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2015年12月
便秘は大腸がんの原因? |
長い間、「便秘は大腸がんの原因となる」と信じられてきました。便秘になると便中の有害物質や発がん物質が大腸粘膜に触れる時間が長くなるため、大腸がんができやすくなるという考えです。はたして、本当でしょうか?
■便秘は大腸がんのリスクと関係ない
国立がんセンター(現国立がん研究センター)の津金昌一郎を主任研究者とする厚生労働省研究班の「便通、便の状態と大腸がん罹患(りかん)」との関連についての研究です(多目的コホート研究、JPHC研究 2006年)。
津金らは、1993~2002年の約7年間追跡調査をした40~69歳の男女約6万人のデータを分析しました。対象者の便通の頻度を「週2~3回」「毎日1回」「毎日2回以上」の3つグループに分けて、大腸がんにかかる割合を比較。期間中に男性303人、女性176人が大腸がんと診断されました。
その結果、便通が週2~3回しかなくても、毎日ある人と比べて大腸がんにかかるリスクが高くなることはありませんでした。さらに、大腸がんが発生する部位を結腸と直腸に分けても差はありませんでした。
また、診断前の大腸がんの影響を取り除くために、追跡開始から2年目までに発生した大腸がんを対象から除いた場合でも、結果は変わりませんでした。
■下痢便は、直腸がんリスクと関連があるかもしれない
普段の便の状態が大腸がんリスクと関係しているのではないかという仮説もあります。軟便や下痢と大腸がんとの関連を調べた研究もありますが、ほとんどが症例対照研究(大腸がんの人とそうでない人で過去の便の状態を比べる方法:後ろ向き研究)であり、大腸がんの症状として下痢が起こっていた可能性を否定できません。
多目的コホート研究では、普段の大便の状態をたずね、「下痢」「軟便」「普通」「硬め」「下痢と便秘をくり返す」の5つのグループに分け、各グループの大腸がんと部位別に結腸・直腸がんリスクを比較しました。その結果、結腸がんと直腸がんに分けた場合、男女とも下痢便で直腸がんリスクが上昇するように見えました。しかし、男性では、最初の2年間に直腸がんになったケースを除くと下痢便での直腸がんリスクが低くなりました。ただし、診断前の直腸がんの影響で下痢便になっていた結果ではないかという可能性も考えられます。
また、女性では、最初の2年間に直腸がんになったケースを除いても、下痢便で直腸がんリスクが高くなっていました。しかし、下痢便のグループで直腸がんになった人数がわずか2名と少なく、この結果がたまたまそうなっただけかもしれない可能性も考えられます。
いずれにしても、週2~3回の便通程度の便秘の場合は、大腸がんになりやすいかもしれないと思い悩む必要はないようです。しかし、それ以上の高度な便秘(週に1回など)、ずっと下痢が続く場合、よくお腹が痛む、便に血液が混じるなどの場合は、大腸がんに限らず何らかの大腸の疾患の可能性があります。また、腹部膨満感・食欲不振・全身倦怠感・頭痛・めまいなどがあれば、大腸を含め他の病気の可能性もあります。このような場合は、医療機関への受診をお勧めします。
■便秘についての考え方
便の習慣が変わってきた場合は注意が必要です。「少し前までは毎日でていたのが最近は3日に1回になった」、あるいは「以前はあまりお腹が痛くならなかった」のに「トイレの前後に1時間位痛む」といった場合も注意が必要です。
便秘に関して言えば、「便は毎日でるのが普通」とは限りません。便の回数が安定していれば、2~3日に一回(または週に2~3回)でも、逆に一日3回でも性状範囲です。毎日出なくても便秘ではなく、心配はありません。その人その人で腸の一定したリズムがあります。無理に下剤を使う必要はありません。市販されている便秘薬のほとんど(約8割)に腸の蠕動を促す大腸刺激性成分が含まれています。この種類の下剤を連用していると、薬の刺激がなければ腸が動かなくなったり、精神的に依存してしまったりして、悪循環に陥り徐々に薬の量が増えていきます。便秘薬は症状のひどいときや旅行時など、必要な時にだけ使うようにしましょう。
また、高齢になり食事量が減ってくると便の量も少なくなり、毎日便意が起こるとは限りません。つい、若い頃の排便習慣と比較してしまい、便秘だと勘違いすることもあります。
■便秘の解消には
便秘を解消する近道はありません。薬のように即効性はありませんが、以下のことに尽きます。あせることなく地道に頑張りましょう。
食物繊維と大腸がん |
