>医療法人 啓眞会 くにちか内科クリニック

スマホ用QRコード

糖質制限ダイエットーその光と影(12)

炭水化物摂取量は多すぎても少なすぎても
総死亡リスクを増加させる

 

 

 

ARIC研究

 

 2018年に発表された4つのコホート研究(ARIC研究)では次のことが言えます。(院長の独り言 令和元年12月号)。

  • 炭水化物摂取量は多すぎても少なすぎても死亡リスクを高める。
  • 最も死亡リスクが低かった炭水化物摂取量は全エネルギー率50~55%であった。
  • 炭水化物摂取量が65%超、40%未満から死亡リスクは上昇する。
  • 死亡リスク上昇の程度は低炭水化物摂取群の方が高摂取群でより著明であった。
  • 炭水化物摂取比率と50歳からの推定される平均余命は、炭水化物摂取比率が50~55%で33.1年。50~55%を基準とすると、65%超で1.1年短く32.0年、30%未満で4.0年短く29.1年となった。
  • 炭水化物に替わるたんぱく質と脂肪の供給源が、炭水化物摂取と死亡率を著しく修飾する可能性がある。
  • 動物ベースのたんぱく質や脂肪が増える低炭水化物摂取群では死亡リスクが上昇。
  • 植物ベースのたんぱく質や脂肪が増えると死亡リスクが減少。
  • 厚生労働省が勧める日本人の食事摂取基準2020年版での「炭水化物摂取量50~65%」は妥当と考えられる。
  • ARIC研究は前向き観察(コホート)研究であり、結果はあくまで推測である。それを証明するためには無作為化比較試験(無作為化臨床介入比較試験)が必要であるが、現実的には不可能である。

 

 

ARICコホート研究を含めた8つのコホート研究

 

 ARIC研究は炭水化物摂取量が比較的少ない国(米国4つのコミュニティ)でのコホート研究です。そのため、ARICコホート研究を含めた炭水化物摂取を調査した計8つのコホート研究のメタアナリシスが行われました。432,179人が登録され、40,181名(9.3%)の死亡が報告されました。メタ解析の結果、アジア諸国や低所得国、他国籍コホートと比較して、欧州および北米地域での炭水化物の消費が大幅に低かったため(p<0.001)、研究は炭水化物摂取比率が低いグループと高いグループの2つのカテゴリに分類されました。北米および欧州の平均炭水化物摂取率は約50%、アジアおよび多国籍研究対象国での平均炭水化物摂取率は約61%でした。

 

 炭水化物消費と死亡率の関連は炭水化物摂取の範囲に依存していました。低炭水化物摂取(<40%)は中程度炭水化物摂取(40~70%)と比べ、全死因死亡の有意なリスク上昇を示していました(プールHR1.20、95%CI:1.09-1.32、 p <0.0001)。ARIC研究がこの分析から除外された場合でも、この関係は依然として有意なものでした(プールHR1.31、95%CI:1.07–1.58、p = 0.007)。
高炭水化物摂取(>70%)は中程度炭水化物摂取(40~70%)と比較して、全死因死亡の有意なリスク上昇を示していました(プールHR1.23、95% CI:1.11-1.36、p<0.0001)(表1、図1)。

 

 

 

 

  • 炭水化物摂取比率(%):最低から最高の分位点までに炭水化物からのエネルギーの割合の平均値
  • 調整されたHRは低炭水化物スコアと高炭水化物スコアの分析からのもの
    (n=432,179、全死亡数=40,181)
  • 点線は低炭水化物(<40%)および高炭水化物(>70%)のカットオフを示す
  • Aは低炭水化物(<40%)vs中等度炭水化物(40~70%)のグループでのメタ解析
  • Bは高炭水化物(>70%)vs中等度炭水化物(40~70%)のグループでのメタ解析
  • HR:ハザード比
  • ARIC(Atherosclerosis Risk in Communities コミュニティにおけるアテローム性動脈硬化リスク)
  • SWLHC(Scandinavian Women’s Lifestyle and Health Cohortスカンジナビア女性の生活と健康コホート)
  • EPIC(European Prospective Investigation into Cancer and Nutritionがんと栄養に関するヨーロッパの前向き調査)
  • NHS(Nurses Health Stud看護師の健康調査)
  • HPFS(Health Professionals Follow-up Study 健康専門職のフォローアップ調査
  • VIP(Vasterbotten Intervention Programmeヴェステルボッテン介入プログラム)
  • NIPPON DATA80(National Integrated Project for Prospective Observation of Non-communicable Disease and its Trends in the Aged.感染性疾患の前向き観察と高齢者の動向に関する全国統合プロジェクト)
  • PURE(Prospective Urban Rural Epidemiology.前向き都市農村疫学)
  • NR(not recorded.記載なし)

