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たかが便秘、されど便秘 便秘薬の使い方(1)

2016年11月

 

 

便秘人口は?

 

 慢性便秘症の頻度は海外では0.7~79%と幅が広い報告があります。それを統計的に検討すると中央値の16と報告されています。


 一方、我が国の厚生労働省の国民生活基礎調査によると、便秘の有病率は男性2.60%、女性4.87%(全体3.78)となっています。年代、性別にみると若年層では女性に多く明確な性差があります。60歳を超えると男女ともに加齢に伴い増加傾向で、男女差が消失します(平成25年厚生労働省)。

 

 

 海外の約16%と比べると、我が国の3.78%(男性2.60%、女性4.87%)は余りにも少ないといえます。これはアンケート調査による回答であるため、①医学的には慢性便秘の人でも便秘と自覚していない、②便秘が日常化してしまい深刻に考えていない、あるいは③便秘であることが恥ずかしくて隠す、という事が影響しているのかもしれません。したがって、潜在的な便秘人口は調査の数字よりもっと多いと考えるべきでしょう。一説では1000万人はいるであろうとのことです。

 

 実際ある民間の調査によると、30~40代の女性の50%以上が「自分は便秘体質だと思う」と回答しています。

 

 また、別の調査によると、一般の人の10~20%が便秘を訴えており、医療機関で処方を受けている10~20%が便秘治療薬の処方を受けていると報告もあります。

 

 このように便秘はきわめて有病率の高い疾患であり、治療が必要な患者さんが多い疾患といえます。

 

 

満足度の高い排便とは

 

 慢性便秘は根治することは困難です。しかし、コントロール可能な疾患です。

 

 便秘で悩む方の多くは完全に元の状態に戻ることを期待します。一方、医師の多くは毎日排便があることが治療のゴールと考え、ただ薬(いわゆる下剤)を処方する傾向があります。

 

 しかし、真のゴールは患者さんの排便困難(怒責、、残便感、頻回便、肛門の閉塞感)の消失にあります。

 

 

排便の力学

 

 糞便が直腸に到達し直腸の壁を拡げることにより便意が生じます。その結果、トイレに行き一連の排便行為が行われます(院長の独り言 第36号 平成28年7月)。その際、力学的に排便がしやすい便の形状にすることが重要です。

 

 便秘で悩む方の多くは小さくて硬い〈兎糞状〉の便の方が排便しやすいと勘違いされているようです。しかし、便は小さければ小さいほど、硬ければ硬いほど排便しにくいのです。したがって、排便しやすい便としては適度の軟らかさと大きさを持った便です。水様で下痢の便はかえって排便困難であり、1回で排便できないため頻回便となります。小さくて硬い兎糞状の便は排便にかなりの押し出しが必要で、努責しなければ排便でません

 

 

 

 

各便秘薬の特徴と使い方

 

 前回の院長の独り言で大黄、センナ、アロエなどの大腸刺激性下剤であるアントラキノン系の下剤の乱用が頑固な便秘の原因であると書きました(院長の独り言 第39号 平成28年10月)。

 

 ただし、すべての下剤が便秘の原因となる訳ではありません。また、アントラキノン系の下剤も短期に限って補助的に使用するのであれば有効な薬です。

 

 では、便秘治療薬にはアントラキノン系以外には、どのようなものがあるのでしょうか?便秘の治療には、実に様々な薬が使用されています。

 

■緩下剤

 

●塩類下剤…酸化マグネシウム

 わが国で最もよく使われる緩下剤です。便を膨張軟化させ、排便しやすくする作用があります。薬代も安く最初に使われるべき薬の一つです。

 

 ただし、高マグネシウム血症による重篤な副作用が報告されており、高齢者や腎機能障害のある方では減量を含め検討する必要があります。

 

●浸透圧下剤…ラクツロース

 胃、小腸で分解・消化されることなく大腸に達し、大腸内の腸内細菌により発酵分解され乳酸・酪酸などの短鎖脂肪酸を発生して腸内の浸透圧を高めて水分の腸内への移動をおこします。さらに、短鎖脂肪酸やラクツロースより生産された水素やメタンガスが大腸を刺激して蠕動運動を亢進させる働きもあります。

 
 このように優れた作用のあるラクツロースですが、現在の日本では小児の便秘や産婦人科術後、肝硬変による高アンモニア血症にしか保険適応がなく、現実的には使用しにくい薬です。

 

●膨張性下剤…ポリフル、コロネル(ポリカルボフィルカルシウム)

 ポリカルボフィルカルシウムは胃酸の影響をうけカルシウムが外れポリカルボフィルになります。ポリカルボフィルは中性である小腸から大腸では高い吸水性と保水性を示し、水を吸って膨潤・ゲル化します。