1972年英国の医師バーキットはアフリカ人と英国人の便の量や通過時間を比べ、アフリカ人の便の量は英国人より数倍多かったが通過時間は短く排便も楽であったという研究を発表しています。このことから、アフリカ人は英国人に比べて大腸がんが少ないのは、穀物を中心とした食物繊維を多く摂るからであろうと考えました。
その後、大腸がん患者とそうでない人の過去の食物繊維の摂取量を比較する研究(後ろ向き研究)が行われ、大腸がん患者では食物繊維の摂取量が少ないことを示すことが報告されるようになりました。
しかし、その後の食物繊維と大腸がんに関する大規模なコホート研究(前向き研究)では、結果は二転三転しています。欧米で行われた1999年からの追跡調査の結果では、食物繊維には大腸がんを防ぐ効果は認められませんでした。その後、2003年のヨーロッパ8か国の大規模コホート研究では、食物繊維の摂取量が多いほど、大腸がんのリスクも低下し、最大で25%抑えられたと報告されました。
2006年に発表された欧米の17のコホート研究のデータを再検討し、食物繊維の摂取量と大腸がんリスクとの関連を解析した研究では、食物繊維の摂取量が1日10g未満の場合は、食物繊維の摂取量が増えることで大腸がんのリスクは低下するが、10g以上では大腸がんの予防効果を認めないということが示されました。日本で行われたコホート(JPHC)研究においても、同様の結果が得られています。
■JPHC研究
この研究では40~69才の男女約10万人を、平成2年(1990年)より平成14年(2002年)まで追跡し、食物繊維の摂取量と大腸がん発生率との関連を調べています。
初回アンケート調査と研究開始から5年後に2回目のアンケート調査では、それぞれ食物繊維の摂取量によるグループ分けを行い、その後に発生した大腸がんリスクとの関連を調べました。初回調査では男性40,761人、女性45,651人の合計約9万人が対象となり、そのうち約10年の追跡期間に男性567人、女性340人が大腸がんになりました。次の5年後調査では男性36,901人、女性41,425人の約8万人が対象となり、約6年の追跡期間に男性335人、女性187人が大腸がんになりました。
■食物繊維摂取量の非常に少ない人で大腸がんリスクが高くなる可能性
それぞれの食事調査の結果から、食事に含まれる食物繊維など栄養素の量を算出。食物繊維の摂取量によって、5つにグループ分けをして大腸がんリスクを比べました。
その結果、初回調査と5年後調査のどちらからも、食物繊維の摂取量と大腸がんリスクの間に、量が多いほどリスクが低くなるという関連はみられませんでした。ただし、より詳しい5年後調査のデータでは、最少摂取量のグループで、他のグループよりも大腸がんリスクが高くなりました。
次に、5年後調査の女性について、最少グループをさらに3つに分けて比べると、その中の最少グループの大腸がんリスクは、全体の最多摂取量のグループの約2倍になっていました。食物繊維を多く摂ったとしても大腸がんの予防効果が期待できるわけではなさそうですが、極端に少ない人では大腸がんリスクが高くなる可能性があります。
この研究では、大腸がんリスクに関わる他の要因(年齢、アルコール、喫煙、肥満指数、運動量、肉類や肉類、葉酸、カルシウム、ビタミンDの摂取量)の影響をできる限り取り除いた上で、食物繊維と大腸がんリスクの関連を検討しています。その結果、食物繊維の大腸がん予防効果は確認されませんでした。
食物繊維と生活習慣病 |
食物繊維は便秘解消や大腸がん予防以外にも健康によい様々な効果があります。炭水化物や糖質の消化吸収を遅らせ血糖値を低下させます。コレステロールやコレステロールから作られる胆汁酸にくっ付いて体外に排出し、コレステロールを下げます。食物繊維(特に不溶性食物繊維)に富む食品はよく噛む必要があり、早食いや過食を防ぎ肥満を防止します。また、最近話題になっている腸内細菌(腸内フローラ)のうちビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌の餌になり腸内環境を整えます。日本人の食物繊維摂取量は年々低下しつつあるとのこと。注意が必要です。
■食物繊維を多く含む食品
食物繊維には水分を吸収・膨化し便の量を増して腸の蠕動を促す不溶性食物繊維と便をゲル状にして滑りをよくする水溶性食物繊維の2種類があります。食物繊維は野菜類に多く含まれて、単色野菜より緑黄色野菜の方が食物繊維は豊富です。特に、ごぼう、ブロッコリー、ほうれん草、にんじん、イモ類、豆類などに豊富に含まれています。これらは和食を中心としたメニューにすると摂取しやすいようです。ただし、高齢の方は、かさを増す不溶性だけを摂り過ぎると便が固くなり、かえって便秘になることがあります。不溶性と水溶性をバランスよく摂ることが大切です。
まとめ |