 

 

炭水化物に替わるたんぱく質と脂肪の供給源と死亡リスク

 

 炭水化物に替わるたんぱく質と脂質の供給源が死亡リスクに影響を与える可能性があります。HPFSとNHS、ARIC、NIPPON DATA80では、炭水化物に替わるたんぱく質と脂質が「動物性か植物性なのか」が調査されています(表1)。

 

  植物ベースの低炭水化物食では野菜の摂取量が多いが果物の摂取量が減少していました。動物ベースの低炭水化物食では野菜と果物の両方の摂取量が減少していました。両者共に脂質の摂取量は増えていましたが、植物ベースの場合は不飽和脂肪酸の摂取量は増え、飽和脂肪酸の摂取量は減っていました。一方、動物ベースの場合は飽和脂肪酸の摂取量とたんぱく質の摂取量が増えていました。

 

  動物ベースと植物ベースの低炭水化物食で最も異なる5つの食品が特定されました。動物ベースの低炭水化物食では牛肉、豚肉、子羊、皮の付いた鶏肉、皮を剥いだ鶏肉、チーズの摂取量が多く、植物ベースの低炭水化物食ではナッツ、ピーナッツバター、ダークパン、グレインパン、チョコレート、白パンの摂取量が多くなっていました。

 

  低~中炭水化物摂取群を対象としたHPFS、NHS、ARICの結果によると、動物ベースのたんぱく質や脂肪の摂取量が多いと総死亡リスクは22%上昇していました(HR1.22、95%CI:1.14-1.31)。中~高炭水化物摂取群を対象としたNIPPON DATA80を加えた解析でも18%上昇していました(HR1.18、95%CI:10.8-1.29、p<0.0001)。

 

  一方、低~中炭水化物摂取群を対象としたHPFS、NHS、ARICの結果によると、植物ベースのたんぱく質と脂肪の摂取量が多いと総死亡リスクは19%低下していました(HR0.81、95%CI:0.76-0.85、p<0.0001)。中~高炭水化物摂取群を対象としたNIPPON DATA80を加えた解析でも18%低下していました(HR0.82,95%CI:0.78-0.87、p<0.0001)。

 

  これらの結果は炭水化物に代わるたんぱく質と脂肪の供給源、すなわち「動物性なのか植物性なのか」により、炭水化物摂取率と死亡率の関係を著しく修飾する可能性を示唆しています(表2)。

 

 

 なお、NIPPON DATA80(中村)においては、日本で多く食べられる「魚」がたんぱく質として解析されていますが、ARICでは動物性の「肉(脂質)」として解析されています。より厳格な解析が必要かもしれません。

 

 また、(PURE研究での)非常に高い炭水化物摂取率のアジア地域の主な対象は中国です。理由は不明ですが、中国政府が公表する値より高くなっていることにも注意が必要です。

 

 

 

糖質制限ダイエットの結論
  • 炭水化物摂取量は多すぎても少なすぎても死亡リスクを高める。
  • 炭水化物に代わるたんぱく質と脂質の供給源は総死亡を著しく修飾する。
  • 動物性たんぱく質と脂質は死亡リスクを増大させ、植物性たんぱく質と脂質は死亡リスクを減少させる。
  • 低炭水化物食(糖質制限ダイエット)は、植物性たんぱく質と脂質の摂取量が少くなり、動物性たんぱく質と脂質が多くなりやすく、注意が必要である。
  • 炭水化物(糖質)の極端な制限よりは、バランスのとれた食事(栄養)こそが重要である。