>医療法人 啓眞会 くにちか内科クリニック

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がんを防ぐ ー 胃がん(その1)

 


胃がんの予知 ー ABC検診

 

「院長の独り言」より

 

日本人と胃がん


■がんは日本人の死亡原因の第1位

 

 日本人の死亡原因の第1位はがん(悪性新生物)です。3人に1人(28.5%)ががんで命を落しています。働き盛り(40~60代)に限ると40%ががんで死亡しています。また、生涯では2人に1人(男性62%、女性46%)ががんに罹るとされています(2012年 厚生労働省)。

 

 

■胃がんの死亡数、発生数(罹患数)

 

 日本は世界的に見て胃がんが多く発生する国です。現在、がんの部位別死因では第1位:肺がん(7万2千人)、第2位:胃がん(5万人)、第3位:大腸がん(4万2千人)(*)です。1997年までは第1位は肺がんではなく胃がんがでした(2012年 厚生労働省)。

 

 男女別にみると、男性では第1位:肺がん(5万2千人)、第2位:胃がん(3万2千人)、第3位:大腸がん(2万6千人)、女性では第1位:大腸がん(2万2千人)、第2位:肺がん(2万1千人)、第3位:胃がん(1万7千人)です。女性ではやや減少傾向ですが、男性では依然として横ばい状態です。

*大腸 = 直腸 + 結腸

 

 ただし、胃がんにかかる人(罹患数)でみると、男女合わせて第1位です。男女別にみると、男性では第1位(8万7千人)、女性では乳がん、大腸がんに次いで第3位(4万人)です(2010年)。

 

 生涯から見ると、男性では9人に1人、女性では18人に1人が胃がんにかかっています。

 

 

 

  

 

 

胃がんは予防できるか?

 

 

 集団検診の普及や診断法の進歩により、胃がんは早期に発見できるようになりました。また、治療法の進歩にもより完治することの多いがんとなりました。しかし、それにもかかわらず年間約5万人が胃がんで命を落としています。

 

 胃がんにならなければ胃がんで亡くなることはありません。すなわち、胃がんの予防ができれば胃がんによる死亡数を減少させることできる訳です。

 

 部位別発生数で第1位、死亡数で第2位の胃がんです。はたして、その様なことができるのでしょうか?

 

 

 

■胃がんのリスク因子

 

 胃がんのリスク因子に関しては、かなりの事が分かってきています。リスクを上げるものとして、ヘリコバクター・ピロリ感染、食塩、アルコール、喫煙、遺伝などがあります。一方、リスクを下げるものとして野菜・果物、緑茶などがあります。

 

 

 

 

胃がんの最大の原因ーピロリ菌
ピロリ菌10.gif

 

 ここでは胃がんとピロリ菌の関係について見てみたいと思います。

 

 胃がんの発症原因で最大のものがピロリ菌感染だと言われています。世界保健機関(WHO)の専門組織「国際がん研究機関(IARC)」は全世界の胃がんの約8割がヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の感染が原因であるとの報告書を発表しています(2014年9月)。

 

 この報告書によるとピロリ菌の除菌で胃がんの発生を3~4割減らせるとして、各国の事情に応じて、除菌による胃がん予防対策を検討するよう求めています。また、全胃がんの78%、特に日本人に多い噴門部(胃と食道のつなぎ目)以外の胃がんでは、89%がピロリ菌感染を原因とするとしています。

 

 また、我が国の厚生労働省の研究班の調査によると、ピロリ菌感染者はピロリ菌に感染していない人(ピロリ菌非感染者)に比べて約5倍位胃がんができやすいことが分かりました。また、過去の感染歴のある人は、ない人に比べ10倍位リスクが高いことも分かってきました(厚生労働省研究班、2006年)。

 

 

■ピロリ菌除菌と胃がん減少効果

 

ピロリ菌感染者のピロリ菌を除去することを除菌といいます。北海道大学の浅香特任教授らの研究により、ピロリ菌の除菌により胃がんの発生率が全体で1/3に減少することが明らかになってきました(浅香ら ランセット 2008年)。