 水分が多い下痢状態では水分を吸収し下痢状態を改善します。一方、水分が少ない便秘状態では小腸から大腸前半で保持した水分により便の水分量を増やし、便を適度な硬さに保つ働きがありあます。


 このように、下痢と便秘に効果を発揮するというユニークな薬です。ポリフルは水分を吸収し膨張する薬ですので、腸管内容量が増加するため腹部膨満を生じる場合があります。また、水を多めに飲む必要もあります。

 

■上皮機能変容薬

 

●アミティーザ(ルビプロストン)

 腸管の上皮に作用して腸管内への水分の分泌を増加させ腸管内容を増大、軟化させ腸管内の通過を促進します。空腹時に服用すると悪心・嘔吐をきたすこことがあります。さらに、10%位の例では効き過ぎのため下痢が出現することもあります。


 酸化マグネシウムのような電解質異常をきたしにくく、併用薬の禁忌が少ない下剤です。また、エビデンスレベルが非常に高く、効果が科学的に立証されています。ただし、妊婦には使用できません(禁忌)。

 

●リンゼス(リナクロチド)

 リナクロチドは、腸管上皮細胞表面に存在するグアニル酸シクラーゼC受容体に結合し、①腸管内の水分分泌を促進し便通の改善、②cGMPが求心性神経の痛覚過敏を改善し腹痛・腹部不快感を改善します。

 

 ただし、現在のところ便秘型過敏性腸症候群にしか保険適応がありません。将来的には、慢性便秘に対して適応を取得する可能性があるそうです。

 

■大腸刺激性下剤

 センノシド、大黄、アロエなどのアントラキノン系の大腸刺激性下剤は非常に強力ですが、連用すると効きにくくなり(薬剤耐性)、癖になってしまいます(習慣性)。時に、精神的依存や精神異常をきたすこともあります。


 このため、排便が数日なく困った状態に陥った時に屯用として使用されるべき薬です。通常の便秘薬、すなわち大腸刺激性下剤以外の便秘薬で、効果が乏しい時や旅行などで環境が変わり便秘状況が悪化した時に限り使用するようにしましょう。


 逆に、便秘というだけで漫然と刺激性下剤を毎日服用することは厳に慎む必要があります(院長の独り言 第39号 平成28年10月)。

 

■座薬、浣腸

 直腸まで便が降りてきているのに便意が起こらないタイプの便秘(直腸性便秘)に有効です。健常者では直腸内に便が充填されると、直腸壁の進展刺激により便意を催します。この感覚が下剤の乱用などにより鈍麻すると便秘となります。

 

●重曹座薬

 直腸内で溶解すると二酸化炭素を発生し直腸壁を強く刺激して便意を感じて排便を促します。

 

●テレミンソフト

 大腸刺激性成分の入った座薬です。

 

●グリセリン浣腸

 医療機関でキシロカインゼリー等を塗布して肛門部を愛護的に扱えば非常に有用です。しかし、患者さんが自己使用する場合は乱用により肛門部の裂傷や、習慣性を生じる場合もあります。

 

■漢方薬

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便秘薬の使い方

 

 我が国の慢性便秘の治療の特徴は過剰ともいえる大腸刺激性下剤の乱用にあるといえます。とくに若い女性における下剤の乱用が問題となっています。平成25年度の厚生労働省の国民生活基礎調査において、便秘で悩む人の30%は一般医薬品、いわゆる市中の薬局で販売している便秘薬を使用していると報告されています。そして、その多くが刺激性下剤だとのことです。

 

 また、医師が処方する下剤の多くも刺激性下剤です。なぜならば、即効性で確実な効果が得られるからです。そのような下剤でなければ患者さんは満足しません。そのため、患者さんの要求を受け入れ、ついつい刺激性下剤を処方する傾向があります。

 

 快便とは、毎日ほぼ決まった時に気持ちよく便が出て、その後お腹がスッキリし残便感がないことです。慢性便秘で悩む方の「快便」のために最も必要なことは刺激性下剤からの脱却といえるでしょう。

 


■そのための下剤の基本的な使い方は以下の通りです。

 

  • 排便時の状態を把握する。特に、便の形状(ブリストル便形状スコアー)を的確に把握する(院長の独り言 第38号 平成28年9月)。

  • まず、塩類下剤(酸化マグネシウム)、膨張性下剤(ポリフル、コロネル)や分泌性下剤(アミティーザ)などの緩下剤を使ってみる。これらの下剤には即効性はありませんが、便を軟らかくして排便しやすい状態に整えてくれます。

  • 緩下剤でどうしても出ない時や辛い時に限り、刺激性下剤を併用する。ただし、漫然と使用しないこと。

  • 便意が乏しい場合でも、便形状が正常化していれば基本となる緩下剤は効いています。この場合、便意がないことに対して重曹下剤や浣腸などで直腸を刺激して排便リズムの正常化を図ります。

 

 

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