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たかが便秘、されど便秘 PartⅡ(その1)

 

 

たかが便秘?

 

■たかが便秘「便が固く、強くいきまないと出ない」「排便後もすっきりせず、まだ残っている感じがする」「お腹が張って苦しい」「便意はあるのになかなか出ない」…。こんな思いや経験をした方はいませんか? しかし、「市販の便秘薬を飲めば出る」「いつも使っている」「こんなものだろう」…。

 

■されど便秘これまでは、便秘はQOL(生活の質)を低下させるだけの疾患と考えられてきました。しかし、近年の研究により、便秘は単に「困った症状」だけではなく「死亡率を上昇させる」「心血管イベントのリスク」「慢性腎臓病のリスク」と考えられるようになってきました。

 

■たかが便秘、されど便秘(Part Ⅱ)慢性便秘の患者数は1,000万人以上と言われております。2017年10月に、「慢性便秘症診療ガイドライン」が作成されました。そのガイドラインによると便秘とは「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。「たかが便秘、されど便秘(PartⅡ)」では、便秘について再考してみたいと思います。

 

 

プレスリーの死因は便秘だった?

 

 エルヴィス・プレスリー(Elvis Aron Presley)。全世界でレコード・カセット・CDなどを累計で6億枚以上売り上げ、「世界史上最も売れたソロアーティスト」と称されるアメリカのミュージシャン。彼は1977年8月16日、42歳の若さでこの世を去っています。彼は自宅のトイレで心臓発作のため亡くなったとされています。

 

■死因に関する様々な噂

 その心臓発作の引き金となった原因に関しては様々な憶測や噂があります。①片頭痛、緑内障、肥満、肥大型心筋症を引き起こす遺伝子異常説註1)、②過食症や不眠のため睡眠薬や鎮静剤の過剰摂取による不整脈が誘発されたという薬物依存説 、③ドーナツ(ジャンクフード)食べ過ぎ説、④便秘説などですが、真偽のほどは分かりません。

 

 彼の晩年の主治医を務めた医師ジョージ・ニコポウラス博士は、死因には便秘が関係していたのではないかということを明らかにしています。博士によると「エルヴィスが処方薬の誤用で不整脈を持っていたのは事実だが、慢性の便秘にも悩まされていた」そうです。便秘による強い「いきみ」で心臓発作を起こしたのではないかと推察しています。

 

註1)エルヴィスの美容師の友人から手に入れた彼の髪の毛をDNA解析した結果、片頭痛、緑内障、肥満を引き起こす遺伝子の変異のほか、心臓が厚くなって心筋が弱まる「肥大型心筋症」を引き起こす変異が見つかったという。ただし、その髪の毛がエルヴィスのものであるという確証はない。

 

 

 

 

便秘の人は早死にする

 

 ある米国の医学論文によると「便秘の人は早死にする」そうです。1988年から1993年の間にミネソタ州オルムステッド郡に住む過敏性腸症候群(IBS)、慢性便秘、慢性下痢、ディスペプシア(消化不良)、腹痛などの機能性消化器症状を有する人から無作為に選ばれた5,265人に消化器症状評価アンケートを郵送。アンケートに回答し調査可能であった3,933例を対象とし、2008年までの生存状況を行政の死亡記録により確認し、消化性機能障害と生存率の関連を検証した1)

 

 各機能性消化器障害と生存率との関連は以下の通りでした。過敏性腸症候群6%(HR =1.06,95%CI:0.86-1.32)、慢性下痢3%(HR = 1.03,95%CI:0.90-1.19)、腹痛9%(HR =1.09,95% CI:0.92-1.30)、消化不良8%(HR = 1.08,95% CI:0.58-2.02)と生存率の低下を認めていますが、統計学的な有意差はありませんでした註2)しかし、慢性便秘では23%(HR=1.23,95%CI:1.07-1.42)と統計学的に有意な生存率の低下を認めています(図1、2)。

註2)95%CIが「1」を跨ぐ場合は有意差なし(例えば、過敏性腸症候群では0.86~1.32)。「1」を跨がない場合は有意差

あり(慢性便秘では1.07~1.42)。

 

 

 

