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2015年1月
私をスキーに連れて行かないで!
「一緒にスキーに行きましょう」
それは、私が岡山県の病院で勤務医をしていた時の忘年会の席上でのこと。同僚の外科医からの誘いでした。
私の生まれは広島県尾道市。大学は岡山、職場は瀬戸内沿岸。この地域は数年に一度、5~10㎝位の雪が降ることはあります。しかし、それ以外には雪は全く降りません。いわゆる無雪地帯です。したがって、スキーとは無縁の生活でした。
交渉事は「食事や酒の席で…」とはよく言ったものです。食欲が満たされ、しかもアルコールでリラックスし、いい気分になっていると、通常なら断る話でも、ついついOKと言ってしまう様です。
「スキーとはどんなものか」と興味はありましたが、実際のところ「あまり気は進みませんでした」。しかし、いったん約束をした手前、断る訳にもいかず職場の日帰りのスキーツアーに出かけました。 |
二日酔いでの初スキー
前日から深夜2時頃まで、私を誘った友人と飲んでいました。完全に二日酔いです。朝6時頃出発し9時過ぎに鳥取県にある裏大山という小さなスキー場に到着。スキー場には「本当に雪があるのか?」と思いながらバスに乗っていたのですが、スキー場に近づくと不思議なことに雪が積もっていました。
スキー服は職場の看護師のご主人のものを貸してもらいました。スキー板、ブーツなどは勿論レンタル。吐き気を堪えながら雪の上に立ちました。
しかし、これからがまた大変なことでした。まず、平地では「前に進まない」、転けると「立ち上れない」。やっとのことでリフトに乗りました。降りると5mと行かないうちに「ポテッと横に転ける」。こんな状態で何とか下まで降り、2本目は「二日酔い」と「滑れない」ことでコースの横で大の字になって寝ていました。横を滑っている子供が「あのオジちゃんどうしたの?」と言っているのが聞こえてきました。しかし、二日酔いの私には「雪の上で寝ている」ことは大層気持ちのよいことでした。
友人の名誉のため言っておきます。勿論、最初に彼は初心者の私のために丁寧に指導をしてくれました。ただ、二日酔いのため、私の気持ちと体がついていかなかったのです。そのため、彼のレクチャーを途中で断ってしまいました。
まったく滑れず、しかも二日酔い。ただ、雪の上で寝ているだけ。これが私の「初めてのスキー」でした。しかし、無雪地帯に住む人間から見た「白銀の世界」。そして、その「非日常性と開放感」。これまで経験したことのないものでした。
これがその後の私の人生を変える出来事になるとは…。その時は、思いもしませんでした。
中国地方のスキー場事情
私がスキーを初めて教わったのは、今から30年位前、30代半ばでした。当時の中国地方のスキー場の多くのコースの長さは500~700m位。しかも、ほとんどがシングルリフトでした。
下手なスキーで下りてくると、リフト乗り場は長い行列か黒山の人だかり。待ち時間が30分位は当たり前。1日券を買っても「4~5本位滑って終わり」ということもありました。
日曜・祝日の日帰りスキーです。スキーとは「こんなものだ」と思っていました。
平日のスキー場は空いている
当時、私は週に一度ボスのシュライバー(*)として大学病院に行っていました。その年のボスの外来は月曜日。たまたま、ボスの都合で休診の時があり、日・月曜日とスキーをする機会に恵まれました。
ビックリしました。日曜日は大勢のスキーヤーであれほど混雑していたゲレンデ。月曜日になるとスキーヤーは激減し、リフトの待ち時間は「ほとんどゼロ」の状態でした。
初めて知りました。「平日のスキー場は空いている」
*シュライバー:医師のカルテ入力作業補助業務を行う人。医療クラーク、秘書とも言う。 |
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目からウロコが…
この「大発見」は2年目、通算4回目のスキーツアーの時でした。その時、初めてスキースクールに入り、スキーのイロハを教わりました。
もちろん、それまでは我流でした。スキー板を「ハの字」に開き、曲がりたいと思う方向の反対の脚でブレーキを掛ける様に突っ張っていました。緩斜面なら何とかなりました。しかし、すこし斜面がきつくなると限界があります。曲がれません。スピードのコントロールができません。さらに困るのが、やたら「足が疲れる」ことでした。
インストラクターは「それはあなたの滑り方!」と言い、突っ張るのではなく「板に体重を乗せる」ことを教えてくれました。
目からウロコが一枚落ちました。「スキー板を踏む」ということです。ただ、残念ながらこの手のウロコは一枚ではありません。私がまだ気が付いていないウロコは何枚も残っている様です。尤も、それが「ウロコ」というものなのでしょうが…。