 

 また、浅香教授の推定によると、除菌による胃がんの抑制効果は胃の萎縮が進んでいない若いうちほど大きく、男女とも30代までに除菌をすると、ほぼ100%胃がんの予防が可能だそうです。40代では男性93%、女性98%、50代では男性76%、女性92%、60代では男性50%、女性84%が予防できるとのことです。

 

 

■ピロリ菌の検査と除菌ができるようになりました

 

 これまでピロリ菌の除菌治療は胃潰瘍・十二指腸潰瘍や早期胃がんの内視鏡治療後などにのみ健康保険が適用されていました。しかし、ピロリ菌除菌による将来的な胃がん予防効果が証明されたことにより、2013年2月21日より慢性胃炎に対してもピロリ菌の検査と治療(除菌)が健康保険で認められました。

 

 ただし、健康保険で認められるためには内視鏡検査(胃カメラ)を受けることが必要です。

 

ABC検診

 

 ABC検診とは、ピロリ菌感染について血清ヘリコバクター・ピロリ(HP)抗体で、胃粘膜萎縮の程度について血清ペプシノゲン(PG)法で評価する検査です。その組み合わせで胃の健康状態や胃がんのリスクをA、B、C、Dの4段階に層別化します。A<B<C<Dと胃がんのリスクが高くなっていきます。

 

■ピロリ菌感染診断と胃粘膜萎縮診断

 

 ピロリ菌感染診断としては胃カメラを必要とする検鏡法・培養法・迅速ウレアーゼ試験があります。胃カメラを必要としない検査としては尿中抗体・血清抗体・便中抗原・尿素呼気試験があります。

 

 一方、胃粘膜の萎縮の程度を調べる検査は胃カメラによる方法と血清抗体法(PG法)があります。

 

ピロリ菌検査法とその特徴.png

 

 

 

■血液(血清)検査は苦痛なく一度に多くの検査ができる

 

 ピロリ菌感染と胃粘膜萎縮の程度の両者を、同時に一つの検査法で調べることができるのは、内視鏡検査(胃カメラ)と血液検査法(PG法)のみです。胃カメラはご存知の通り多少の苦痛を伴います。また、一度に多くの人の検査はできません。一方、血液検査は簡便で一度に多くの人の検査が可能です。

 

■ABC検診は胃がん検診ではない

 

 この様にABC検診は、現在または将来の胃がんのリスクを簡便に調べることができる検査です。すなわち、胃がんのリスク検診としては最適の方法です。

 

 だだし、この検診は胃がんになりすいかどうかを調べるものです。胃がんを発見し診断する検査ではありません。B群・C群・D群と判定された方は胃がんのハイリスク群です。精密検査として胃カメラを受けられることをお勧めします。

 

 A群と判定された方も症状のある場合は胃カメラを受けることをお勧めします。また、D群などが誤ってA群と判定される場合(偽A群)や、ピロリ菌除菌後の場合はA群と判定されること(E群)があり注意が必要です。詳しくは、あなたの主治医とご相談ください。

 

 

 

■ABC検診が適さない場合

 

 以下の場合には正しい判定が得られない可能性があります。ご注意ください。

 

1. 明らかな上部消化器症状のある方

2. 食道、胃、十二指腸疾患で治療中の方

3. ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療を受けた方

4. 胃切除された方

5. 腎不全の方

6. 胃酸分泌抑制薬服用中もしくは2ヶ月以内に服用していた方

 

■ABC検診の費用

 

 現在、ABC検診は健康保険の適応はありません。自費となります。一部の自治体や保険組合では公費の助成が受けられるところがあります。しかし、札幌市では今のところ公費助成の対象とはなっていません。一刻も早く公費助成の対象となることを希望します。

 

■当院でのABC検診の費用

 

 当院では2,500でABC検診を受けることができます。ご希望の方や関心のある方はスタッフにお尋ねください。

 

ピロリ菌に関しては下記ホームページもご覧ください

①   院長の独り言:胃がんの原因 – ピロリ菌 2013年12月号

②   診療科目→消化器内科→ピロリ菌 

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