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本当は危ない人工甘味料
ホワイトハウスの大統領執務室のデスクに設置されている箱には「赤いボタン」があります。「核ボタン」でしょうか? 安心してください! 核ボタンではありません。歴代大統領が執事を呼ぶためのボタンです。
トランプ大統領の場合、彼がこのボタンを押すと執事がよく冷えたコーラを持ってきます。通常のコーラではなく、ダイエットコーラです。「カロリーゼロだから太らない」とのことです。はたして、本当でしょうか? しかも、大統領は1日12本ものダイエットコーラを飲むそうです。多くの専門家は人工甘味料の健康への影響に懸念を表明しています。
ダイエットコーラ |
■コーラとダイエットコーラの違い
コーラのエネルギー(カロリー)はコカ・コーラ100mLあたり45kcal、ペプシコーラ100mLあたり48kcalです。コカ・コーラ500mLでは45×5=225kcal、ペプシコーラ490mLでは48×4.9=235.2kcalとなります。トランプ大統領が(普通の)490mLまたは500mLコーラを1日12本飲んだとすると、コカ・コーラなら225×12=2700kcal/日、ペプシコーラなら235.2×12=2822kcal/日のエネルギーをコーラから摂取することになります(表1)。
一方のダイエットコーラ。正式には「ダイエット」の名の付くものはなく、コカ・コーラゼロ、コカ・コーラゼロカフェイン、コカ・コーラプラス(特定保健用食品)、ペプシスペシャルゼロ(特定保健用食品)となっています。これらは全て100mLあたり0kcalです。すなわち、1日12本飲んでも0kcalです(表2)。
■ダイエットコーラの成分
当然のことながら、ダイエットコーラの甘味成分は砂糖やブドウ糖、果糖、果糖ぶどう糖液糖(註1)ではありません。人工甘味料です。ダイエットコーラの一つコカ・コーラプラスの成分を下に示します。
■ダイエットコーラに関するよくある誤解:カロリーゼロ(0kcal)とは
最近、「ゼロ」を強調した清涼飲料やお菓子が増えてきています。それらにはカロリーゼロ、ノンカロリー、カロリーオフ、低カロリー、ローカロリーといった表示があります。どこがどう違うのでしょうか? 日本の場合、健康増進法第31条(平成25年9月27日)に基づき、消費者庁より下記の栄養表示基準が示されています。
食品100g(飲料100mL)当たり5kcal未満のカロリーを含む
食品100g当たり40kcal未満のカロリーを含む
飲料100mL当たり20kcal未満のカロリーを含む
註)実際のカロリーは海外向け製品のラベルには明記されている場合もある。その数値は100mlあたり0.27~0.5kcal、250mlあたり0.5~1kcalと表記されており、国によって異なる。例えば、英国のコカ・コーラzero sugarは100mLあたり0.3kcalと表記されている。日本を含め米国のものはカロリー表記はされていない。
■ダイエットコーラが危険なのは甘味成分の人工甘味料
トランプ大統領が飲むとされるダイエットコーラが英国でのzero sugar(0.3kcal/100mL)と同じだとすると、12本の総カロリーは0.3kcal×5×12=18.0kcalとなります。これだと、単純にエネルギー(カロリー)のみでは健康被害はもたらさないでしょう。危険なのは、その甘味成分であるアスパルテーム・L-フェニルアラニン化合物、アセスルファムK、スクラロースなどの人工甘味料です。
■ダイエットソーダ
アスパルテーム・L-フェニルアラニン化合物、アセスルファムK、スクラロースなどの人工甘味料を添加した炭酸飲料をダイエットソーダといいます。当然のことながら、人工甘味料による危険性を伴います。なお、ダイエットコーラはダイエットソーダの一製品です。
人工甘味料の危険性 |
