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糖質制限ダイエットーその光と影(9)

長期の糖質制限食で死亡リスクが増加

 3つの減量食(低脂肪食,地中海食,低炭水化物食)の有効性および安全性を比較するDIRECT試験では、低炭水化物食は6か月から2年間という短期間では減量効果のみならず、代謝系因子に関しても望ましい効果が示されました。しかし、その効果は摂取エネルギー制限によるものなのか炭水化物摂取制限によるものなのかは、不明としかいえません(院長の独り言2019年8月号)。また、その後の4年間の観察研究によると、体重減少に関しては、糖質制限食は3群のうちで最も多い3kgのリバウンドが認められました(院長の独り言2019年9月号)。

 

 さらに重要なことは、低炭水化物食が脳・心血管疾患などの発症抑制や全死亡リスクの減少など、本来の目的ともいえる長期的な効果や危険性に関しては全く明らかになっていません。

 

長期の糖質制限食で死亡リスクが増加

 

 「糖質制限食(低炭水化物食)について長期的な効用は認められず、むしろ死亡リスクが有意に増加する」というメタ解析の結果を国立国際医療研究センター糖尿病研究連携部の能登洋氏らが米国の科学誌「PLOS ONE」オンライン版に2013年1月25日付で発表しました。原題は「Low-Carbohydrate Diets and All-Cause Mortality: A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Studies」。

 

 能登氏らはMedline、EMBASE、ISI Web of Science、Cochrane Library、ClinicalTrials.gov、医中誌を用いて2012年9月12日までの糖質制限食(低炭水化物食)、死亡率、心血管疾患をキーワードに検索を行った結果492報が該当。そのうち9報を精選しメタアナリシス※1)を行いました。

 

 総死亡については4つのコホート研究(6サブグループ)が解析対象となった(追跡期間5~26年)。227,216人(女性66%)のうち、総死亡者数は15,981人(5.9%)であり、糖質制限食の遵守は、総死亡に対する有意なリスクファクターであった〔調整リスク比1.31(95%信頼区間:1.08~1.59)、p=0.007〕。

 

※1)メタアナリシス(メタ解析)は複数の臨床研究のデータを収集・統合し、統計的方法を用いて解析する手法。

 また、心血管疾患死については3つのコホート研究(5サブグループ)が解析対象となった(追跡期間10~26年間)。249,272人(女性67%)のうち、心血管疾患死亡者数は3,214人(1.3%)であり、心血管疾患死に対して糖質制限食遵守は有意なリスクファクターとして認められなかった〔調整リスク比1.10(95%信頼区間:0.98~1.24)、p=0.12〕。心血管疾患発症については220,691人中5,081(2.3%)が発症。糖質制限食遵守は心血管疾患発症に対しては有意な発症抑制効果は認められなかった〔調整リスク比0.98(95%信頼区間:0.78~1.24)、p=0.87〕。

 

 能登氏らの研究結果は、糖尿病患者への影響は不明であるものの、糖質制限食の長期的な有用性は認められず、むしろ死亡リスクが有意に増加することを示唆した。米国糖尿病協会(ADA)のガイドラインにおいては「糖質制限食、低脂肪食、カロリー制限食、地中海食は短期間(2年まで)の減量には有効」と記述されており、能登氏は「短期間(2年まで)」と表記されていることが重要だと述べる。これは最近発表された2013年版においても変わっていない。すなわち、継続性や減量効果の持続性や長期アウトカムについては不明であったからだ。したがって、患者さんには「糖質制限食は短期的な(2年まで)減量効果や動脈硬化リスクファクターの改善効果があるものの、続けやすい食事療法ではなく、長期的には体重も戻りやすく生命の危険性の可能性もある」ことを伝えることが大事だとし、薬物治療を実施している糖尿病患者さんでは低血糖を回避するためにも、糖質制限食だけでなく、どのような食生活をしているかについて尋ねることも重要だと述べた。患者さんは食生活について(特にに遵守できていない場合)、主治医に自ら話したがらないことも多いので、医療スタッフが患者さんに尋ねることが、患者さんの食生活の把握には有効だとしている。

 

 

低炭水化物食と全死因および原因別死亡率

‐ 2つのコホート研究のプール解析 –

 

 プール解析(pooled multivariate analysis)とは複数の研究の元データを集めて再解析する方法のことです。ここでは米国の女性看護師と男性医療職専門家を対象とした2つの研究をまとめたプール解析を紹介します。

①Nurses ‘Health Study(NHS)

 

 1976年に設立された11の米国の州に住む30〜55歳の女性看護師121,700人のコホート研究です。26年間の追跡調査の期間中に12,555人の死亡(心臓血管病2,458人、がん5,780人)が確認されました。

②医療専門家のフォローアップ研究(Health Professional’ Follow-up Study、HPFS)

 心臓病、がん、糖尿病のない40〜75歳の男性医療専門職(足病医2、検眼士3、薬剤師、歯科医、および獣医)51,529人のコホート研究です。1986年に設立され20年間の追跡調査期間中8,678人の死亡(心臓血管病2,746人、がん2,960人)が確認されました。

 

 ※2)足病医(podiatrist):人の足についての専門医。診察に始まり、理学療法、生体力学、薬剤の処方、特別な靴やインソール処方、手術なども含めて足に起こるさまざまなトラブルを総合的に診る。欧米では一般的だが日本にはこの制度はない。

 ※3)検眼士(optometrist):眼の検査ができるが眼の薬の処方、手術などはできない。それらができるのはOphthalmologistと呼ばれる眼科医。

 

■食事の評価

 平均的食物摂取量は食物摂取頻度アンケート(FFQ)により炭水化物、たんぱく質、脂質摂取量が10段階に分類され評価されました。これらは高炭水化物食を基準とし、動物性のたんぱく質と脂質の摂取量が多い食事(動物ベース食)と野菜の摂取量が多い食事(野菜ベース食)に分けられました。下に男性医療専門職(HPFS)での各栄養素のエネルギー摂取量(kcal)と比率(%)を一例として示します。

■結果

  • 全死因死亡率

 全体的な低炭水化物食は全死因死亡では1.12倍とわずかに増加させていました。しかし、男性では動物ベース食は明らかに全死因死亡を増加させていました(1.19倍、p<001)。また、野菜ベース食は男女共に明らかに全死因死亡を減少させていました(男性0.81倍、女性0.79倍、男女0.8倍、p<0.01、図5)

  • 心血管疾患死亡率

 

 

 動物ベース食は男性では明らかかつ直線的に心血管疾患死亡を上昇させていました(1.23倍p<0.01)。野菜ベース食は男女とも心血管疾患死亡を減少させていました(男性0.81、女性0.71、男女0.8、p<0.01、図6)。

 

  • がん死亡率

 

 男性のがん死亡は全体的な低炭水化物食(1.32倍、p<0.01)と動物ベース食(1.45倍、p<0.01)で上昇させていました。しかし、野菜ベース食は男女ともがん死亡の減少にはつながっていませんでした(図7)。

 

 

■結論

  • 全体的な低炭水化物食は全死因死亡のリスクをわずかに増加させていた。
  • 動物ベース食は全体的な死亡のリスクを増加させていた。
  • 野菜ベースの低炭水化物食は全死因および心血管疾患死亡のリスクを減少させていた。
  • これらの結果は、低炭水化物食の健康への影響はタンパク質と脂肪の種類に依存する可能性がある。
  • 植物性のタンパク質と脂肪を含む食事は、動物性のタンパク質と脂肪を含む食事よりも好ましいことを示唆する。

 

 

 

 

 

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