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2015年7月
生活習慣とがん |
日本人の死亡原因の第1位のがん。生涯で2人に1人はがんにかかり、3人に1人はがんで命を落しています。そのがんの原因は何でしょうか?
「がんは遺伝する」と思われがちです。確かに、がんは「遺伝子の病気」です。しかし、親から子へと遺伝するものは一部で、がん全体の5%位にすぎません。がんの発生原因には加齢とともに生活環境が大きく関わっています。
1996年にハーバード大学のがん予防センターから米国人のがんの原因が示されました。この報告によるとタバコと食事がそれぞれ30%。他の生活習慣として運動不足5%、アルコール3%でした。これだけでがんの原因の68%を占めています。
がんに絶対にならない方法はいまのところありません。しかし、これらの生活習慣を改善することでかなりのがんが予防できる可能性が示されました(図1)。
食物とがん |
2007年の世界がん研究基金(WCFR)と米国がん研究財団(AICR)の評価報告書「食物・栄養・身体活動とがん予防」からです。果物については口腔・咽頭・喉頭・食道・胃・肺のがんに対して、非デンプン野菜(いも類の以外の野菜)については口腔・喉頭・咽頭・食道・胃・大腸などのがんに対して予防効果がある「可能性大」と判定されました。
さらに、アリウム野菜(ニンニクや玉ねぎなど)と胃がん、にんにく・食物繊維・牛乳・カルシウムのサプリメントと大腸がん、食物に含まれる葉酸と膵臓がん、カロテノイドと口腔・咽頭・喉頭がんと肺がん、βカロテン・ビタミンCと食道がん、リコピン・セレン・セレニウムのサプリメントと前立腺がん、など単一食品や栄養素についても予防効果がある「可能性大」とされました。このように、野菜・果物によって主に上部消化管のがんに対する予防効果が期待できるとされています。
多目的コホート研究(JPHC研究) |
日本人をその平均寿命以前に死に至らしめたり、生活の質を低下させる重要な原因になっている、がん・心筋梗塞・脳卒中・糖尿病などの病気の発生には食習慣・運動・喫煙・飲酒などの生活習慣が深く関わっていることが明らかになっています(生活習慣病)。さらに、生活習慣の改善により、これらの疾病の発生を「未然に防ぐことが可能」ということも分かってきています。しかし、どのような食事をどの程度とればよいのか、飲酒はどの程度が適当であるか、などについて日本人のデータは十分とは言えませんでした。
そこで、岩手県水戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県石川、東京都葛飾区に住む40歳以上60歳未満の住民から無作為に抽出した約10万人から生活習慣や健康に関する情報と血液データから集め、どのような生活習慣を持つ人が、がん・脳卒中・心筋梗塞・糖尿病などになりやすいかのか、あるいはなりにくいのかを明らかにする目的で多目的コホートが計画されました。1990年(平成2年)よりスタート(コホートⅠ)(*)。その後、10年以上にわたる長期追跡を行い、日本人の健康のためにはどのような生活が望ましいのかを追及。現在も進行中の研究です。
その研究のなかで「食物とがん」、そのうち「野菜・果物とがん」の関係に関する研究を紹介します。
*)城県水戸、新潟県柏崎、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の住民(40歳以上70歳未満)を対象としたコホートⅡは1993年(平成5年)よりスタート。現在、この2つのコホート研究が進行中。
野菜・果物と胃がん |
日本人を対象とした多目的コホート研究(JPHC研究)では、野菜・果物の摂取量が特に少ない人は胃がんリスクが高いことが示されています。
ほうれん草のような緑色の野菜、人参やカボチャのような黄色の野菜、白菜・キャベツ・トマトのような緑黄色以外の野菜、および果物について「ほとんど食べない」、「週に1~2日食べる」、「週に3~4日食べる」、「ほとんど毎日食べる」グループに分け、それぞれのグループの胃がんの発生率を調査しています。
野菜・果物を「ほとんど食べない」グループの胃がん発生率を1とすると、「週1日以上食べる」グループでの発生率は低いという結果でした。白菜・キャベツ・トマトや根菜類は緑黄色野菜や果物よりリスクを下げる可能性が高いことも示されています。
しかし、野菜・果物の摂取頻度がそれ以上高くなっても胃がんの発生率がさらに低くなる傾向は認められませんでした。胃がん予防のためには野菜・果物を多く食べることより、「不足しない」ことが大切である可能性を示しています(図2、3)。
