>医療法人 啓眞会 くにちか内科クリニック

高齢者糖尿病

2017年10月

 

 

 

日本人の糖尿病患者の推移

 

 厚生労働省は国民の身体の状況、栄養摂取量及び生活習慣の状況を明らかにし、国民の健康増進を総合的に推進するための基礎資料を得るため、平成9年より毎年「国民健康・栄養調査」を実施しています。さらに、平成24年以降は4年毎に拡大調査を行っています。平成28年10~11月に行われた拡大調査結果が平成29年9月21日に公表されました。

 

 過去1~2カ月の血糖状態を示す「HbA1c:ヘモグロビンA1c」を測定し、HbA1cが6.5%以上を「糖尿病が強く疑われる者」、HbA1cが6.0~6.4%を「糖尿病の可能性を否定できない者」として全国に当てはめて推計しています註1、註2)

 

 「糖尿病が強く疑われる者」(以下、糖尿病患者)の割合は12.1%、男女別にみると男性16.3%、女性9.3%でした。推計患者数は1000万人となり、調査を始めた平成9年の690万人から右肩上がりで推移しています。厚生労働省は有病率の高い高齢者人口の増加とともに、運動不足や食生活の乱れなどで肥満が増えているのが原因と推察しています。

 

 「糖尿病の可能性を否定できない者」(以下、糖尿病予備群)の割合は12.1%、男女別にみると男性12.1%、女性12.1%でした。推計予備群数は平成19年の1320万人をピークに減少し、平成28年は平成24年よりも100万人少ない1000万人となっています。厚生労働省は平成20年度から始まった特定健康診査(メタボ健診)などによる予防効果が出ていると推察しています(図1)。

 

 

 

 

高齢者の糖尿病

 

 糖尿病患者は、男性では全体で16.3%、50代12.6%、60代21.8%、70歳以上23.2%。女性では全体で9.3%、50代6.1%、60代12.0%、70歳以上16.8%でした。

 

 糖尿病予備群は、男性では全体で12.1%、50代11.1%、60代12.5%、70歳以上18.8%。女性では全体で12.1%、50代9.7%、60代15.2%、70歳以上20.2%でした。

 

 糖尿病患者と予備群を合わせると、男性では全体で28.5%、50代23.7%、60代34.0%、70歳以上42.0%。女性では全体で24.3%、50代15.8%、60代27.2%、70歳以上37.0%でした。男女合わせると、60代で3割前後、70歳以上で4割前後の人が糖尿病または予備群ということになります(図2)。

 

 

 

 

高齢者の糖尿病

 

 加齢とともに膵β細胞は老化しインスリン分泌は低下してきます。それに加え、内臓脂肪量の増加や筋肉量の減少、身体活動(運動量)の低下のためインスリン抵抗性が増大し糖尿病の頻度が増加してきます(図2)。

 

 高齢者糖尿病とは65歳以上の糖尿病のことをいい、若い人とは異なる特徴があります。特に、75歳以上の後期高齢者ではその傾向がより強くなり、合併症や併存疾患だけでなく身体機能、認知機能、社会・経済状況など患者個人により大きく異なっています。

 

■食後高血糖

 加齢によるインスリン追加分泌の低下も加わり食後高血糖が増強します。一方、夜間や空腹時の血糖上昇は軽度であることが多いとされています。

 

 また、高齢者は高血糖時に口渇・多飲・多尿などの自覚症状に乏しいため、気がつかないうちに高血糖は進行し脱水を引き起こし容易に糖尿病昏睡となることがあり注意が必要です。

 

■低血糖

 

 

  高齢者では低血糖が起こりやすくなっています。しかもその際、警告症状註3)でもある発汗・動悸・冷汗・手の震えなどの自律神経症状が出現しにくく無自覚低血糖となりやすい傾向があります。さらに、頭重感・フラフラ・めまい・脱力感、ろれつが回らない・目がかすむ・意欲低下・せん妄などの非典型的な低血糖症状を示すことが多く、低血糖が見逃され重症の低血糖を起こしやすくなります。

 

 1回の低血糖発作で転倒による骨折や慢性硬膜下血腫、脳血管障害、狭心症・心筋梗塞、不整脈、突然死の誘因になることもあります。重症低血糖は認知症・心血管疾患発症・死亡の危険因子です。高齢者では1回の重症低血糖でも認知症のリスクとなります。また、慢性の低血糖では人格の変化や記銘力低下など、一見すると認知症やうつと間違えそうな症状が出現することがあります。そのような場合、家人や周りの人が認知症うつによるものと思い込み、しばしば誤った対処をしている場合があり注意が必要です。

 

 このように高齢者の低血糖は発見・診断が困難です。しかも重篤な合併症に繋がってしまいます。そこで平成28年5月、日本糖尿病学会と日本老年医学会は合同で「高齢者糖尿病の血糖コントロールの目標(HbA1c)」を発表し、若壮年者より緩めにするよう勧告をしています(後述)。

 

 

■認知機能低下・認知症

 

 糖尿病患者では糖尿病がない人と比べて、アルツハイマー型認知症が1.5~2.0倍、血管型認知症が2~3倍起こりやすいとされています。また、認知症の前段階である軽度認知機能障害も起こりやすく、特に注意力・記憶力・学習能力・遂行機能(実行機能)などの障害が多く認めらます。

