>医療法人 啓眞会 くにちか内科クリニック

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脂肪細胞の秘密(その1)

2015年2月

 

 

  京の七条あたりに金貸上げ(高利貸し)の女がいた。非常に裕福で、美食・大食を続けたため、肥満してしまった。あまりに太りすぎたので、立居振舞から歩行までも困難であった。侍婢(付き添いの女性)に助けられても汗を流し、あえぎながら歩くさま、その苦しみようは大変なものである。

 

 

脂肪は「邪魔もの」 vs 「働きもの」?

 

 上の鎌倉時代のお金持ちの「肥満した女性」。この女性に関しては、脂肪は明らかに「邪魔もの」でしょう。肥満は「万病のもと」といわれています。高血圧、脂質異常、糖尿病、メタボ、動脈硬化の原因となります。さらに、その動脈硬化が原因で脳卒中や狭心症や心筋梗塞を引き起こします。この様に「邪魔もの」扱いの脂肪です。そして、「目の敵」にもされています。

 

 しかし一方で、動物である私たち人間にとって、脂肪は「なくてはならない」ものでもあります。もし、体の脂肪がゼロの人がいたらどうなるでしょうか? 確かに、体脂肪率が一桁代で無駄な脂肪がそぎ落とされた、みごとな体型の人がいます。羨ましい限りです。しかし、皮下脂肪にしろ、内臓脂肪にしろ、全くのゼロではありません。脂肪ゼロだと生命を維持することは不可能でしょう。

 

脂肪の働き

 

 脂肪および脂肪細胞には、次の5つの働きがあります。

①   断熱材 ②衝撃吸収 ③エネルギー貯蔵 ④ネバネバ・ドロドロ血液から守る ⑤アディポサイトカイン分泌

 

① 断熱材

  皮下脂肪は寒い冬、外気から身を守る断熱材として働きます。もし、冷たい海に棲む哺乳動物、アザラシやイルカ、クジラなどに皮下脂肪がなかったらどうなるでしょう? 容易に想像がつくと思います。

 よく言われる、「太った人」は寒さに強く、「やせた人」は弱いと言う現象。これも、皮下脂肪で説明がつきます。

 

② 衝撃吸収

  もし、あなたに皮下組織や皮下脂肪が全くなかったとします。あなたは机の角にお腹を強くぶつけました。どうなるでしょうか? 青あざでは済まないでしょう。傷ができ、ひどい時は血管が切れるかもしれません。場合によっては、内臓を傷つけるかも知れません。このように、皮下脂肪は外部からの衝撃に対してクッションの役目をしています。

 

 

 

③ エネルギー貯蔵

 食物に含まれる炭水化物、タンパク質、脂質は消化・吸収され、エネルギー源となります。また、それぞれ体にとって大切な働きをします。

 余ったエネルギーはグリコーゲンや脂肪として貯蔵されます(*)。お腹が空いた時、あるいは食糧がなく飢餓状態の時、溜め込まれた脂肪はエネルギー源として利用され、命を維持することができるのです。
*:植物はでんぷん油脂としてエネルギーを貯蔵。一方、動物はグリコーゲン脂肪としてエネルギーを貯蔵します。

 

 

④ ネバネバ・ドロドロ血液から身を守る

 早食いで大食いのAさん。時々、ドカ食いをします。そんな時は、さぞ血液中のぶどう糖の濃度(血糖値)は上昇していることでしょう。

 しかし、不思議なことにAさんの血糖値はあまり高くなってはいませんでした。こんなに食べたのに血糖値が高くならない! なぜでしょうか?

 食後に血糖値が急上昇するのを防いでくれるのが、肝臓や筋肉、脂肪組織です。これらの組織は血液中のぶどう糖を細胞内に取りこむことで、血糖値を下げます。取り込まれたぶどう糖は、肝臓と筋肉ではグリコーゲンと脂肪に、脂肪組織は中性脂肪に変換された後、貯蔵されます。

 特に、脂肪組織は中性脂肪をため込む能力が極めて高い臓器です。私たちにとって「邪魔もの」「目の敵」の脂肪組織。実は、体が「砂糖漬け」「あぶら漬け」になるのを防いでくれていたのです。

 ぶどう糖も脂肪も多すぎると、害(毒)になります。そうです! 脂肪組織は「働きもの」で「体の掃除屋」だったのです(*)。

*:血糖値が高くなり過ぎて色々な悪さをする状態を糖毒性、中性脂肪が高くなり悪さをする状態を脂肪毒性と言います。

 血糖値が高い状態(高血糖)は「砂糖漬け=血液ネバネバ」、脂肪やコレステロールが高い状態(高脂血症)は「あぶら漬け=血液ドロドロ」をイメージしましょう。

 

⑤ アディポサイトカイン分泌

 脂肪組織にはもう一つの大切な働きがあります。アディポサイトカインという生理活性物質を分泌することです。

 「アディポ」は脂肪、「サイトカイン」は生理活性物質を意味します。すなわち、「アディポサイトカイン」とは脂肪細胞から分泌される多彩な生理活性物質の総称です。

 アディポサイトカインには善玉悪玉があります。善玉にはインスリン抵抗性を改善し、動脈硬化を防ぐアディポネクチンがあります。

 

 悪玉には血栓を作りやすくするPAI-1、インスリン抵抗性を引き起こすTNF-αとレジスチン、血圧を上げるアンジオテンシノーゲンなどがあります。内臓脂肪の蓄積は、これらのアディポサイトカインの産生・分泌に異常を引き起こし、血液中の悪玉物質を増加させます。また、一方で善玉物質の血中濃度を低下させます。その結果、糖尿病や高血圧などの生活習慣病のリスクは高くなり、動脈硬化も直接的・間接的に進行してしまいます。

 

 

アディポネクチンは脂肪細胞に反比例

 

 動脈硬化を防ぐ作用のある善玉のサイトカイン、アディポネクチンは内臓脂肪の量に反比例します。すなわち、標準体重の人は善玉のアディポネクチンが多く分泌され、内臓脂肪が蓄積した人は少ないということが分かっています。

 

 内臓脂肪が多いということは、内臓脂肪細胞が満腹になったことを意味します。すると、内臓脂肪細胞は「ノー・サンキュー」と言って、悪玉のサイトカインを吐き出してしまいます。

 

 

脂肪細胞 O” のつぶやき

 

 

私のこと、「デブ」とか「疫病神」とか言っているあなた。

私のこと、もっとよく見て!

私は働きもの。あなたの食べ残し、すべて私が片づけます

それが、私の仕事…。

ただ、あなたが食べた分だけ、私の仕事は増えていきます。
そして、私はデブに…。

本当は、私だってスリムでいたい。
あなたを守るためにデブになっているの!

でも、あなたはそのことを分かってくれない。

そして、あなたは無理難題を押し付けます。

これ以上あなたを守りきれない。

だから、あなたに「殺し屋」を差し向けます。 
コードネームは、TNF-α、PAI-1、…。

 

 

 

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