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糖尿病とフレイル

2017年9月

 

フレイルとは

 

 フレイルとは高齢者の身体機能や認知機能が低下して虚弱となった状態を指し、要介護に至る前段階である「要介護予備群」に相当します。フレイルは生活の質を落とすだけでなく、さまざまな合併症をも引き起こします。しかし、フレイルは早期に発見し食事や運動などで適切に対応することにより、元の健康状態に戻ることができます。逆に、フレイルが進行し身体機能障害にまで至ると、改善が困難で簡単には元の健康状態に戻ることができません。

 

 フレイルという用語は海外の老年医学の分野で使用されている英語のFrailty(フレイルティ)」に対する日本語訳です。Frailtyに対応する本来の日本語は「虚弱」や「衰弱」です。しかし、虚弱や衰弱では「加齢に伴って不可逆的に老い衰える」、すなわち「元に戻らない」といった誤ったイメージを与えかねません。そこで、日本老年医学会は高齢者に起こりやすい「Frailty」に対し、「正しく介入すれば元に戻る」ということを強調するため、2014年5月英語のまま「フレイル」という用語を用いることを提唱しました(図1)。

 

 

 

 

フレイルになると

 

 フレイルになるとストレスに対して弱くなります。例えば、健常な人が風邪をひいても体の怠さや発熱を自覚するものの、数日すれば治ります。しかし、フレイル状態になっていると風邪をこじらせて、挙句に肺炎を発症してしまいます。さらに、転倒による打撲や骨折、入院などをきっかけにフレイルから寝たきりにもなってしまったりもします。フレイルになると7年間の死亡率が約3倍、身体能力の低下が約2倍増加するという報告もあります。

 

 フレイル状態に家族や医療者が早く気付き早く対応することができれば、フレイル状態から健常に近い状態へ回復させ、要介護状態に至る可能性を減らせることができます。

 

 

フレイルの原因

 

 フレイルは以下のような加齢に伴う心身の変化と社会的、環境的な要因が合わさることにより起こります。

  • 加齢に伴う活動量の低下と社会交流機会の減少(独居・閉じこもり)
  • 身体機能の低下(歩行速度の低下)
  • 筋力の低下(サルコペニア)
  • 認知機能障害(認知症)、抑うつ
  • 易疲労性や活力の低下
  • 慢性的な管理が必要な疾患(糖尿病、呼吸器疾患、心血管疾患など)
  • 体重減少
  • 低栄養
  • 収入・教育歴・家族構成(独居・貧困)

 

 

フレイルの進行

 

 フレイルの原因や進行の中核となるのがサルコペニアです。加齢に伴う変化や慢性的な疾患によってサルコペニアとなり、筋肉量・筋力の減少によって基礎代謝量が低下すると、1日のエネルギー消費量が減り、食欲が低下し、食事摂取量が減少して低栄養・低体重状態となります。

 

 また、サルコペニアによる筋力低下や骨粗鬆症は転倒・骨折を引き起こし、移動困難となり、筋力低下を加速させ、歩行速度の低下や活動度の低下に繋がります。

 

 さらに、サルコペニアによる易疲労性や活力の低下は身体機能の低下のみならず、認知機能の低下や抑うつなど精神的・心理的な問題を引き起こしたり、独居・閉じこもり・貧困などの社会的問題を引き起こしたりし、日常生活に支障をきたすようになります。

 

 これらの障害や問題により、益々エネルギー消費量は低下し、食事量が低下して、低栄養・低体重となる悪循環を繰り返しながらフレイルは進行していきます。これをフレイル・サイクルと呼びます(図2)。

 

 

 

糖尿病とフレイル

 

 糖尿病患者では糖尿病でない人と比べると、内臓脂肪が増えて筋肉量が減少しインスリンの働きが低下しています。また、その予備群の段階から身体活動量が減り、筋肉が減っている人が糖尿病になりやすいともいわれています。すなわち、糖尿病患者はフレイルの原因・進行の中核となるサルコペニアになりやすく、サルコペニアは糖尿病の血糖コントロールを悪化させます。このように糖尿病とサルコペニアはお互い悪影響を及ぼし合います。

