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スキーと私(その6)

後悔先に立たず

 

後悔などあろうはずがありません。

 

 

 今日の球場での出来事、あんなものを見せられたら、後悔などあろうはずがありません。

 

 日本とアメリカで数々の記録を残してきたイチロー選手が、2019年3月21日、現役選手からの引退を表明した。試合後、東京ドームホテルで記者会見が行われた時の言葉です。2019ユーキャン新語・流行語大賞の選考委員特別賞に選ばれました。

 

 「あんなもの」とは試合中も試合後も歓声が鳴りやまず、試合後イチロー選手は球場を一周してファンに手を振り挨拶をしたことを指します。

 

 その時、彼が語った言葉のうち、私なりに印象に残ったもの、心に留めておきたいと思ったものを挙げてみます。

 

  • 結果を出すために、人より頑張ったとは言えません。でも、自分なりに頑張ってきたとは言えます。
  • これを重ねることでしか、後悔を生まないことはできないと思います。
  • 言葉にして表現することは、目標に近づく一つの方法だと思っています。
  • 自分のなかにある「はかり」を使いながら、自分の限界を少しずつ超えていく。
  • 少しずつの積み重ねでしか、それまでの自分を超えていけない、と思っているんです。
  • 地道に進むしかありません。ある場合は「後退しかない」時期もあるので、自分がやると決めたことを信じてやっていきます。
  • ここでは敢えて「成功」と表現しますが、成功するからやってみたい、できないと思うからやらないという判断基準では、後悔を生みます。
  • やってみたいなら、挑戦すればいいんです。そうすれば、どんな結果がでようと後悔なんてない。
  • 辛いこと、しんどいことから「逃げ出したい」と思うことは当然ですけど、元気なとき、エネルギーのある時にそれに向かっていくのは大事なことだと思います。

 

「永遠に刻みたいイチローの262のメッセージ」 2019年11月 ぴあ株式会社 より抜粋

 

全日本マスターズアルペン競技大会

 

 2018年3月10・11日、全日本マスターズアルペンスキー競技大会が小樽市朝里川温泉スキー場で開催されました。この大会は競技スキー愛好者の大会で年1回開かれます。出場者は男女合わせて約500名。年齢は30歳代から5歳刻みで最高は85歳代でした。本州で開催される時は700名、95歳代まで出場するとか。残念ながら私はこの大会に出場したのではなく、救護班として観戦していました(左下)。

 

 左中は2019年3月の尾瀬岩鞍での全日本マスターズアルペンスキー競技会での佐々木明選手の滑りです。彼はアルペンスキー・ワールドカップで日本人最高最多(2位3回)の表彰台に立ち、オリンピック4大会連続出場した日本最強のスラローマーでした。2014年ソチ大会を最後に、アルペンスキーの第一線からは退き、現在はプロスキーヤーとして「誰も登っていない山の斜面を滑る」ため、世界のフィールドで更なる高みを目指しているそうです。

 

 その彼が初めて全日本マスターズアルペンスキー選手権に出場しました。263番スタートの荒れたコースにも関わらず現役時代と変わらない滑りです。旗門と旗門を直線的に繋ぎ、リスキーではあるが深い内傾角での鋭いターンは未だ健在で、その力強い滑りは他の選手を圧倒していて格の違いを見せつけられ流石と言うほかありません。

 

 右下は2018年小樽大会での85歳代男子の競技中の写真です。女子の競技(全36名)の後のゼッケン3(3番スタート)で、そんなには荒れたバーンではありません。私のような者が言う資格はないのですが、悪戦苦闘の姿が見て取れました。若い頃はもっと溌溂とした滑りであったに違いありませんが、見ていて「ヒヤヒヤ」「ドキドキ」で、思わず「頑張れ」と言いたくなってしました。70歳代以上の選手の滑りは多少の差はありますがこんな感じでした(右下)。

 

 

私はホッとすると同時にある焦りを感じてしまいました。

 

 「ホッとした」のは、若い頃はもっと力強い滑りをしていたに違いない彼らも、年齢には勝てず周りから「頑張れ」と応援されるようになってしまうのでしょう。私でも彼らのレベルまでなら何とかいけるのではないかという妙な安心感と親近感でした。

 

 「焦り」とは、70前の私が後10年位頑張って練習しても到達できるレベルが見えてきたことによります。

 

 

後悔先に立たず

 

 我がRIレーシングの練習後は佐藤コーチが撮ったビデオや連続写真を各自チェックし、欠点・改善点を探し次の練習に繋げています。上手い人ほど熱心に見つめ研究しているようです。さらに、コーチに質問し欠点・改善点などの教えを受けています。

 

 私はと言うと、「あまりの酷さ」に1回こっきり。多くても2~3回しか見ることができません。何故かというと、まるで欠点の総合商社なのです。ストックを前に突けない、上体を回している、上体が被る、板がシェーレンに開く、X脚になる、ポール(旗門)に近づけない、ポールを上から狙えない、溝が怖い(避ける、遠回りする)、…。色々な原因があるのでしょうが、根本的な原因は「板を正しく踏めていない」ことに尽きるようです。自分ではもう少しまともに滑っているつもりですが、ビデオ・写真は嘘をつきません。思わず目を背けてしまいます。これでは上手くなれるはずがありません。

 

あと何年スキーができるのか?

