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ここでは「すべてを見る」という意味で目隠しをしていない像です
糖質制限が老化を促す!? |
日本では、今まで様々なダイエット法が提唱されてきました。最近では「糖質制限ダイエット」が一大ブームとなっています。血糖値を低く抑えることができる。短期間で脂肪の減少(減量)が期待できる。糖尿病の改善や予防に効果的。様々な効果が謳われているダイエット法です。
東北大学大学院農学研究科の都築毅准教授らは、「糖質を抑えた糖質制限食を食べ続けると、体の老化を促し、健康に影響をもたらす恐れがあるかもしれない」との研究報告をおこないました。
3週齢の老化促進モデルマウス※1を1週間予備飼育後、20匹ずつの2グループに分け、片方には脂質、糖質、タンパク質のバランスが日本食に近い「通常食」、もう片方には、炭水化物を脂質とタンパク質に置き換えた「糖質制限食」で飼育し、その生存率や老化度などを比較しました。 |
糖質制限食群は、通常食群と比べ老化の進行が30%速くなり、平均寿命が20~25%短命でした。また、生後24週(ヒトの年齢で60歳頃)辺りから、皮膚の老化や脱毛などがひどくなり、毛並みの悪さも目立ちました。それに、背骨のゆがみまで見られました。
さらに、54週(ヒトの年齢で70代後半)に行った学習記憶能力のテストでは、通常食群に比べて30%ほど機能低下が見られました。脳の老化を促進させる過酸化脂質の量を調べると、通常食群に比べ、46%多いと判明しました。
この実験データから、厳しい糖質制限食を30年、40年と続けると、全身や脳の老化が進行すると考えられます。
これはマウスでの実験成果です。それを、そのままヒトに当てはめることはできないかもしれません。しかし、糖質制限のあり方に対し警鐘を鳴らす内容といえるかもしれません。
なぜこのような実験を行ったのか? 都築准教授は主に日本食の健康有益性についての研究を行い、1975年ごろの日本食が最も健康に良いという結果を得ました。当時の主食は主にご飯で、総エネルギーの大部分を炭水化物から得ていましたが、糖尿病になる人は今よりも少なかったそうです。その点に着目し、「現代では炭水化物を抜いた主食が流行り、糖質は健康にあまり良くないとされていますが、真実を確かめ正しい情報を提供したいと考えました」と語っています。
糖質制限を行ったマウスの老化が進んだメカニズムは? 未だ仮説の段階ではありますが、「オートファジー※2」の関与を検討中とのことです。オートファジーとは、酵母や植物、動物など、すべての真核生物に備わっている細胞内の浄化、リサイクルシステムです。
糖質を減らすとたんぱく質や脂質の割合が増えます。摂取したたんぱく質はアミノ酸に分解され、筋肉などに再合成されますが、実は一定の割合で不良品のたんぱく質ができ、それが溜まると老化を促進するのです。若いうちは筋肉の代謝が盛んで不良品が出にくく、それを分解するオートファジーと呼ばれる能力も高いのですが、年を取ると不良品が増え、分解能も落ちます。とくにアミノ酸の摂取が多いとオートファジーが抑制され、不良品のたんぱく質がたまりやすいことが分かっています。私はこのメカニズムは人間でも当てはまるのではないかと考えています」とのことです。
ただ、都築准教授は「糖質制限を否定するわけではない」とも述べています。今後は、糖質制限の度合いを4つのレベルに分けた実験や、オートファジーを抑制する詳細なメカニズムの解明、また、動物実験だけではなくヒトを対象にした実験でエビデンスの提示などを行いたい。「現在健康な人が今後も健康でいられるような食事のあり方をより良い方法で示したい。自分たちの研究だけでなく、さまざまな研究を組み合わせて、人々が最も知りたいと思うような真実を提供していきたい」と今後の展望・抱負を語っています。
※1)老化促進モデルマウス(Senescence Accelerated Mouse、SAM)は京都大学胸部疾患研究所の竹田らによって確立された純系マウス系統群。寿命が短く、色々な老化関連疾患が促進されて発症してくるため、多くの研究者によって老化の解析に用いられている。促進老化・短寿命を特徴とするSAMP(Senescence prone) 系統と、正常老化を示すSAMR(Senescence resistant) 系統からなる。
普通のマウスの寿命は2~3年であるが、SAMPマウスでは12ヶ月で既に、脱毛、背骨の彎曲、目の回りのただれなどの老化の徴候が顕著に現われている。SAMPの寿命は約18ヶ月。SAMRはSAMPの対照(コントロール)のマウスで遺伝的にSAMPと似ているが、正常な老化を示し2年以上生存する。ここではSAMPが用いられている。
※2)オートファジー(Autophagy、自食作用)とは酵母や植物、動物など、すべての真核生物(細胞内に核を持つ生物)に備わっている細胞内の浄化・リサイクルシステムのこと。細胞内の変性タンパク質や不良ミトコンドリア、さらには細胞内に侵入した病原性細菌などを分解して浄化することで、さまざまな病気から生体を守っている。また栄養状態が悪くなったとき、過剰なタンパク質を分解して、生存に必要なタンパク質にリサイクルする。
“Autophagy”の“auto“は「自己」、”phagy“は「食べる」というギリシャ語に由来。1963年にクリスチャン・ド・デューブ(1974年ノーベル生理学・医学賞受賞)により命名された。2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した東京工業大学栄誉教授の大隅良典氏がその仕組みを解明した。
糖質制限ダイエットを推薦する医師からの反論 |
我が国の糖質制限ダイエットを牽引する2人の医師からの反論です。
■山田悟医師(北里研究所病院糖尿病センター長)
朝昼夕1食当たりの糖質を20~40gに制限、1日10gのまでの間食がOK。1日70~130gの糖質の「緩やかな糖質制限」を推薦する医師。彼の主張は以下の通りです。
「話にならない」 記事はマウスの実験を根拠にしていますが、動物実験の結果はそのままヒトには当てはまりません。なぜなら、動物とヒトは代謝経路が異なるからです。たとえばネコはチョコレートに含まれるテオブロミンという物質を代謝できないため、チョコを食べると神経毒となり動けなくなります。だからといって私たち人類も、チョコを食べてはいけないと言えますか?
