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がんを防ぐーコーヒー

2015年10月

コーヒーの摂取が多い人ほど、肝臓がん・子宮体がん・結腸がんが少ない

 日本人とコーヒー。コーヒーをまったく飲まない人から1日に何杯も飲む人まで、幅広い飲用習慣があります。また、コーヒーと健康に関しても様々な報告があります。

 そのうち、「コーヒーの摂取が多い人ほど、肝臓がん・子宮体がん・結腸がんが少ない」という報告。国内外から多数あります。コーヒー愛飲家にとってはたいへん喜ばしいことです。はたして、本当でしょうか?


JPHC(多目的コホート)研究

 コーヒーとがんの関係について、1990(平成2)年より10年以上にわたる厚生労働省研究班による追跡調査があります。 いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てる研究です(JPHC研究)

 平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所管内に在住の住民を対象とし、がんや循環器疾患になっていない40~69歳の男女約9万人を、平成23年(2011年)まで追跡調査しています。

 そのなかで、習慣的コーヒー摂取と主要臓器のがんの発生率および全死亡・主要死因死亡との関連の調査・研究が行われました。

コーヒーをよく飲む人ほど肝臓がんの発生が少ない

 1990年より2001年までの追跡調査です。約9万6千人が研究の対象となっています。調査開始時には、対象者の33%はコーヒーをほとんど飲まず、37%はほぼ毎日コーヒーを飲んでいました。

 調査開始から約10年間の追跡期間中に、334名(男性250名、女性84名)が肝臓がんになっています。

 調査開始時のコーヒー摂取頻度により6つのグループに分けて、その後の肝がんの発生率を比較しました。コーヒーをよく飲む人は①喫煙者が多い、②野菜やお茶の摂取が少ない、③男性では飲酒量が少ない、④女性では飲酒量が多い、などの傾向がみられます。これらの要因自体が肝がんの発生率と関連する可能性があるため、あらかじめその影響を考慮して分析しています。

 コーヒーをほとんど飲まない人と比べ、ほぼ毎日飲む人では肝がんの発生率が約半分に減少し、1日の摂取量が増えるほど発生率が低下しています。1日5杯以上飲む人では、肝がんの発生率は4分の1にまで低下していました。発生率の低下は男女に関係なく見られています。

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なぜ、コーヒー飲用が肝臓がんのリスクを下げるか?

 実のところ、よく分かっていません。コーヒー飲用者には2型糖尿病が少ないことはよく知られています。また、その証拠も多数あります。その効果の主役として、コーヒーに含まれるクロロゲンが注目されています。

  • クロロゲンはポリフェノールの一種。
  • ブドウ糖の吸収を抑え、血糖値上昇を抑制する。その結果、インスリン抵抗性が改善されインスリン分泌は抑えられる。インスリンは腫瘍増殖因子の一つ。クロロゲンによりインスリンの上昇が抑えられ、がんになりにくくなる。
  • 強い抗炎症作用があり、肝炎などの炎症により発生する活性酸素やフリーラジカルを消去することにより発がんリスクが下げられる。

 

*注意:肝がんの最大の原因は肝炎ウイルス

 だたし、肝がんの原因として絶対に忘れてはならないのは、最大の危険因子であるB型・C型などの肝炎ウイルスです。コーヒー飲用だけで発がんが予防できる訳ではありません。肝炎ウイルスに感染している場合には、早めに専門医に相談し、肝硬変や肝がんになるのを予防したり遅らせたりする治療をおこなう必要があります。

コーヒーは女性の子宮体がんを予防

 この研究では調査開始時のコーヒー摂取頻度により4つのグループに分け、その後の子宮体がんの発生率を比較しています。調査開始から約15年間の追跡期間中に、調査対象者約5万4千人のうち117人が子宮体がんになりました。

 コーヒーを飲むのが週2日以下のグループの子宮体がんリスクを1とすると、1日1~2杯、3杯以上飲むグループではそれぞれ、0.61、0.38とリスクが低下していました。

 なぜ、コーヒーが子宮体がんを予防できるかについては、肝がんの場合と同様に、インスリン抵抗性が改善されるためと考えられています。

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コーヒーは女性の浸潤結腸がんを予防

 1990年より2002年までの追跡調査・研究です。約9万6千人が研究の対象となっています。約10年の追跡期間に1163人(男性726人、女性437人)が大腸がん(*)にかかりました。