 遂行機能(実行機能)註4)次の認知機能であり、セルフケア(自己管理)の障害に繋がります。その結果、糖尿病治療を困難にして高血糖を招き、高血糖は遂行機能障害をきたすという悪循環を形成します。遂行機能障害は高血糖(HbA1c7.0%以上)と関連します。また、認知機能障害が重症になるにつれ、重症低血糖のリスクも高まります。(☞ 院長の独り言 2017年6月号)

 

 

■うつ(うつ病、うつ傾向)

 尿病では「うつ」(うつ病、うつ傾向)になりやすく、また逆に「うつ」があると糖尿病になりやすくなります。糖尿病ではインスリン治療の導入や服薬管理、食事制限・運動などのセルフケアが求められます。これらがストレスとなりうつを発症することもあります。また、うつになると運動不足や服薬管理などのセルフケアができなくなるなどして、糖尿病が悪化するといった悪循環を形成します。

 

 高血糖(HbA1c7.0%以上)や低血糖はうつの危険因子です。高齢者糖尿病では、この傾向がより強く、不眠・体重減少・全身倦怠感・痛みなどの身体症状や引きこもり・物事への興味関心の消失などがある場合は、うつを発症(併発)している可能性があり注意が必要です。

 

 

 

■身体機能の低下、骨折・転倒、サルコペニア、フレイル

 

 高齢者糖尿病では筋肉量の減少や筋力低下により身体能力が低下し、ADL(日常生活動作)低下註5)転倒・骨折、サルコペニアフレイルに陥りやすくなります。これらは糖尿病悪化へと繋がり悪循環を形成します。(☞ 院長の独り言 2017年8月号、9月号)

 

 

■腎機能・肝機能障害

 

 高齢者では腎機能が低下しています。糖尿病の合併症である腎症は腎機能低下をさらに進行させます。SU薬註6、ビグアナイド薬註7)、一部のSGLT2阻害薬註8)、DPP4阻害薬註9)、グリニド薬註10)は腎排泄型の薬剤のため、腎機能が低下した糖尿病患者では腎臓からの薬の排出が遅れ薬物の蓄積が起こり、薬の副作用が出やすくなります。

 

 また、肝機能も加齢と共に低下していき、薬が蓄積しやすくなり副作用が出やすくなります。特に、SU剤註6)は他の薬と併用すると作用が増強され低血糖を起こすことがあるので注意が必要です。

 

 

■多彩で個人差が大きい合併症

 

 糖尿病患者は糖尿病網膜症・腎症・神経障害などの細小血管症、足病変、動脈硬化による虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)や脳血管障害(脳梗塞)、感染症、歯周病、認知症など様々な合併症を持っています。また、以前より糖尿病と高血圧、脂質異常症などの生活習慣病は互いに合併しやすいという事はよく知られていました。実際のところ、糖尿病患者の多くはこれらの病気を併せ持っています。さらに、高齢糖尿病では心不全、サルコペニア、フレイル、転倒・骨折、がんを発症しやすくなっています。

 

 これらの合併症は高齢になればなるほど合併症の種類も重症度も増していきます。さらに、個人差が大きいため、個々に合わせた対応が必要となってきます。

 

 

■多剤併用

 

 高齢者糖尿病では糖尿病がない人と比べて、合併症や併発症を持つ場合が多く、薬の種類や量(数)が多くなる(多剤併用)傾向があります。多剤併用は服薬アドヒアランス註11)の低下をもたらし、高血糖や低血糖、転倒のリスクを上昇させます。高齢者糖尿病では5剤以上服用している多剤併用が多いとされます註12)

 

 

■社会・経済状況

 

 高齢者糖尿病の治療は社会・経済状況の悪化により困難となります。とくに、認知症があり独居で介助者のサポートがない場合はより一層困難なものとなります。

 

 

 

 

まとめ

 

 平成28年の厚生労働省の国民健康・栄養調査よると、「糖尿病が強く疑われる者」(糖尿病患者)の割合は12.1%(推計患者数1000万人)、「糖尿病の可能性を否定できない者」(糖尿病予備群)の割合は12.1%(推計予備群数1000万人)であった。

 

 糖尿病または予備群と考えられる人は加齢とともに増加し、その割合は男性で60代34.0%、70歳以上42.0%。女性で60代27.2%、70歳以上37.0%であった。男女合わせると、60代で3割前後、70歳以上で4割前後の人が糖尿病または予備群となる。

 

 

高齢者糖尿病の特徴

  • 食後高血糖になりやすい
  • 口渇・多飲・多尿などの高血糖症状が出にくい(気づきにくい)→ 糖尿病昏睡に注意
  • 低血糖になりやすい
  • 低血糖症状が出にくい(気づきにくい)、かつ非定型的のことが多い → 重症低血糖になりやすい
  • 重症低血糖は認知症、心血管疾患、死亡のリスク
  • 慢性の低血糖は認知症と誤解されやすい
  • 認知機能障害、認知症やうつになりやすい → 糖尿病悪化 → 悪循環形成
  • 身体機能の低下により転倒・骨折、サルコペニアやフレイルになりやすい → 糖尿病悪化 → 悪循環形成
  • 多彩で個人差が大きい合併症を併せ持つ(糖尿病は合併症のデパート)

   小血管障害(網膜症、腎症、神経障害)、足病変

   動脈硬化性疾患(狭心症・心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症)

  • 個人差が大きい
  • 身体的・精神的・心理的あるいは社会経済的問題を持つことが多い

 

 

 

目次 戻る 次へ