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2014年5月号
地中海食とエクストラバージン・オリーブオイル
南イタリヤやギリシャの地中海沿岸の住民の脂肪摂取量は、他の北欧諸国と変わらないとされています。それにも関われず、この地域の住民は「コレステロール値が低く、心臓病などの冠動脈疾患が少なく、長寿者が多い」と言われていました。その理由が「この地方特有の食事(地中海食)にあるらしい」と分かり、世界的な研究が続けられていました。
オリーブオイルを多く含む地中海食を食べている人は、摂取カロリー量の制限や運動の推奨を行わなくても「糖尿病の発症リスクを低下させる」ことができる。こんな大規模臨床試験の結果が発表されました。
スペイン、王立カルロス3世研究所のJordi Salas-Salvado氏らによる研究です。心疾患リスクが高く、非糖尿病の55~80歳の男女3,541例を3つのグループに無作為に分け、約4年間追跡調査しました。その間、減量や運動に関する指導は特に行っていません。
*1)試験期間中はナッツ類とエクストラバージン・オリーブオイルは民間企業より無償で参加者に提供されています。
追跡期間中に273人が新たに2型糖尿病を発症しました。その内訳はオリーブオイル群で80例、ナッツ群で92例、低脂肪食群で101例でした。糖尿病リスクに影響する他のリスク因子を調整した結果、オリーブオイル群では低脂肪食群に比べ糖尿病リスクが約40%低下していました。ナッツ群でもリスクは18%低下していたが、統計学的に有意ではありませんでした。
この研究誌の論説委員の一人は、同報告について「グッドニュースだ。食物構成の変化で糖尿病リスクを低下させられることが示唆されるほか、地中海食は健康に恩恵をもたらすというエビデンスの一端になるともいえる」と解説しています。また、「理論的には地中海食にカロリー制限や運動を追加すればさらに予防効果が上がる可能性がある」ともコメントしています。
地中海食とは
地中海食の定義には様々なものがあります。一般的には、次のようなものをいうことが多いようです。
*2)この臨床試験に使われたオリーブオイルは通常のオリーブオイルではありません。エクストラバージン・オリーブオイルです。
エクストラバージン・オリーブオイルとは
種子や果実から採取される植物油の多くが加熱工程や溶剤抽出工程を経て得られています。しかし、オリーブオイルは種ではなく、実の果肉を絞って濾過しただけで加熱処理や化学的処理を行わずに得ることができます。これが本来のオリーブオイルで、バージンオリーブオイルといいます。
オリーブオイルの種類
オリーブオイルには様々なものがあります。大きく3つのグループに分けることができます。バージンオリーブオイル、精製オリーブオイル、オリーブオイルです。これらはどう違うのでしょうか?
① バージンオリーブオイル…機械的な加工(粉砕や圧搾等)以外に一切の化学的な処理を行わずに抽出されたオリーブオイルです。エクストラバージンオイル、ファインバージンオイル、オーディナリーバージンオイル、ランパンテバージンオイルにランク付けされています。
② 精製オリーブオイル…ランパンテやバージンオイルの搾りカスを精製(還元・脱色・脱臭など)したもの。酸度は0.3%以下が義務づけされて。味も香りもなく、このままでは食用には適しません。
③ オリーブオイル…精製オリーブオイルにバージンオイル(ランパンテは除く)を混ぜることによって食べられるようにしたもの。主成分は精製されたオリーブオイルで、バージンオリーブオイルのような栄養価値はありません。
*3)酸度:オリーブオイルの酸化の度合いを表す。低い方が高品質とされる。
*4)官能試験:オイルのテイスティングのこと。オイル鑑定家が十数名で銘柄を隠したブラインドテスト方式でテイスティングしその結果を集計した平均値がオイルの評価となる。
*5)日本で食用として販売されているオリーブオイルは「エクストラバージンオリーブオイル」と「オリーブオイル(ピュアオリーブオイル)」のみ(上表の赤字)。
