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2014年3月
小太りの日本人、超肥満の欧米人
日本人の肥満は「小太り」。「超肥満」の欧米人と比べると可愛いものです。したがって、糖尿病など健康に与える影響は「大したことはない」と思われがちです。はたして、そうでしょうか?
日本と欧米では肥満の基準は異なる
肥満とは体の脂肪(体脂肪)が増加した状態をいいます。体脂肪を測る方法は色々ありますが、直接計測するのは専用の機械が必要で煩雑です。したがって、一般的にはBMI(体格指数)を用いて肥満度や体脂肪量を推測する方法が用いられます。
BMIによる肥満の定義は日本と欧米では異なります。日本ではBMIが25以上で肥満と定義されます。欧米では30以上です。米国では成人の30%以上がBMI:30以上の肥満者です。日本人はBMI:30以上の肥満はわずか2~3%くらいです。もし、欧米人の肥満の基準を日本と同じBMI:25以上とすると、60%以上の人が肥満と判定されてしまいます。
超肥満の欧米人に糖尿病は多いのか?
糖尿病は肥満の人に多い病気です。そうすると、欧米人に糖尿病は多いのでしょうか?
ハワイとロサンゼルスに移住した日系人の糖尿病の有病率を調査した研究があります。これらの地区の日系人は相互間の結婚が多く、遺伝的素因は日本に住む日本人と変わらないと考えられます。糖尿病有病率はハワイの日系人は18.9%、ロサンゼルスの日系人は13.7%でした。日本に住む日本人が9.1%でしたから、1.5~2倍の糖尿病有病率を示しています。ライフスタイルの欧米化により糖尿病が増えた訳です。すなわち、糖尿病の発病には環境因子が関与しているが示されました。
一方、当時の米国白人の糖尿病有病率は6.6%でした。これは、同じライフスタイルでも民族などによる遺伝因子により糖尿病発症率が異なることを意味します。日系人は同じ生活環境でも米国白人より糖尿病になりやすいことが明らかになりました。
糖尿病の発症と環境因子
この様に糖尿病は環境因子と遺伝因子により発症率が違ってきます。もう一つ環境因子が大きく影響する例をあげてみましょう。
ピマ・インディアンと糖尿病
アメリカ、アリゾナ州に住むピマ・インディアン。人口の50%以上が糖尿病で、有病率の高さで世界的に有名です。60歳以上の女性では80%を超えています。彼らは氷河期の頃ベーリング海峡を渡りアジアから北米に移住した部族です。彼らは狩猟と採集や原始的な農業により生活の糧を得ていました。
20世紀初めヨーロッパ系アメリカ人が彼らの生活環境を破壊したため、多くのピマ・インディアンは保護地区で生活費の支給を受けるようになりました。その結果、欧米化した食事や運動不足により、肥満と糖尿病が急速に拡がっていきました。
一方、メキシコに住むピマ・インディアンはどうでしょう。彼らは今でも農業が中心で、昔ながらの生活を送っています。肥満も糖尿病もほとんど見られません。
このことは、糖尿病の発症には環境因子が大きく関わっていることを意味します。
糖尿病の発症と遺伝因子
次に、糖尿病の発症と遺伝因子の関係を見てみましょう。
倹約遺伝子
人類の歴史は飢餓と寒さとの戦いでした。乏しい食糧を脂肪やグリコーゲンなどの形で蓄えるのは、過酷な生活環境を生き抜き種族を保存するためには有利なことでした。この飢餓に強い遺伝子を倹約遺伝子といいます。
人類の誕生と歴史
人類の誕生と歴史には諸説があります。ある説に従うと次のようになります。人類の祖先はおよそ500万年前にチンパンジーから別れ、猿人、原人、旧人を経て約15万年前アフリカ東部で新人として誕生しています。約7万年前にその一部はアフリカを出ていきました。残った種族はネグロイドと呼ばれています。アフリカを出た種族はその後、ヨーロッパ方面に移動したコーカソイドとアジア方面に移動したモンゴロイドとに別れました。
農耕や牧畜が始まったのはおよそ1万年前、西洋の産業革命が200年前。それまでは先進国とされる国においてさえ、大部分の人は貧しい食生活に耐えていました。
倹約遺伝子が肥満遺伝子に
しかし、一部の先進国ではここ40~50年前より食糧が豊かになり、いわゆる「飽食の時代」に突入しました。また、交通手段が飛躍的に発達し、また日常生活も大変便利になりました。それらは、「運動量の減少」を意味します。その結果、それまで個人の生存と種の保存に有利であった倹約遺伝子が、逆に作用して「肥満遺伝子」として働くようになりました。すなわち、肥満や糖尿病などの生活習慣病の増加です。
ハンバーガーを食べ、車に乗っている原始人
人類の祖先が誕生したとされる500万年前を時計の午前0時、現在を24時とします。農耕が始まった1万年前は23時57分、200年前の産業革命が23時59分57秒、飽食に時代に突入した現在は23時59分59秒となります。時計でいうと「1秒前」です。このわずか1秒の間にそれまで生存に有利であった「倹約遺伝子」を変えることはまず不可能といえるでしょう。
この飽食の時代の現代人は、「ハンバーガーを食べ、車に乗っている原始人」をイメージするとよいでしょう。倹約遺伝子は肥満遺伝子へと変わりました。
モンゴロイドと倹約遺伝子
モンゴロイドはこの倹約遺伝子を持つ人の割合が、コーカソイドより高いとされています。おそらくモンゴロイドの方がより厳しい生活環境にあったためでしょう。
先に述べたピマ・インディアンもモンゴロイド系の部族です。すなわち、ピマ・インディアンはもともと太りやすい体質に飽食と運動不足が加わり、世界有数の肥満と糖尿病発症率を誇るようになったのです。
日本人はインスリン分泌能力が低い
先に述べた説に従うと、約7万年前アフリカを出た種族のうち、コーカソイドは牧畜が主で肉・ミルク・バターなど動物性脂肪が多い食事が中心でした。動物性脂肪はより多くのインスリンを必要とします。
一方、モンゴロイドは農耕が主でインスリンをさほど必要としません。その結果、コーカソイドはモンゴロイドと比べると、インスリンを分泌するβ細胞と膵臓がより発達しました。
私たち日本人は言うまでもなくモンゴロイドです。日本人の膵臓の重さは平均70~100gです。一方、
白色系欧米人のそれは100~140gで、日本人の1.5~2倍くらいの重さです。
実際のところ、白色系欧米人は血糖値を下げる働きのあるホルモン「インスリン」の分泌能力が、日本人を含むモンゴロイドの1.5~2倍くらいあります。
モンゴロイドはインスリンの分泌能力が低いため、「少しの肥満」でも糖尿病になってしまいます。一方、カーカソイド即ち白人系欧米人は超肥満になるまで糖尿病にはなりません。
日本人はもともと太りやすく、糖尿病になりやすい
私たち日本人は、世界有数の肥満と糖尿病有病率を誇るピマ・インディアンと同じモンゴロイドです。もともと、太りやすく糖尿病になりやすい体質だったのです。