診療科目
診療科目ガイド
お勧めコンテンツ
当院の診療科目
消化器内科
内科
禁煙
喫煙と禁煙
たばこを止めよう!
警告
禁煙指導・支援
禁煙の効果
たばこと健康
受動喫煙
たばこの有害物質
糖尿病
高血圧
脂質異常症
脂質異常症とは
高尿酸血症
高尿酸血症とは
肥満・メタボ
肥満とは
骨粗鬆症
睡眠障害
認知症
その他
その他の診療科目
サルコペニア
フレイル
診療案内
ご案内
検査・設備
健康管理
予防接種
予防接種-総論
予防接種各論
当院について
クリニック紹介
基本理念・行動指針
院長挨拶
院内紹介
院内風景
通信
お知らせ
お問い合わせ
お問い合わせ
ひまわり通信
院長の独り言
目次
2013年
2014年
2015年
2016年
2017年
2018年
2019年
2020年
2021年
2022年
2023年
スマホ用QRコード
2016年10月
下剤の乱用が便秘の原因
|
毎日便がでないと便秘ですか? |
「3日に1回しか通じがありません。便秘でしょうか?」「何日出なかったら便秘ですか?」 この様な質問がよくあります。
実は、「何日便がでないと便秘」という明確な医学的定義はありません。
日本内科学会では「3日以上排便がない状態、または毎日排便があっても残便感がある状態」と定義されています。
一方、日本消化器病学会では「排便が数日に1回に減少し、排便間隔が不規則で便の水分含有量が減少している状態(硬便)を指すが、明確な定義はない」としています。
また、国際的には国際消化器病学会のローマⅢ(RomeⅢ)という診断基準が使われています。日本でも最近は、この診断基準がよく使われるようになってきました。2016年6月にローマⅣ(RomeⅣ)に改訂されました。
これらの基準をみると、「3日も出ない」のは便秘かもしれません。しかし、重要なのは排便の頻度・回数ではなく、便が硬かったり、他に自覚症状があったりするかどうかです。
例えば、毎日あるいは1日おきに便が出ていても、「お腹が張って苦しい」「残便感があってスッキリしない」「ガスが出ない」「便が硬くて排便に困難を感じる」「下剤を飲まないと出ない」といった自覚症状があるようなら、便秘かも知れません。
逆に、排便が3日に1回でも、こういった症状がなく、出る時は出てスッキリし、本人が辛いと感じないのであれば便秘と考える必要はありません。
下剤の乱用が慢性便秘の隠れた犯人 |
便秘で悩んでいる方は、一度ならず市販の便秘薬を使ったことがあるのではないでしょうか。有名なコ○〇○クという便秘薬は推定で年間5億錠も売れているそうです。ただし、実際には多くの人が飲んでいる訳ではありません。すなわち、この薬を常用している人、さらには用法・容量を無視して多量に飲んでいる人がいるため、このような売り上げとなっているようです。
実は、このような下剤の常用・乱用が便秘を深刻化・慢性化させる元凶となっているのです。 |
そもそも、本当に薬で便を出さなければいけない状態なのかどうかという問題があります。下剤は排便を促す薬ですが、便秘の原因そのものを治す薬ではありません。便が出なくて苦しい時に、一時的に症状を改善するために使用する薬です。服用は短期間に留めるべきでしょう。
例えば、私たちは「カゼ」を引いたときカゼ薬を飲みます。しかし、カゼ薬はカゼそのものを治すわけではありません。薬で熱や咳、鼻水などの不快な症状を抑えるだけです。その間、ゆっくりと休養を取ったり栄養を摂ったりすることで体の治癒力を高めます。その結果としてカゼが治るのです。カゼが治れば当然のことながら、カゼ薬の服用をやめます。
ところが、慢性的な便秘に悩んでおられる方の中には「市販の下剤を毎日飲んでいる」「通常量では効かないので多量に飲んでいる」「飲まないと全く便が出ない」と話す人が少なくありません。