*6)オリーブポマスオイルはオリーブオイルとは表記できないが販売は可能。注意が必要です。
オリーブオイルの効果
オリーブオイルの効果―オレイン酸
オリーブオイルには酸化されにくい1価不飽和脂肪酸(n-9系)であるオレイン酸が豊富に含まれています。オレイン酸は善玉コレステロール(HDL-C)を下げずに悪玉コレステロール(LDL-C)を下げる効果や過酸化脂質の発生を抑える効果があります。動脈硬化や心筋梗塞などの心臓病予防、血液サラサラ、高血圧・食後の高血糖を防ぐ、消化機能を助ける、便秘の改善、など様々な効果があります。
エクストラバージンオリーブオイルの効能
① エクストラバージンオイルは粉砕や圧縮など物理的処理のみで作られています。一切の化学的処置は行われていません。また、その中でも高品質なものは可能な限り加熱処理も加えません。その結果、微量成分と呼ばれるトコフェロール(ビタミンE)、100種類を超すポリフェノール類等の強力な抗炎症作用と抗酸化作用をもつ物質を豊富に含んでいます。すなわち、オリーブの実の「生搾りジュース」ともいえるものです。
最近では、エクストラバージンオイルが持つ優れた効能はオリーブオイルの主成分オレイン酸によるものより、これらの微量成分の働きによるものの方が大きいと考えられるようになってきています。
② オレオカンタール…エクストラバージンオイルから発見されたポリフェーノル類の一つです。喉の奥でピリピリとした刺激の成分です。風邪薬として有名なイブプロフェン(ブルフェン、イブ、…)と同じような抗炎症作用があります。昔からイタリア・スペインでは風邪を引いたときオリーブオイルを飲む習慣がありますが、理にかなったことでした。さらに大切な効能として抗酸化作用があります。
③ オレオカンタール以外にも強力な酸化防止=抗酸化作用をもつポリフェノール類が豊富に含まれています。これらの微量成分のほとんどがオリーブオイルを品質劣化から守る天然の防腐剤として働きます。同時に、人の体の様々な組織を活性酸素の害から効果的に守ってくれています。
これらの抗酸化作用は動脈硬化やアルツマイマー病の予防になります。また、がん細胞増殖抑制効果もあり、日本人に多いと言われる大腸がんや、乳がん、子宮がん、前立腺がんなどの予防に効果があると言われています。
エクストラバージンオリーブオイルとオリーブオイルの違い
通常のオリーブオイル(ピュアオリーブオイル)は化学的な処理と加熱処理がされた精製オイルが主成分です。抗酸化成分は破壊されて含まれていません。したがって、エクストラバージンオイルと比べるとオイルの劣化が早く始まります。それは同時に、私たちの体の酸化(=老化)を防ぐ効果も乏しいことを意味します。
確かに、ピュアオリーブオイルは一般に販売されている植物油と比較すれば、体に悪いリノール酸(*7)の含有量は比較的少なく、体によいオレイン酸が多いという利点はあります。しかし、それ以外の点では一般の植物油となんら変わりはありません。
*7)n-6(ω-6)系脂肪酸であるリノール酸は摂取後、悪玉脂肪酸のアラキドン酸に代謝される。必須脂肪酸ではあるが、摂り過ぎるとアレルギー疾患、動脈硬化、がんの原因になるとされる。紅花油、コーン油、大豆油、ひまわり油などの一般的な植物油に多く含まれている。
エクストラバージンオリーブオイルの使い方
エクストラバージンオイルは高温で長時間加熱すると特有の風味が飛んでしまします。さらに、抗炎症作用や抗酸化作用を持つデリケートな微量成分も破壊され飛んでしまいます。したがって、低温非加熱で生食用としての使用が原則です。ただし、炒めものでも上手に使うとよい結果がでます。
しかし、高温でじっくり揚げる場合などではもったいないし、また逆効果になることがあります。ピュアオリーブオイルを使った方がよいとされています。
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