甘味料も様変わりしてきました。かつてはサッカリン、チクロから始まり、それらが安全性に問題があるということで禁止されると、アスパルテームや天然甘味料のキシリトール、ステビア、ソルビトールなどが主流となりました。残念ながら現在ではネオテーム、スクラロース、アセスルファムKなどの人工甘味料が、ほとんどの甘みのある飲食物で使用されています。これらは砂糖よりも安価で大量生産できるためメーカーからは大変重宝がられています。
サッカリンは砂糖の200〜700倍の甘みがあります。アスパルテームは160〜220倍、アセスルファムKは200倍、スクラロースは600倍も甘くなっています。さらに、新しい人工甘味料であるネオテームは砂糖の約1万倍(7000~13,000倍)の甘味があります。
カロリーゼロの飲食物は、「たくさん摂っても、太らないから大丈夫」と思いがちです。安心してついつい食べ過ぎてしまいます。しかし、そんな心理的な要因だけでなく、カロリーゼロ飲食物に含まれる人工甘味料が体にさまざまに影響して肥満につながることが分かってきました。人工甘味料が肥満の原因となると考えられている、①ホルモンに作用する、②味覚を鈍化させる、③依存性がある、④その他の作用について見てみましょう。
■ホルモンに作用する
私たちが食事をすると、デンプンや砂糖などの炭水化物や糖質は消化管で単糖(ブドウ糖、果糖など)まで分解(消化)され吸収されます。吸収されたブドウ糖は血液中に入り血糖値は上昇します。血糖値上昇のシグナルを膵臓が感知し、膵β細胞からインスリンが分泌され、肝臓や筋肉でのブドウ糖取り込みが促進されます。取り込まれたブドウ糖はグリコーゲンなどに変換され貯蔵されます。このようにして血糖値は下がり、一定の血糖値となるよう調節されています。
また、インスリンは脂肪細胞でもブドウ糖の取り込みを促進します。取り込まれたブドウ糖は中性脂肪に変換され蓄積されます。脂肪組織(脂肪細胞)は過剰なブドウ糖(高血糖)の毒性(ブドウ糖毒性)から私たちの身体を守る働きもしてくれていた訳です。しかし、過剰のインスリンは肥満の原因にもなります。これが「インスリンは肥満ホルモン」と呼ばれる由縁です。
最近、人工甘味料を摂取した時の血糖値とインスリン分泌が、①血糖値は上昇しインスリン分泌は亢進する、②血糖値とインスリン分泌に変化はない、の相反する研究報告がなされ論争中です。どちらの説でもダイエットソーダが肥満の原因になるという機序を次の様に説明しています。
人工甘味料摂取後、血糖値が上昇するとインスリン分泌が促進され血糖値が下がる。すると、摂食中枢が刺激され摂食行動をとるようになり、過食から肥満になる。
人工甘味料を摂取すると味覚は甘いもの(糖分)を摂取したと誤認識(勘違い)し、それが脳に伝達され「血糖値が上昇する」というシグナルになる。しかし、実際には人工甘味料では血糖値は上昇しないため、脳(神経)と身体の間に乖離(混乱)が起きる。それを是正するために、摂食中枢から「摂食命令」が発令され、食事をすることにより血糖値を上昇させようとする。それが過食に結び付き肥満となる。
■味覚を鈍化させる
強力な甘みを持つ人工甘味料は薄めて使われます。しかし、この甘味の強い人工甘味料に慣れてくると、甘味に対する感覚が鈍ってきます。以前はコーヒーにパルスイート(アスパルテームの商品名)1つだったのが今では2つ更には3つ、というように次第に増えていきます。そうなると、自然の甘さの果物や天然甘味料を使用したお菓子を食べても、その甘みでは満足できず、ついつい食べ過ぎたり、砂糖を追加したりするようになります。その結果、カロリーのオーバーとなり肥満を招きます。
また、甘み以外の味覚も鈍感になり全体的に濃い味付けとなっていきます。例えば、塩分の摂取量が増え血圧が上昇するなどといった弊害が生じるかもしれません。
