度は高いですが、高熱となることは少ないようです。
症状の中で最も多いのが腹痛で、特に右下腹部痛と嘔気・嘔吐から虫垂炎症状を呈する割合が高く、 虫垂炎、終末回腸炎、腸間膜リンパ節炎などと診断される場合もあります。腸管感染であるにもかかわらず、頭痛、咳、咽頭痛などの感冒様症状を伴う割合が比較的高く、また、発疹、紅斑、莓舌などの溶連菌感染症様の症状を示すこともあります。
■Y. pseudotuberculosis による感染もまた乳幼児に多くみられます。発熱は殆ど必発であり、比較的軽度の下痢と腹痛、嘔吐などの腹部症状がこれに次ぎます。発疹、紅斑、咽頭炎もしばしば観察されます。さらに、頭痛、口唇の潮紅、莓舌、四肢指端の落屑、結膜充血、頚部リンパ節の腫大、肝機能異常、肝・脾の腫大などが認められます。少数例には心冠動脈の拡張性変化のほか、二次的自己免疫的症状として関節痛、腎不全、肺炎、および結節性紅斑などが認められることもあります。このあたりの症状が川崎病と非常に似たものとなります。
治療 |
エルシニア以外の細菌性腸炎でもいえることですが、感染性胃腸炎は抗菌薬を使用しなくても基本的には自然治癒に近い経過をとります。抗菌薬の使用に関しては、(1)腸内の正常細菌叢を抑制することで排菌が延長する、(2)偽膜性腸炎などの抗菌薬関連下痢症の発症、(3)耐性化の問題があることが指摘されています。また、現時点ではエルシニアに対する抗菌薬の有効性は確率されていません。したがって、エルシニア腸炎や腸管膜リンパ節炎のみでは、基本的には抗菌薬の適応はありません。
川崎病の診断基準を満たす場合、アスピリンやガンマグロブリン大量療法を含めた治療管理が必要となりますが、エルシニア感染症を認めない川崎病に比較しその治療効果は低いとされています。
反応性関節炎に対しては、非ステロイド性抗炎症剤、関節内ステロイド、理学療法も行います。 その他、発熱、腹痛、下痢などに対しては、必要に応じて輸液などの対症療法を行います。
予防 |