漬物の食べ過ぎにはご用心 |
同じ野菜でも漬物としての野菜をたくさん食べる人の胃がんの発生率は高くも低くもなっていません。これまでの研究では、漬物は塩分を多く含むため胃がんの危険因子だと分かっています。 ことに、ピロリ菌感染者では高濃度の食塩はさらなる危険因子となります。したがって、胃がんを予防するためには漬物以外の新鮮な野菜の摂取を心がけるとよいでしょう。
胃がんを予防する食習慣を |
この研究からだけでは、どのぐらいの野菜・果物を食べれば胃がんを予防できるかについては詳しいことは分かりません。しかし、少量の野菜・果物の摂取でも、ある程度の胃がん予防効果があることが分かりました。野菜を多くとり過ぎたための害については報告がありません。したがって、野菜・果物を最低でも週に1日、できれば毎日1回は食べることは胃がん予防につながるといえそうです。
野菜・果物とその他の部位のがん |
■食道がん
野菜・果物の1日当たりの摂取量を推定し、高・中・低摂取の3グループに分け検討しています。野菜や果物の摂取量が増えると食道がんのリスクが低下しています。野菜・果物の高摂取グループでは低摂取グループに比べてほぼ半減していました。野菜・果物の合計摂取量が1日当たり100グラム増加すると、食道がんのリスクが約10%低下していました。
さらに、喫煙・飲酒習慣別に検討した結果、野菜・果物摂取による食道がんのリスク減少効果は喫煙と大量飲酒のハイリスク・グループで最も大きく、危険度は7.67倍から2.86倍へと大幅に低下していました。喫煙と大量飲酒のハイリスク・グループでは、野菜・果物の合計摂取量が1日当たり100グラム増加すると、食道がんのリスクが約20%低下していました(図4)。
■肝臓がん
野菜と果物の合計摂取量と肝がんの発生リスクに関連はみられませんでした。種類別にみると野菜、緑黄色野菜、緑の葉野菜では、摂取量が最も多いグループの肝がんリスクは最も少ないグループに比べ約40%減少しました。また、抗発がん物質の一つである抗酸化物質のうち、αカロテンやβカロテンの摂取量が多いグループの肝がん発生リスクが減少する傾向がありました。一方、果物では摂取量が増えると肝がんリスクが高くなるという傾向が見られました(図5)。
なぜ、果物摂取量が増えると肝がんリスクが増えるのでしょうか? 果物にはビタミンCが豊富に含まれています。ビタミンCは肝がんのリスク要因の鉄の吸収を促進すると考えられています(*)。
したがって、肝炎ウイルス感染者はカロテンを多く含む緑黄色野菜を多く摂り、ビタミンCの摂取は控えた方がよいのかもしれません。ただし、肝がんになった人の8割以上がB型またはC型肝炎ウイルス陽性者でした(*)。肝がん予防のためには、①まず肝炎ウイルス感染の有無を知る、②感染していた場合には治療をする、などの措置をとることが前提となります。
■大腸がん
大腸がんに関しては野菜や果物の摂取量によるリスクの増減は観察されていません。欧米の研究でも「効果はあってもごくわずか」という結論でした。しかし、最近の海外からの報告では野菜と果物の大腸がん予防効果は「可能性大」とする報告や極端に少ないグループでは大腸がんのリスクになる報告もあります。また、摂取量が増えても大腸がんのリスクが増大するという報告はありません。したがって、まず野菜・果物は「不足しない」ようにしましょう。さらに、野菜に関しては糖尿病などの生活習慣病の予防のためには多めに摂るよう心掛けましょう(**)。
**)果物は肥りやすい
果物はC型肝炎の人以外ではがんの予防効果があるようです。ただし、果物は果糖が多く含まれていて「肥りやすい」ので過剰摂取には注意が必要です。
■野菜・果物に含まれるがんを予防する成分
野菜・果物にはがん予防に有用と思われる機能をもつ様々な成分が含まれています。緑黄色野菜に多く含まれるカロテン、柑橘系果実のビタミンC、トマトのリコピンなどは生体内で発生する活性酸素やフリーラジカルを消去する抗酸化作用があります。キャベツやブロッコリーなどのアブラナ科野菜のイソチオンシアネートは発がん物質を解毒する酵素の活性を高める作用があります。ほうれん草などの緑葉の野菜や果物の葉酸はDNAの合成には欠かせない成分です。ニンニクやタマネギなどのアリウムには抗酸化作用や発がん物質の生成抑制・解毒促進作用があります。
食物繊維は糖質やコレステロールの吸収を抑えることで糖尿病や脂質異常症に有用です。また、便容積を増大させ排便を促し、発がん物質が腸管と接触する時間を短くし、腸内細菌を変化させ二次胆汁酸の生成を抑えることで大腸がん予防効果が期待されています。
まとめ |
がんの原因の30%は食事からです。野菜や果物は発がんを予防する働きがあります。