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2016年12月
漢方薬 |
漢方薬と消化器疾患 |
従来、便秘の治療に対する漢方薬には明らかなエビデンス※1)のある薬剤は少ないと考えられてきました。まず作用機序の明らかな西洋薬を使用し、効果がないか十分な効果が得られない時に、漢方薬に切り替えるか併用することが多かったようです。
しかし近年、大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)や大建中湯(だいけんちゅうとう)などの漢方薬において、臨床効果や作用機序に関する明らかなエビデンスが出てきています。その結果、漢方薬をファーストチョイスとすることも多くなってきました。実際、漢方薬は食欲不振や上腹部症状、便秘、下痢などの消化器症状を呈する消化器領域でよく使われる薬剤となってきています。
センナやセンノシドは生薬※2)の一つ大黄(だいおう)に含まれる刺激性下剤の代表的成分の一つで、市販の漢方薬にも含まれています。大黄甘草湯などの大黄を含む漢方薬は古くから弛緩性便秘に用いられてきました。
麻痺性イレウス※3)の治療に用いられる大建中湯は、腸管運動を亢進させるため大腸運動が低下している弛緩性便秘に使用されています。
防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)は、大黄を含む多くの生薬が含まれて肥満型で腹部膨満感の強い便秘に用いられています。
桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)は、下痢と便秘を繰り返す過敏性腸症候群に使用されています。
このように、漢方薬は西洋薬と共に日常診療でよく使用される薬剤となってきています。
漢方薬は複数の成分を含み、かつ種類も多いため個々の症状に応じて薬剤を選択することができます。また、複数の生薬がお互い相補い、また一つの成分が過剰に発現するのを抑えるよう絶妙のバランスで配合されていています。
したがって、便秘を生理学的な病態から分類し消化器症状に加え、消化器症状以外の訴えや体形などを考慮して使用すると、その効果をさらに高めることができます。
※1)エビデンス(evidence):証拠、根拠のこと。医学で臨床結果などの科学的根拠。その治療法がよいとされる証拠・根拠。
※2)生薬(しょうやく):漢方薬を構成する原料であり、植物や動物、鉱物など天然に存在する産物を乾燥や簡単な加工をして得られる薬のこと。「生薬=漢方薬」ではない。例えば、「葛根湯(かっこんとう)」という漢方薬は「葛根・麻黄・桂枝・芍薬・生姜・大棗・甘草」という7つの生薬で構成されている。
※3)麻痺性イレウス:腸の動きが障害され腸の内容物が流れなくなり起こる腸閉塞のこと。原因として腹部の手術後、脳疾患、腹膜炎、薬の副作用などがある。
便秘治療薬としての漢方薬の作用機序 |
慢性便秘治療の基本は、①腸管における水分の調節による便の軟化、②腸管粘膜の刺激による腸管運動の亢進、③腸管の過剰収縮を和らげることにあります。したがって、慢性便秘に使用される漢方薬はこれらの作用を有する生薬が数種類配合されています。
① 腸管における水分の調整による便の軟化作用として漢方薬に含まれる成分は、膠飴や芒硝(含水硫酸ナトリウム)があげられます。
② 腸管粘膜の刺激による腸管運動の亢進作用を有する生薬には、センナやセンノシドなどアントラキノン系誘導体を含有する大黄や山椒などがあります。
③ 腸管の過剰収縮を和らげる作用を有する生薬には、甘草(かんぞう)、芍薬(しゃくやく)が挙げられます。甘草は大黄甘草湯、防風通聖散、潤腸湯、桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)などに、芍薬は麻子仁丸、防風通聖散などに含まれています。
このように、漢方薬には便軟化作用、大腸運動亢進作用、平滑筋の過剰収縮抑制作用を有する生薬がそれぞれ異なった分量で配合されており、症状や病態に応じて使い分けられています(表1)。
便秘治療薬としての漢方薬の実際 |
便秘治療薬としての漢方薬は大腸刺激性の生薬である大黄を含むものと、含まないものに分けて考えると理解しやすいようです。
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漢方薬は自然のものだから安全か? |
漢方薬は「自然の生薬からできているので安全だ」とよく言われています。しかし、便秘に用いられるほとんどの漢方薬に大黄が含まれています。すでに述べたように、大黄を多く含む漢方薬を長期間服用し続けると習慣性が生じてきます。さらには大腸メラノーシスを発症する場合もあります(院長の独り言 第39号 平成28年10月)。
したがって、漢方薬といえども注意が必要です。長期にわたり使用する場合は大黄の含有量が少ない漢方薬を選ぶ必要があります。
たかが便秘、されど便秘 – まとめ |
慢性便秘は
①直腸型(スーパー便秘)
②痙攣性便秘(ストレス型便秘、過敏性腸症候群)
③弛緩性便秘(普通の便秘)
の3つのタイプがある。そのタイプにより症状や原因、対処法が異なる。