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AGEsと糖尿病

2014年9月

 

 

糖尿病とレガシー効果

糖尿病の合併症

 糖尿病は5年、10年、20年と長い年月をかけて徐々に進行する病気です。放っておくと3大合併症と呼ばれる神経障害、網膜症、腎症など細い血管の障害が生じます(細小血管障害)。ひどくなると、網膜症による失明、腎症による腎不全から血液透析が必要となることがあります。

 また、糖尿病は動脈硬化を進行させ脳梗塞心筋梗塞など、場合によっては命にかかわる合併症を来すことがあります(大血管障害)

糖尿病患者は10年早死にする

 糖尿病患者はこれらの合併症により、糖尿病ではない人と比べると男性で10年、女性で13年早死にするとされています(堀田饒 日本糖尿病学会 2007年)。

糖尿病とレガシー効果

 しかし、糖尿病が発症しても早い時期から血糖値をきちんと管理してヘモグロビンA1c(HbA1c)を低めに安定させると、上記のような合併症は起こらず糖尿病をもっていない人と同じように「健康で長生き」できることが分かってきました。

 英国でおこなわれたUKPDS(英国前向き糖尿病研究)とよばれる大規模臨床試験です。新たに2型糖尿病と診断された患者を2つのグループに分け10年間介入試験をしています。一方のグループはより「厳格な血糖管理」を行い(強化療法群)、もう一方のグループには従来通りの「緩やかな血糖管理」を行いました(従来療法群)。試験期間中のHbA1cは強化療法群で7.0%、従来療法群では7.9%と強化療法群の方が0.9優れていました。

 10年後の結果は次の通りでした。従来療法群と比べて強化療法群では、網膜症や腎症などの細小血管障害の発生率はそれぞれ12%と25%低く抑えられました。心筋梗塞などの大血管障害の発症や全体での死亡率は16%と6%と低下傾向はありました。しかし、統計的には明らかなものではありませんでした(有意差なし)

 その結果は皆を落胆させるに十分なものでした。10年も頑張って厳格なコントロールをしたのに、死に直結する可能性のある心筋梗塞や全体での死亡率では統計的に明らかな効果が証明されなかったのです。

 

 

 
 期待された結果が得られなかったため、その後の追跡調査が行われました。UKPDS研究中に介入を受けた2つのグループは、その後は特別な区別せず通常の治療に戻しました。飲み薬やインスリンなどの治療法は主治医と患者が自由に決めることができました(UKPDS 80)。

 その結果、追加の観察研究を始めた1年後には両グループ共にHbA1cは7.1%となり、その差はほとんどなくなりました。そして、その後も同じような状態が続いていました。

 ところが、UKPDS後の観察研究(UKPDS 80)の10年後には明らかな差が見られています。すなわち、過去のUKPDS試験での強化療法群は従来療法群に比べて心筋梗塞が15%、死亡率が13%低下していたのです。そして、統計学的にも正しいと推論できるものでした(統計学的に有意差あり)

 これは、糖尿病発症の早い時期から良好な血糖を管理すれば、その後の心筋梗塞や死亡のリスクが抑えられることを意味します。

 言い換えると、次のようになります。「糖尿病を出来るだけ早期に発見して、早期に治療を開始し、血糖値やHbA1cを良好に保つことができれば、初期のよい効果はその後も持続する。そして、その後の合併症や死亡率を抑えることができる」「初期のよい効果(遺産)が持続する」という意味でレガシー効果Legacy Effect(遺産効果)と呼ばれています。

糖尿病のレガシー効果とAGEs

 レガシー効果は何故起きるのか? 実のところ、そのメカニズムはまだよく分かっていません。最近、これをうまく説明できそうな物質が注目されています。その物質はAGEs(最終糖化産物)です。

 AGEsとは前号で説明した通りタンパク質にぶどう糖などの糖が引っ付き(糖化)、変性した最終糖化産物です。それが体に沈着して老化や様々な病気の原因になります。この反応は「加熱」により加速されます。

 

 体内でのAGEsを考える場合、2つのポイントがあります。一つは血糖値です。糖尿病ではインスリンの働きが低下し「血糖値」は上昇します。体内に糖がたくさんある、すなわち、血糖値が高ければ高いほど糖(ぶどう糖)はタンパク質に多く引っ付くことになり、AGEsは多く作られます。

 もう一つは「時間」です。血糖値が高い状態が長く続けば続くほどAGEsは多く作られます。糖尿病は一定期間以上持続的に血糖値が高くなった状態です。すなわち、AGEsの量は「どれだけ高い血糖値にどれだけ長時間さらされたか」により決まってきます。次の式で表すことができます。

