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沖縄クライシス

2017年3月

 

 

沖縄クライシスとは?

 

 2000年頃より「沖縄クライシス」が問題となっています。この沖縄クライシスとは次のどれでしょうか?

 

①  普天間基地移転などで揺れる沖縄基地問題

②  米軍が沖縄で起こした飛行機やオスプレイの事故問題

③  尖閣諸島をめぐる中国との問題

④  沖縄県人の健康問題

 

 

 

 

沖縄クライシス

 

 沖縄は長い間、世界に冠たる長寿の島として知られていました。5年毎に行われている厚生労働省の調査によると、沖縄県の男性の都道府県別平均寿命は1985年に1位、1995年に4位でした。それが、2000年には一気に26に転落してしまいました。一方、女性は1985~2005年まで都道府県別平均寿命1位を維持していましたが、2010年には3位に転落。男性も落ち続けて2010年には30位となってしまいました(表1)。

 

 医学・栄養学関係者は、この健康長寿社会の急速な崩壊を「26ショック」、または「沖縄クライシス」と呼び、その原因究明に乗り出すこととなりました。

 

 

 特に問題とされるのは、高齢者を除いたときの平均寿命の短さです。65歳未満の中高年に限れば2005年に全国一の短命県となっています(表3)。それでも、2005年時点で平均寿命が全国25位に留まっているのは、それを押し上げている長寿の高齢者の力によるためです(表2)。現在の沖縄の平均寿命を押し上げている高齢者が亡くなれば、沖縄全体でも平均寿命最下位の県となるでしょう。

 

 

かつての沖縄が長寿であった理由

 

 65歳以上の高齢者に限れば、平均余命(平均寿命)は沖縄クライシス以降でも男女共全国一位を保っています(表2)。それは、65歳以上の高齢者は伝統的な沖縄の食習慣や生活習慣を現代に至るまで守って生活しているためだと考えられています。その伝統的な食習慣や生活習慣とは、次のようなものです。

  • 戦前の沖縄の食事は非常に質素で主食も白米を常食にする人はまれ。多くは繊維質が豊富な芋であった。
  • 日本一少ない塩分摂取量。温暖な気候で漬物のような保存食を作る習慣(文化)がない。
  • 「ひずめと鳴き声以外は全て食べる」と言われる豚肉は下茹でをして脂を落としている。
  • 野菜や海藻、魚、豆腐などの大豆食品をよく食べている。
  • 腹八分目の食事。
  • 生涯現役。とにかく体を動かす。
  • のんびりした陽気な性格。「なんくるないさー」(何とかなるさ)の精神。

 

 

 

 

65歳未満の死亡者の割合

 

 65歳以上の高齢者の平均余命(平均寿命)が全国一なのに対して、65歳未満の中高年(いわゆる働き盛り)の死亡率は全国一です(表3)。この正反対の結果は一体何を意味するのでしょうか? 65歳未満の中高年と65歳以上の高齢者には、別の生活環境・習慣があると考えるのが自然ではないでしょうか。

 

 

 

沖縄クライシスの原因

 

■沖縄は日本一の肥満県

 平成22年厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、BMI25以上の肥満者は男性では45.2%、およそ2人に1人が肥満でした。最も少ない山口県の2倍にも上ります。肥満は当然、糖尿病や高血圧、メタボの原因や増悪因子となります。

 

 

 

かつて、沖縄は全国一糖尿病による死亡が少ない県でした。それが1995年には全国8位、2000年には2位。そして、ついに2005年には全国1位になっています(表4、5)。

 

 

■食習慣の変化

 戦後アメリカの占領下となった沖縄には、食においてもアメリカの影響を強く受けるようになりました。米軍の軍用食料から供給されたコンビーフなどの肉加工品が大量に沖縄にもたらされ、急速に食の欧米化が進みました。ハンバーガー、ホットドッグ、ピザ、タコスといったアメリカ的な食べ物が日本本土より早い時期から普及しました。1963年には、東京・銀座へのマクドナルド進出より8年も早くファストフードのA&Wが沖縄でオープンしています。

 

 アメリカ的食品は高カロリーで悪質な油を使ったジャンクフードに結びつきます。肥満大国のアメリカを見れば容易に想像がつくと思います。沖縄名物Aランチ。コンビニの人気商品ウチナー弁当。ボリュームたっぷりで油・脂とAGEs(終末糖化産物)まみれです(院長の独り言:2014年8~10月号)。

 

 こういったアメリカ的な食文化が根付いた沖縄では、特に若い世代に大きな変化をもたらし、昔ながらの沖縄料理を食べる機会が減っていきました。戦後に生まれた世代で現在60歳以下の人たちは、子供の頃からこのような食糧環境で育っています。

 

 

 

 沖縄県民の脂肪摂取量は全国に比べて約5%も多いとのことです。他県ではお酒を飲んだ後の締めには、通常はそば・うどんやラーメンなどです。しかし、沖縄県では、なんと脂たっぷりのステーキなのだそうです。

 

 なお、沖縄県民の脂肪摂取と中高年の早死に関しては異論もあるようです。特に、低糖質ダイエットの有効性を主張するグループからは反論が出ています。

 

 彼らの主張はこうです。「高脂肪食が原因であるなら、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患による死亡が増えるはず。しかし、実際には増えていない。沖縄の中高年の死亡率が高いのはアルコール多飲による肝疾患や自殺のためで高脂肪食とは関係はない。」(表5)

 

 最近、この問題は糖尿病学や栄養学にとって大きなディベート(大論争)となっています。詳しくは別の機会に…。

 

 

■車社会による運動不足

 那覇市の中心部にはモノレール(ゆいレール)がありますが、他の地域には鉄道がありません。したがって、移動手段は車かバスが主流で、典型的なアメリカ的車社会です。

 買い物に関しては、近隣の小店舗が減少し大型店に替わっています。したがって、交通手段はほとんどが車となり、「歩く」という行為が著しく少なくなっています。暑さが厳しく、タクシー料金が安い沖縄では、他県より気軽にタクシーを使うそうです。中には、子供の頃から通学の足代わりにもタクシーを使う家庭もあるとか…。

 

 

 

 

 

ジャパン・クライシス?

 

  現在、日本人の平均寿命は順調に伸びています。2016年に発表された2015年の日本人の平均寿命は男性80.79歳、女性87.05歳で、いずれも過去最高を更新しています。ただし、国際比較では2012年以来世界1位だった女性が香港に抜かれて2位、男性も3位から4位に順位を下げています。

 

 もし、沖縄で起きていることが日本全国に波及したら…。一体どのようなことになるのでしょうか? ジャパン・クライシスに突入するかもしれません。さすがに、世界最下位ということにはならないでしょうが、大きく順位を下げることでしょう。今、沖縄で起きていることを「他山の石」とする必要がありそうです。

 

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