ここまでくると「下剤依存症」と呼ばれるべき状態です。下剤は町の薬局に行けば誰でも簡単に手に入ります。そして、気軽に使ってしまいます。
下剤は腸のリズムを妨げる |
食物は食道から胃を経て小腸で栄養分を消化・吸収され大腸に送られます。大腸では蠕動運動によりS状結腸まで運ばれます。その間、一部の栄養と水分を吸収されながら、次第に固形の便となっていきます。さらに、1日1~2回起きる大きな蠕動運動(大蠕動)によりS状結腸まできていた便が、直腸に押し出され内腔が押し広げられます。そのシグナル(直腸反射)が神経を介して脳に送られ「便意」を感じ、排便しようとトイレに行きます。そして、「ふんばる」すなわち腹筋を使って腹圧をかける(息む)一方、自律神経の働きで肛門周囲の括約筋が緩むことにより便が出る訳です(院長の独り言 2016年7月号)。
下剤を使うと、この一連の腸の流れが妨げられます。
市販の下剤のうち、最も多い「アントラキノン系」と呼ばれる薬は大腸特に結腸を刺激し、この刺激により腸を収縮させ便を排出させます。これは自然な便意・排便とは別物です。お腹がギューッと痛くなる感覚です。便意ではなく「しぶり感」です。
出る便も本来の自然な便ではありません。大腸(結腸)に入ったばかりの便のもとはドロドロの水のような(泥状)状態です。時間をかけて大腸を通過しながら水分が吸収され形のある便となっていきます。しかし、刺激性の下剤を使うとこのプロセスを飛ばすこととなり、下痢のような水っぽい便が混じります。
下剤を常用している人はトイレで10分、20分と頑張って最後に便がドーッと出て排便が終わります。また、腹痛を伴ったりもします。これでは、本来の「スッキリ感」とは異なる「つらい」排便となってしまいます。
このような排便を繰り返していると、次第に自力で腸を動かすことができなくなってしまいます。さらには、便が直腸に到達しても脳に便意が送れなくなり、また脳も排便の指令を送れなくなってしまいます。
寝たきりなどで体を動かさずにいると、筋肉が衰えてしまい、その部分がうまく動かせなくなることを「廃用性萎縮」といいます。腸の働きも同じで、使われないでいると衰えていきます。下剤を常用していると排便に必要なお腹や肛門周囲の筋肉が衰えて、自然な排便を体がどんどん忘れていきます。
このようにして、便秘が慢性化・深刻化する悪循環に陥っていくのです。
下剤が効かなくなる |
アントラキノン系の下剤は市販の下剤として最もよく使われていて、全体の70~75%を占めています。生薬(漢方材料となる薬草・動物・鉱物)やアロエ、センナ(センノシド)、大黄(タデ科のダイオウの根茎)が成分として配合されています。これらは前述の、大腸なかでも結腸を刺激して便を出す薬(結腸刺激性下剤)です。このタイプの薬は長期間使用を続けているうちに、腸がその刺激に慣れてしまい通常の量では効かなくなってしまいます。
このようにして、下剤の量がドンドン増えていきます。
アロエやセンナ、大黄などアントラキノン系の下剤は、もちろん「いい薬」です。しかし、(繰り返しになりますが)これらの下剤は「直腸性便秘・痙攣性便秘・弛緩性便秘」などの慢性便秘そのものを治すのではなく、あくまで「対症療法」に過ぎません。したがって、どうしても出ないなど急を要する場合に限り使用すべきです。
現に、欧米ではセンナや大黄は慢性便秘には適応外とされています。米国のFDA(食品医薬品局)ではアロエをPoisonous Plant(有毒植物)に指定しています。
腸の中が真っ黒になる |
下剤の常用による別の副作用もあります。正常の大腸粘膜はきれいなピンク色をしています。ところが、刺激性の下剤を長期にわたり連用していると大腸の粘膜が障害され色素沈着が起こり黒ずんできます。これを大腸メラノーシス(大腸黒皮症)といいます。