 

 生労働省によると2018年(平成30年)の日本人の平均寿命は女性が87.32歳、男性が81.25歳で、ともに過去最高を更新したとのことです。また、70歳の平均余命は女性が20.03年、男性が15.84年でした。これによると、現在70歳の私は後16年弱、86歳まで生きることができるかも知れません。そのうち、体力と気力が続き「下手なりにもスキーができるのは後何年?」と、ふと思うことがあります。

 

 コーチとチームに迷惑が掛からないのであれば、後10年位は続けたいと思っています。できればより長く…。しかし、それでも余り上手くはならないでしょう。スキー歴35年、北海道に移住して20年、RIレーシング歴19年。これで、この程度です。残念ながら先は見えています。

 

 イチロー選手の引退時の言葉。「結果を出すために、人より頑張ったとは言えません。でも、自分なりに頑張ってきたとは言えます」。イチロー選手ですらこれです。私などが間違っても「頑張って練習した」などとは言ってはいけないのでしょう。

 

 幸い社会人スキーに対する我がコーチのコンセプトは「皆それぞれ仕事がある。それぞれの事情や(スキー)レベルに応じて可能な範囲でチャレンジすればよい」です。それに甘えてしまったのかもしれません。

 

 

肥満者のダイエットは難しい

 

 

 日本肥満症予防協会により、肥満が招く11の疾患として糖尿病、肥満関連腎臓病、高血圧、心筋梗塞・狭心症、脳梗塞、痛風・高尿酸血症、脂質異常症、脂肪肝、睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群、整形外科的疾患、月経異常・妊娠合併症が挙げられました。

 

 肥満は摂取エネルギーが消費エネルギーを上回ると、余ったエネルギーが脂肪として皮下や貯蓄されるため起こります(単純性肥満)。肥満症とは減量などの治療が必要な肥満をいいます。それに対して医師は減量(ダイエット)を勧めます。患者さんは「はい、解りました」とは言いますが、実際に減量という成果を伴うことは少ないようです。なぜなら、これらの疾患は痛風や膝関節痛などの整形外科的疾患による「痛み」を除けば、原則的に自覚症状がないからです。そのため、患者さんは「本気」になってくれません。

 

 たとえ自覚症状があってもダイエットは難しいようです。“風が吹いても痛い”と言われる痛風。疼痛発作が治まった後は、尿酸降下剤の服用については殆どの患者さんは同意し、(少なくとも)しばらくの間は服用をします。しかし、肥満があった場合の減量の勧めには「喉元過ぎれば…」で、実行に移す人はあまり見かけません。肥満が原因の膝関節痛をきたした患者さんでも、減量に関しては同様です。

 

スキーとダイエットの指導にはある共通点がありそうです。佐藤コーチによると、「スキーの場合はジュニアと社会人とでは指導方法を変えている。ジュニアに対しては、必要以上に理論や理屈を説明しない。ジュニアは理論・理屈は苦手だが、どうすれば速く滑ることができるかを体で覚える。一方、社会人は理論・理屈から入らないと駄目。そうする(なる)と、なぜ駄目なのか、なぜ良いのかを理解しないと技術を会得することができない」そうです。

 

 ダイエットの理由・目的(動機)は人それぞれです。美しくなりたい、カッコよくなりたい、健康のため、医者に勧められたから、…。「美しく」「カッコよく」などが動機の場合はジュニアの場合と似ているかもしれません。それ自体が自分で納得した動機です。自分であれこれ試してみるでしょう。一方、「医者に言われた」ダイエットは「痩せないといけない」「痩せた方がよい」と思ってはいますが、「美しく」「カッコよく」に比べると動機づけは、あまり強くはありません。ただ、両者とも結果が伴わないことが多いようです。

 

 

肥満と認知行動療法

 

「現実の受け取り方」や「ものの見方」を認知といいます。残ったお茶が半分のペットボトルを見て、Aさんは「もう半分しか残っていない」、Bさんは「まだ半分も残っている」と思いました。同じ事象に接していても、人の性格や状況、すなわち認知によってとらえ方が異なってきます。うつ病の人は、物事をネガティブにとらえる傾向が強く、すべての環境や事象に対してネガティブに感じてしまうので、とてもつらい気持ちになります。