 

AGEsの量 = 血糖値 × 持続時間

 

 血糖値と持続時間を掛けた値が大きいほどAGEsが多く作られます。すなわち、糖尿病でコントロールが悪い状態が長く続くほどAGEsの量は増えます。そして、ツケのように溜まっていきます。糖尿病の人は、まさに「AGEsが多く溜まった人」ということができます。

Bad Legacy Effect

 体の中で溜まったAGEsは極めてゆっくりとしか代謝されません。そして、長時間体の中に残り悪影響を与え続けます。糖尿病と診断された直後より適切なコントロールがなされないと、体内でAGEsが多く作られ溜まっていき様々な合併症を引き起こします。

 初期に良い状態でコントロールするとAGEsの産生がおさえられ、そのよい効果(遺産)はその後も長く記憶されます。しかし、初期のコントロールが不良だとAGEsは多く産生されてしまいます。そして、例えその後良好な血糖管理をしても悪い効果(負の遺産効果)として残ってしまいます。

 最近ではLegacy Effectの本質をより明確に表現したBad Legacy Effect(悪い遺産効果)あるいはNegative Legacy Effect(負の遺産効果)という呼び方も提案されていています。

     

                                                                                                  

糖尿病患者さんは骨が折れやすい

 これは以前から知られていた事実です。しかし、糖尿病の人の骨密度は案外低くないことが多いようです。むしろ高いことが多いくらいです。骨の強度の尺度である骨密度は低くないのに骨が脆い。これは一体どういうことなのでしょうか? これも糖尿病とAGEsの関係で説明ができるようです。

 

骨の強度(骨強度)は骨密度(骨の量)と骨質によって決まる

 骨を鉄筋コンクリートの建物に例えてみましょう。骨強度が建物の強度(耐震強度)、骨密度がコンクリート、骨質が鉄筋に相当します。すなわち、よい材質の鉄筋とコンクリートをケチらずに使うことにより強度のある建物が出来上がります。鉄筋やコンクリートの材質が悪かったり、ケチったり、劣化すると建物の強度が低下します。骨でいうと骨粗鬆症です。

 鉄筋に相当するのが骨の重量の20%、体積の50%を占めるコラーゲンです。カルシウムを中心としたミネラル成分がコンクリートに相当します。

善玉架橋と悪玉架橋

 建物の鉄筋はにより相互に結合され鉄筋の強度が保たれます。鉄筋が強くても梁の材質が悪いとか、しっかりと繋ぎ合わされていないとかすると鉄筋構造はグラグラします。この梁に相当するのがコラーゲン結合架橋です。

 コラーゲン架橋はコラーゲン同士を秩序だって繋ぎとめ適度な弾力を保ちながら骨強度を強める「善玉架橋」と、無秩序に結合し骨を過剰に硬くして陶器のように脆くしてしまう「悪玉架橋」に分類されます。悪玉架橋は梁のみならず鉄筋本体(コラーゲン)やコンクリートの質や強度まで低下させてしまいます。

 

 この悪玉架橋の本体はAGEだということが分かってきました。すなわち、糖尿病の状態がある一定期間以上続くとAGEsが増産され骨粗鬆症になってしまう訳です。

 

 

コラーゲンは寿命が長いタンパク質

 体内の組織・細胞は様々なタンパク質でできています。その寿命は様々です。例えば、赤血球に含まれるヘモグロビンの寿命は約4か月です。AGE化されたヘモグロビン(グリコヘモグロビン:HbA1c)もいずれは代謝され新しいものに入れ替わります。

 それに対して、目の水晶体のタンパク質(クリスタリン)は一生入れ替わりません。AGE化したタンパク質により水晶体を白濁し白内障を引き起こします。

 体のタンパク質の約3割を占めるコラーゲンも寿命が長いタンパク質です。一度出来てしまったAGE化したコラーゲンは長い間体に留まり悪影響を与え続けます。コラーゲンのAGE化による影響は骨粗鬆症以外にも動脈硬化肌の老化があります。

 

補足

 糖尿病とAGEsが関係する状態や病気には骨粗鬆症以外にも下記のものがあります。

 動脈硬化(脳梗塞、心筋梗塞)、白内障、細小血管障害(糖尿病神経障害、網膜症、腎症など)、認知症(アルツハイマー病)、がん

 

 これらについては別の機会に触れたいと思います。

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