 

 また、糖尿病があると骨粗鬆症になりやすく、筋力低下とも相まって転倒・骨折の危険性を増大させます。さらに、糖尿病による高血糖や重症の低血糖は認知症を引き起こします(図2)。

 

 

 

 

フレイルの診断

 

 フレイルの評価基準には様々なものがあり、まだ統一された基準はありません。そのなかで、2001年に米国のLinda Friedが提唱したものが多く用いられているようです。Friedの基準では下にあげた5項目中3項目以上該当した場合をフレイル1~2項目該当した場合はフレイルの前段階であるプレフレイル、該当項目が0の場合は健常または健康と判定します。

 

 

 

 

フレイルを簡単にチェックできる方法(フレイル・チェックリスト)

 

 Freidによるフレイルの定義は体重減少、疲れやすさの自覚、日常での活動量低下、歩行速度の低下、筋力(握力)の低下でした。ただし、この方法では歩行速度や握力測定が必要です。そこで、これらの検査を必要とせず、しかも日常生活状況から簡便にチェックできる方法を長寿科学振興財団が考案し厚生労働省が発表しています。

 

■指輪っかテスト

 フレイルの中核をなすサルコペニアをセルフチェックできる指輪っかテストです。東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢氏が考案しました。両手の親指と人さし指で輪を作り、ふくらはぎの一番太い部分を囲みます。このとき隙間ができると、筋肉量が少なくなっている、すなわちサルコペニアの可能性が高いとのことです。

 

 

■イレブン・チェック

 フレイルの診断基準には、筋力低下や体重減少などの身体的な側面に加えて、精神的な活力の低下も入っています。精神的にも活力が低下している人はフレイルの状態に陥りやすいのです。前述の飯島勝矢氏が考案した11項目からなる簡易フレイルチェック(イレブン・チェック)です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高齢者の筋肉強化には運動だけでなく栄養も必要

 

 フレイルを防ぎ健康を回復するにはどうすればよいのでしょうか? やはり、基本は運動食事です。

 筋肉を増やすためには有酸素運動が有用です。なかでもウォーキングがもっとも取り入れやすく、最低でも1日5,000~6,000歩を継続すると筋力の低下を防げるとされています。

 

 2000年から群馬県中之条町の65歳以上の高齢者5000人を対象として、ウォーキングと病気予防の関係についての調査が行われました。健康維持と病気予防のための具体的な歩数と中強度の活動時間は、歩数が1日平均8000歩以上、そのうち中強度の活動時間が20分以上含まれると病気予防に効果的であることが判明しました。認知症予防には1日平均で5000歩以上そのうち中強度の活動時間が7.5分以上含まれると効果的ということも分かりました。

 

 レジスタンス運動(筋トレ)にも筋肉量増加の効果があります。ジムなどでトレーナーの指導のもと筋トレを中心とした運動を行うと効果的です。また、家庭でもセラバンドというゴムのバンドを用いて安全に運動を行えます。

 

 レイルを防ぐためには栄養状態が悪化する前の食事面での早期介入も重要です。食事では筋肉のもととなるタンパク質の摂取がポイントとなります。厚生労働省によると推奨される1日のタンパク質摂取量は成人男性で60g、成人女性で50gです。ただし、高齢者では食後に誘導される骨格筋でのタンパク質合成が低下しています。そのため、高齢者ではタンパク質合成を促すためには、若年成人以上にアミノ酸の血中濃度を上げる必要があります。フレイル予防には1日75gのタンパク質の摂取が必要ともいわれています。

 

 「女性3世代研究」では65~94歳の女性のタンパク質摂取状況とフレイルのリスクが調査されました。その結果、たんぱく質の摂取量が最も少ない人たちを基準にして比べると、多い人たちのほうがフレイルのリスクが低いことが示されました。特に、たんぱく質の摂取が70 g/日以上の場合にフレイルのリスクが少ないことも示されました。また、動物性タンパク質と植物性タンパク質の効果に大きな違いはありませんでした。ただし、高齢者では腎機能障害をもつ人も多いので注意が必要な場合もあります。

 

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