 

 認知に働きかけて、こころのストレスを軽くしたり行動をコントロールしたりする治療法を「認知療法・認知行動療法」といいます。うつ病、パニック障害、不眠症、薬物依存症、摂食障害、統合失調症などの疾患に対して、主に心療内科や精神科領域で発達してきました。

 

 

 近年、この治療法(手技)は「肥満症の食事指導」にも応用されるようになってきました。簡単にその概念と手技を紹介します。

 

 大分大学医学部の吉松博信教授は次のような指摘をしています。「肥満症患者には患者特有の食行動の『ずれ』と『くせ』が存在する。これらは抽出および修正すべき問題点であり、再構築が必要な認知異常に相当する。

 

 『ずれ』とは、『水を飲んでも太る』 という認識のずれ、『満腹でも好きなものなら別のところに入る』という満腹感覚のずれ、『たくさん食べていても、自分の食べた量はそれほどでもない』と感じる摂食量に対するずれである。

 

 『くせ』とは『目の前の食べ物に、つい手が出る』、『いらいらするとつい食べてしまう』といった食行動の悪いくせである。いずれも患者が意識していないために日常生活の中で繰り返される。その結果、食事療法や運動療法の遂行や効果に悪影響を与え、肥満症治療の大きな阻害要因となる」。

 ・・・ 

 「治療開始時には食生活についていきなり細かな分析や指導は避けるべきである。患者は『厳しい食事療法を強いられる』と思い込んでいる。一方で『そんなに厳しい食事療法ができるくらいなら、こんな病気にはかかっていない』とも考えている。治療の導入期で大切なことは、患者の『食事療法』という先入観をまず取り去り、その先入観による治療動機水準の低下を食い止めることである。厳しい食事制限をいきなり実践するのではなく『体重が減らない理由を一緒に探しましょう』といった医療側の姿勢が重要である。治療意欲が高まれば、患者は自分である程度のカロリー制限を行うようになる。この時点で治療者は栄養学的な話題に持ち込めるようになる」。(日本内科学会誌 2011年 吉松博信 より一部改変)

 

 また、関西医科大学の木村穰教授は「減量を行う際は、体重や腹囲などの数値目標をあえて設定しません。具体的な数値があると短期間で成果を得たくなり、挫折するリスクが高まるからです。その代わりに自分が『やってみたいこと』『続けられそうなこと』を行動目標として患者自身が設定します。『人は主体的に決めて自分に合ったことは前向きに取り組めるという』行動心理を利用しています。これも減量を成功に導くための秘訣です。 

 ・・・

 達成率が低く難しい目標ほど、クリアした時の成功体験や達成感も大きくなります。その一方でリスクも伴います。成功率50%の目標を設定すると、成功すればよいのですが、万一クリアできないと失敗体験となりモチベーションが下がります。したがって、もっとハードルを下げて『70~80パーセントの確率で達成できることを行動目標に選びます』。小さな成功体験を積み重ねることで自信とモチベーションが高まり、みるみる成果が表れます」と指摘しています。(SB新書 頑張らなくてもやせられる!メンタルダイエット 2013年 木村穰 より一部改変)

 

 

 まだ10年もある

 

 

 肥満患者さんの食生活・食習慣に関する「ずれ」と「くせ」は、本人が「気が付いていない」または、気が付いていても「修正するのが困難」な代物です。当院で減量が必要と思える肥満患者さんも、この「ずれ」と「くせ」を大なり小なり持っています。減量の意思は十分にあるのだが、結果が伴わない人。「ずれ」「くせ」に気が付かない人。「ずれ」「くせ」を認めようとしない人。医者に勧められたから(イヤイヤ)栄養相談・指導を受ける人。栄養相談・指導も拒否する人。私見ですが、当院の患者さんでは「ずれ」「くせ」に気が付かない人は高度肥満に、栄養相談・指導も拒否する人は中等度肥満の人に多い傾向があるようです。

 

 思わず目を背けてしまう私の欠点。ストックを前に突けない、上体を回している、上体が被る、板がシェーレンに開く、X脚になる、旗門(ポール)に近づけない、ポールを上から狙えない、溝が怖い(避ける、遠回りする)、…。その根本的原因は「板を正しく踏めていない」ためで、克服するには、なかなか手ごわい相手です。

 

 後悔先に立たず。だが、まだ10年もある! 「自分なりに」、これらの「くせ」に一つずつ向き合って行こう。やっとそう思えるようになってきた今日この頃です。