同様に、ヒトにはインスリン遺伝子が一つしかありませんが、マウスは2つ持っています。ヒトに比べ糖の処理能力が高い一方で、高脂質食には弱い性質がある。もし今回の実験結果をヒトに当てはめるなら、そのマウスがヒトのモデルとして適切か、エサが本当にヒトの食事を再現できているかといったことから検証する必要があるのです。それに今のところヒトを対象にした研究で、糖質制限で老化が進むことを示すデータは一つもありません。それどころか、血糖値、肥満、脂質異常症、血圧が改善し、メタボ解消になる可能性を示す研究がたくさんあります。それらを無視して、都合のいいデータだけで糖質制限の危険性を煽るのは大いに問題ありです。
■江部康二医師(高雄病院、理事長)
1食当たりの糖質摂取は20g以下、1日トータルで60g以下の「スーパー糖質制限」を推薦する医師。彼の主張は以下の通りです。
まず、東北大学大学院農学研究科のグループは根本的な間違いを犯しています。「そもそもマウスの食事実験の結果はヒトには当てはまらない。」という基本的なことをご存じないようです。
どんな研究でも手軽なので、マウスやラットが実験動物として使われやすいです。しかし、マウスやラットで糖質制限食(高蛋白・高脂肪食)の実験をすること自体が、根本的な間違いです。なぜなら、マウスやラットなどネズミ類は、本来の主食は草の種子(即ち今の穀物)です。草原が地球上の有力な植生として現れる鮮新世(510万年前)以降、ネズミ科の動物が出現して爆発的に繁栄します。510万年間、草原の草の種子(穀物)を食べ続けてきたネズミに高蛋白・高脂肪食を与えれば、代謝が破綻するのは当たり前です。ネズミの主食はあくまでも「穀物=低脂質・低蛋白食」なのです。ネズミは、「穀物=低脂質・低蛋白食」に特化して、消化・吸収・代謝システムが適合しているのです。
この実験は単純に、マウスの代謝に合わない(主食でない)糖質制限食(高蛋白・高脂肪食)をマウスに与えて寿命や老化を観察するという実験です。全ての代謝が狂って老化が進み寿命が短くなるのもいわずもがなです。例えば、ゴリラの主食は「棘の多い大きな蔓や大きな草」です。このように、超低脂質・低蛋白食が主食であるゴリラに糖質制限食(高蛋白・高脂肪食)を食べさせたら、代謝はガタガタになり、マウスやラットと同様、老化も進み、寿命も短くなるでしょう。この東北大学の実験は、わかりやすく言うとゴリラにステーキを食べさせるというイメージです。
糖質制限ダイエットとは |
糖質とは食物繊維以外の炭水化物の総称で、消化・吸収され体内でエネルギー源となる炭水化物のことです。エネルギー源となる栄養素は糖質以外に脂質、たんぱく質、アルコール(エタノール)があります。他の栄養素を制限せず、糖質だけを制限すれば確実に体重は減るという事に異論はないでしょう。
糖質制限ダイエットは「減らした糖質のエネルギー分を脂質やたんぱく質で摂った時でも体重が減る」という理論です。糖質制限ダイエットの最右翼グループは一定以上の糖質制限のもとでは、脂質やたんぱく質は幾ら摂ってもOKとさえ主張します。なぜ、このようなことが言えるのでしょうか?
糖質制限による減量の仕組みとしては、大きくは次の2つのことが考えられています。
1つ目は、糖質を制限すると、体内にある中性脂肪がエネルギー源として利用されることです。体の中で主なエネルギー源である糖(ぶどう糖)が足りなくなると、体内に蓄積されていた中性脂肪が分解され、ぶどう糖に変換されエネルギー源として利用されます。結果的に脂肪の減少(体重減少)につながります。
2つ目は、糖質を制限すると食後の血糖値の上昇が抑えられます。インスリンは血糖値の上昇に比例して分泌されるホルモンです。食後の血糖値上昇が抑えられるため、インスリンの分泌も抑制されます。インスリンは血糖値を下げるために血液中のぶどう糖を脂肪細胞に取り込み中性脂肪に合成するよう命令を出します。つまり、糖質制限によりインスリンの分泌量が少なくなれば、それだけぶどう糖が脂肪細胞に取り込まれなくなり、結果として太りにくくなるというわけです。
糖質制限ダイエットに関する基本的事項、疑問、論点 |
糖尿病や減量に対する糖質制限ダイエット。喧々囂々の肯定派、否定派、中間派。その基本的事項と疑問、論点となっていることを挙げてみます。
■種々の糖質制限ダイエット。その違いは?
■糖質制限、脂質制限、カロリー制限、あるいは地中海食、(伝統的)和食に関するエビデンス※3は?
■炭水化物と糖質、食物繊維とは?
■糖質の消化・吸収、代謝
■たんぱく質の消化・吸収、代謝
■脂質の消化・吸収、代謝
■腸内細菌のエサとなり第6の栄養素ともよばれる食物繊維。糖質制限で摂取不足にならないか?
■太る糖質vsやせる糖質
■制限した糖質の替わりに摂ってよいもの
■糖質制限はいつまで続ける?