■考察

  • オルムステッド郡の人口と約90%が白人であったため、他の人種には適応されない可能性がある。
  • 観察された過剰な死亡が大腸癌による二次的なものによる可能性がある。しかし、この研究では大腸癌をはじめとする消化管癌との間に関連はなかった。
  • 便秘の症状が一般的な健康状態のバロメーターであり、基礎となる併存疾患を反映している可能性がある。生存率の低下は実際には便秘自体ではなく、これらの要因による二次的なものの可能性がある。しかし、①重大な病気を持つ個人が郵送物からベースラインで除外されたことを考えると、この議論を結果に適用することは困難であるかもしれない、②CCIを通じて併存性を調整したにもかかわらず、関連が有意であり続け、③10年間の生存率は、いずれかの交絡のない被験者と比較しても、便秘を持つ人では依然として有意に低かった。
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■結論

  • 機能性消化器症状のうち過敏性腸症候群、慢性下痢、ディスペプシア、腹痛と生存の間には有意な関連はなかった。
  • 慢性便秘を有する群は生存率が低かった。

 

 

便秘と死亡リスクと心血管イベントリスク

 

 慢性腎臓病(CKD)のない(推定糸球体ろ過率、eGFR≧60 mL/min/1.73m)米国の退役軍人3,359,653人の全米的コホートです。2004年10月1日から2006年9月30日の間に登録された患者を、2013年まで便秘と全死亡率、冠状動脈性心疾患(CHD)と虚血性脳卒中の発症との関連を調べています2)

 

 3,359,653人のうち、237,855人(7.1%)が便秘を有すると同定され、観察期間中に597,780人(17.8%)が死亡しました。年齢調整モデルでは便秘患者は便秘のない患者より死亡率が1.62倍高かった。人口統計、流行した併存疾患、薬物療法、社会経済的地位に対する多変数調整の後、便秘を有する群は便秘を有さない群に比べて、全死亡率(危険度HR)が12%高く(HR=1.12, 95% CI:1.11-1.13)、虚血性心疾患(CHD)と虚血性脳卒中の発生率がそれぞれ、11% (HR= 1.11, 95% CI:1.08-1.14)、19% (HR=1.19, 95% CI:1.15-1.22)高かった(図3)。

 

 

 

 下剤を服用する患者の全死亡率は、1剤服用で15%(HR=1.15,95%CI:1.13-1.16)、2剤以上服用で14%(HR=1.14,95%CI:1.12-1.15)高くなっていた。 虚血性心疾患の発生率は1剤服用で11%(HR=1.11,95%CI:1.07-1.15)、2剤服用で10%(HR=1.10,95%CI:1.05-1.15)、虚血性脳卒中の発症率は1剤服用で19%(HR=1.19,95%CI:1.14-1.23)、2剤以上服用で21%(HR=1.21,95%CI:1.16-1.30)高くなっていた(図4)。

 

 

■考察

  • 米国の退役軍人によるコホートは2%が男性で、女性は6.8%のみであった。従って、女性には適応されない可能性がある。
  • 便秘は糖尿病などの様々な既知の心血管リスク因子に関連づけられている自律神経機能不全の代理と考えることができる。便秘は単に健康状態が悪いという全身的な指標となり、それによる心血管疾患の発症に関与した可能性がある。
  • 排便時のいきみによりバルサルバ様呼吸註3)が繰り返され「排便失神」を引きおこし心臓・脳の虚血を誘発する可能性がある。潜在的な心血管イベントのより高い発生率に関与しているであろう。

註3)息こらえなどで胸腔内圧が上昇し迷走神経が刺激され、血圧低下や脈拍数減少がおきる現象。

 

■結論

  • 便秘状態と下剤の使用は、既知の心血管危険因子とは独立して全死亡リスクおよび虚血性心疾患と虚血性脳卒中の発症リスクを高めた。
  • この結果は、アテローム硬化性心血管疾患の病因に対する便秘の潜在的な影響の可能性を惹起する可能性がある。
  • 便秘患者では心血管性合併症を注意深く観察する必要があるのかもしれない。

 

 

文献

 

  1. Chang JY et al: Impact of Functional Gastrointestinal Disorders on Survival in the Community, Am J Gastroenterol. 105: 822–832.2007
  2. Sumida K. et al: Constipation and risk of death and cardiovascular events. Atherosclerosis 281: 114–120.2019