なぜ、最初からスクールに入らなかったのか? 1日4~5本位しか滑れない、しかも年2回位の日帰りスキーツアー。限りなく時間が勿体なく思えたからです。 |
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野沢温泉
3年目。「平日のスキー場は空いている」という事に気がついた私は、予てよりの職場のスキー仲間の誘いであった、本格的なスキー場に行くことにしました。野沢温泉スキー場です。夜9時過ぎJR新大阪駅から寝台急行「ちくま」に乗り、翌朝5時半頃長野市に到着。そこからJR飯山線に乗り換え戸狩野沢温泉駅まで行き、さらにバスで野沢温泉スキー場まで行きました。
ビックリしました。中国地方のスキー場と比べると圧倒的な広さです。野沢温泉スキー場は全国第4位のコース面積でコース数は36です(※)。それまで経験したことのある最大のスキー場は鳥取県にある大山国際スキー場でした。野沢温泉スキー場と比べると面積は1/5、コース数は5。桁違いのスケールです。
初心者が泣いて喜ぶ上ノ平ゲレンデ。平らで広くて長いこと。全長2km、世界一のビギナーコースだそうです。
それに続く全長1.2kmのパラダイスゲレンデ。さらに、全長5kmにも及ぶ初心者用の林間コース。まさに初心者天国でした。
野沢温泉の看板。全長3.5kmに及ぶスカイラインコース。当然の事ながらまともには滑れませんでした。
超ハードで有名なシュナイダーコース。「あんなのは人間が滑るものではない!」と驚き、只々下から見上げるばかりでした。
さらに、もう一つのビックリ。土・日曜日でもさほど混雑しないのです。まさに驚きの連続でした。
※)スキー場ランキング(面積 コース数)…1位:志賀高原(425ha 79コース)、2位:上越国際(380ha 22コース)、3位:ニセコグラン・ヒラフ(325ha 35コース)、4位:野沢温泉(297ha 36コース)… ランク外:大山国際(61ha 5コース)
人生観が変わった
じつは、このスキーツアーに関して、私にはいささかの「後ろめたさ」がありました。それまでは、「医者というものは24時間365日、患者さんのためにあるべき」という教えを、「正しいこと、あるべきこと」と考えていました。
しかし、これで私の人生観は変わってしまいました。「医者だって人間だ。24時間365日というのは無理。出来る範囲で努力しよう」と。
そして、スキーと言う奥深いスポーツの入り口の前に立つことができました。また、その魅力の一部を垣間見ることもできました。しかし、この時点では入り口を見つけた段階で、まだその中には入ってはいなかった様です。
スキーの奥深さや真の魅力を知るのはまだ先のことになります。しかし、俗に言う「嵌まる」キッカケになったことは確かでした。
人間万事塞翁が馬
もし、忘年会で同僚が「スキーに誘ってくれなかったら」…。私はスキーというものを知らずにいたのでしょう。
もし、「ボスの月曜日の休診がなかったら」…。土日の混雑したゲレンデしか知らずにいたでしょう。そして、転勤と共にスキーのことは忘れてしまっていたでしょう。
もし、「野沢温泉に行かなかったら」…。本当のスキーを知らずにいたでしょう。
これらは「塞翁が馬」での「幸(福・吉)と不幸(災・凶)」ではないかも知れません。単なる偶然の出来事なのでしょう。
しかし、これらのどれか一つでも欠けていたら…。
おそらく、「北海道に来ることはなかったでしょう」。学会で札幌を訪れたことは何度かあります。しかし、ススキノで一杯やりそのまま帰っていました。
今、考えてみると…。この3つのことは、私にとっては「塞翁が馬」の前半部分に当たるものかも知れません。ただし、真の意味での「塞翁が馬」は後日の事です。その話は別の機会に…。
※)人間万事…の「人間」の読み方には2通りある様です。「じんかん」と読めば「世の中、世間」。「にんげん」と読めば「人生」という意味になるそうです。
スキーに感謝、そして乾杯!
現在、私は「RIレーシング」という社会人の競技スキークラブに所属しています。コーチは佐藤徳造氏。メンバーは30~70歳代で、職業もさまざま。「全日本マスターズ」優勝者、アルペンスキー「国体」出場者、スキー指導員やクラウン取得者もいます。一方、私の様に皆の「足を引っ張る」だけの輩もいます。
レベルや目標は人それぞれです。しかし、皆こよなくスキーが好きです。
私をスキーに導いた3つのキッカケに感謝! 一緒に北海道に付いてきてくれた家族に感謝! スキーに感謝、そして乾杯! この、素晴らしき仲間に乾杯! この、自然豊かな北海道に乾杯! |
スキーに興味のある方は、ぜひ↓のHPもご覧ください。
RIレーシングのホームページ → http://www.ri-racing.net/
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