 男性では、どの大腸がんについても、コーヒー摂取と大腸がんの関連はみられませんでした。

 女性では、ほとんど飲まないグループに比べ、1日に3杯以上飲むグループで、大腸がん全体のリスクが約3割、浸潤がんでは約4割低くなっていました。ただし、いずれも統計学的に有意な差ではありませんでした。さらに、浸潤がんを部位別に分けたところ、1日に3杯以上飲むグループで結腸がんリスクが56%低くなり、コーヒーを飲む量が多いほどリスクが低くなるという傾向が見られました。直腸がんでは、同様の傾向は見られませんでした。

*)大腸とは結腸と直腸を合わせたもの。

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コーヒー摂取により全死亡、心疾患・脳血管疾患・呼吸器疾患による死亡リスク減少

 1990年より2011年まで、約9万人の追跡調査・研究です。コーヒーを飲む頻度から、ほとんど飲まない、1日1杯未満、毎日1~2杯、毎日3~4杯、毎日5杯以上飲むという5つの群に分けて、その後の全死亡およびがん・心疾患・脳血管疾患・呼吸器疾患・外因による死亡との関連を分析しました。この研究の追跡調査中に12,874人の死亡が確認されています。

 コーヒーをほとんど飲まない群を基準として比較した場合、1日1杯未満、1日1~2杯、1日3~4杯、1日5杯以上の群の危険度は、それぞれ全死亡で0.91 、0.85 、0.76、0.85 となっていました。すなわち、コーヒーを1日3~4杯飲む人の死亡リスクは、まったく飲まない人に比べて24%低いことが分かりました。さらに、飲む量が増えるほど危険性が下がる傾向が、統計的にも認められています。

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 死因別に調べたところ、がん危険度には有意な関連が認められませんでしたが、心疾患、脳血管疾患、呼吸器疾患による死亡については、コーヒー摂取による危険度の有意な低下がみられました。

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 この研究ではがん死亡については有意な関連が見られませんでした。部位別に行われた先行研究では、コーヒー摂取と肝がん、膵がん、女性の大腸がんと子宮体がんのリスク低下との関連が示唆されています(前述の①②③)。全がん死亡では他の部位のがんも総合して分析を行ったため、有意差がなくなった可能性が考えられます。

コーヒー摂取が死亡リスクをさげる理由

 なぜコーヒー摂取で全死亡、心疾患・脳血管疾患・呼吸器疾患による死亡リスクの低下が見られるのでしょうか。今のところ、次の説が有力です。

  • コーヒーに含まれるクロロゲン酸の血糖改善作用や血圧調整作用や抗炎症作用がある。
  • コーヒーに含まれるカフェインが血管内皮の機能を改善。
  • カフェインには気管支拡張作用があり、呼吸器機能を改善。

 
 今回の結果から、一日4杯までのコーヒー摂取は死亡リスク低下と有意な関連があることが示唆されました。ただし、この研究では、缶コーヒー、インスタントコーヒー、レギュラーコーヒーを含むコーヒーの摂取頻度を尋ねています。また、カフェインとカフェイン抜きコーヒーも分けてはいません。これらのコーヒーと、粉や豆からドリップなどで濾して飲むレギュラーコーヒーを分けて、さらなる検討が必要かもしれません。

膀胱がんに注意

 一方で、コーヒーは膀胱がんのリスクを高めるという報告があります。とくに、喫煙習慣のある場合は相乗作用により膀胱がんのリスクが高まります。喫煙習慣のない場合は、それほどリスクを上昇させません。したがって、膀胱がんの予防のためには、喫煙者はまず禁煙することが大切です。

 

まとめ

  • コーヒーを多く飲用する人は、肝臓がん・子宮体部がんの発生リスクが減少する。膵がんの発生リスクを下げる可能性もある。女性では結腸がんの発生リスクが下がる可能性がある。
  • コーヒー多飲者は全死亡と心疾患・脳血管疾患・呼吸器疾患による死亡リスクを下げる。
  • 全がんにおいては、死亡リスクは下げなかった。ただし、リスクの上昇は認めなかった。
  • 肝臓がん・膵がん・子宮体部がん・結腸がんなど、個別の臓器での死亡リスクの解析が待たれる。

 

 コーヒーの飲用は、膀胱がんの発生リスク上昇の可能性以外は、肝臓がん・膵がん、女性での子宮体がん・結腸がんの発生リスクを下げるようです。一方、全がんでの死亡リスク減少は証明されませんでしたが、全死亡、心疾患・脳血管疾患・呼吸器疾患による死亡リスクを下げるようです。

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 いままで、コーヒーを飲む習慣のなかった人が、その習慣を改める必要はありません。しかし、コーヒー愛飲家にとっては好ましい結果となりました。どうぞ、安心して、自信を持って「おいしいコーヒー」をお楽しみください。

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