海外の研究報告によるとアントラキノン系の下剤を毎日4か月程度摂れば生じ、断続的であっても9か月から1年ほど常用していると大腸メラノーシスなるといわれています。
メラノーシスとは、本来は皮膚や粘膜などにメラニン色素が沈着することをいいます。この場合はメラニンではなくリポフスチンという物質です。それを免疫細胞の一つマクロファージが異物として捉え捕食(貪食)するため、大腸粘膜に沈着するために生じます。そのため、偽メラノーシスと呼ばれることもありあます。
大腸メラノーシスには自覚症状はありません。しかし、色素が腸管の神経にも影響(筋層の神経細胞が減少)して腸の弾力が失われて、伸びたゴムホースのような状態になり大腸の機能が低下してしまいます。もともと弱くなっている大腸の働きが、ますます弱くなっていきます。そのため、下剤を飲まないとますます排便が困難になり、薬の量がドンドン増えていく重症便秘の原因の一つとなっています。
大腸メラノーシスは原因となっている下剤の常用をやめて1年位すると色素が消失して、元に戻るといわれています。したがって、それ自体は過度に恐れる必要はありません。ただし、下剤は正しく使わないと便秘を改善するどころか、悪化を招くばかりだという警鐘として捉えてください。
大腸がんになりやすい? |
便秘や大腸メラノーシスと大腸がんの因果関係はまだ明らかになっていません。「関係がない」あるいは「関係がある」という報告があります。
東北大学が2004年に発表した大規模調査で「週に2回以上、下剤を服用している人は、服用していない人に比べて大腸がんのリスクが2.75倍となる」と報告されました。
ただし、この調査では使用された下剤の種類が明らかになっていません。したがって、下剤そのものに発がん性があるという訳ではありません。大腸がんになりやすい体質の人や、がんを招きやすい生活習慣のある人が「下剤を常用していると、がんの発生を早めてしまう」と考える方がよさそうです。
すなわち、「便秘の人は大腸がんになりやすい」ではなく「便秘の対応を誤るとがんの発生率を高める」と考えるほうがよさそうです。便秘の人は便秘だから下剤を飲んでいる訳で、便秘の人が大腸がんになりやすいと見えるだけかもしれません(バイアス)。
ただし、便秘と大腸がんは関係あると考える研究者もいます。今後の慎重で精力的な研究が望まれます。
サプリメントにご用心 |
私は下剤を飲んでいないから大丈夫」と思っておられる方は多いと思います。しかし、そうとはいかないかもしれません。
実は、下剤に含まれている成分を知らずに摂取している場合が多々あります。
その代表がダイエット茶やダイエットサプリです。「〇日で〇キロのダイエット!」などと謳われています。確かに、体重は減るようです。しかし、健康的に痩せて体重が落ちている訳ではありません。
多くの減量サプリの成分表をよく見てください。その中にアロエやセンナ、大黄といった下剤の成分が入っていないでしょうか?! 溜まっていた便が出れば体重が一気に落ちるのは当然でしょう。溜まっていた便が出ればお腹もポッコリ凹み、「やせた」と錯覚を起こしてしまいます。
もちろん、それ自体は悪いことではありません。問題なのは刺激性下剤の成分が含まれていることを知らずに、そのお茶やサプリを飲み続けることです。 |
これは下剤を飲み続けることと同じです。常用すれば「腸が真っ黒になり」「サプリをやめると便秘になり」、そのうち「回復困難な便秘になる」こともあります。しかも、そのサプリが原因だとは分からず、「サプリを飲むとお通じがよくなる」「ダイエットになる」と錯覚し飲み続けてしまうかもしれません。
目次 戻る 次へ