舌の味蕾にある甘みを感じるセンサー(甘みセンサー(註2))は、分子量や化学構造が異なる糖類(ショ糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖)、甘みアミノ酸、甘みタンパク質、さらに人工甘味料も感知できるそうです。さらに、この甘みセンサーは舌だけでなく胃や腸、膵臓にもあることが分かってきました。
特に、胃にある甘みセンサーが甘味を感知すると、グレリン(註3)が分泌されます。グレリンは胃などから分泌されるホルモンで、脳の視床下部に働いて食欲を増し、成長ホルモンの分泌を促進させる働きがあります。食後に甘いデザートを食べても、まだ食欲を感じるのは、このグレリンの作用と考えられています。人工甘味料の甘さも、同じ甘みセンサーで感知されますから、ここでグレリンが分泌され、さらに食欲が増えるということになります。
■依存症(癖になる)
私たちが美味しい物を口にすると、ドーパミン(註4)などの神経伝達物質が分泌され、満足感を得ます。そして「もっと食べたい」と思います。私たちが食べものから身体にエネルギーを取り込む際、その調節に重要な役割を果たしている神経系を「脳内報酬系(註5)」と呼びます。脳内報酬系は「快楽中枢」とも呼ばれ、自分へのご褒美を与える神経システムなのです。ところが、「もっとたべたい」という欲求が強くなりすぎると、喜びがコントロールできなくなり、習慣化、乱用、依存、そして中毒へと移行していきます。
ドーパミンは、いつも出ているわけではありません。私たちが日常生活で何か行動し始める時、ドーパミンが分泌されます。私たちの何らかの行動によって脳が感動や喜びを覚えたときもドーパミンが分泌され、私たちに「快楽」をもたらします。例えば、映画、スポーツや音楽などに強く感動したときに、脳内でドーパミンは分泌されます。
食事を始めると、私たちの体内ではドーパミンが分泌され、食欲が増します。そのうち、連続した学習により、食べものを想像するだけでドーパミンが分泌されるようになります。例えば、食べもののテレビCMや写真、料理の音やにおいを感知しただけでも、ドーパミンが分泌され食欲が増進します。
ところが、食事に対する「快楽」への欲望が強い場合には、ドーパミンが過剰に分泌されます。そして、薬物依存症と同じように、大量のドーパミンで過食に陥ってしまいます。過食により一時的な快感や興奮、満足感が得られますが、その快感はすぐに消失し、再び暴飲暴食をしてしまいます。それは、次第に習慣化し、食欲に対するバランスが崩れてコントロール不能状態となり、「甘いもの依存症」に陥ってしまいます。
■その他の作用
最近の研究では、サッカリンやスクラロースなどの人工甘味料が腸内細菌叢(註6)に変化をもたらし、肥満や耐糖能障害(註7)、糖尿病のリスク上昇など様々な生活習慣病に悪影響もたらす可能性が報告されています。
一部の人工甘味料にはセロトニン(註8)やドーパミン(註4)などの脳内神経伝達物質を減少させ「うつ状態」「うつ病」を引き起こす可能性があります。セロトニンやドーパミンは脳内でチロシンやトリプトファンから作られています。アスパルテームの代謝産物フェニルアラニンはチロシンやトリプトファンの血液脳関門(註9)の通過をブロックします。
人工甘味料入り炭酸飲料(ダイエットソーダ)を1日2杯以上飲んでいた人は、飲んでいなかった人と比べて腎機能が30%低下していたという報告があります(11年間の観察、米国ハーバード大学)。
毎日、人工甘味料入り炭酸飲料(ダイエットソーダ)を飲んでいた人は、飲んでいなかった人と比べて脳卒中や心筋梗塞などの心血管系疾患を発症するリスクが43%高かったという報告があります(コロンビア大学)。
まとめ |
安価で大量生産できる人工甘味料入りの飲食物はメーカーにとっては大変魅力的な商品です。しかし、「ゼロカロリー」と謳ってはいても、これらは結果的には肥満の元凶です。さらに、「ホルモンへの作用」「味覚鈍麻」「甘み依存症」など、一般消費者には分かりにくい健康被害もあります。メーカーの「ゼロカロリー」の甘い言葉に騙されないよう注意が必要です。そのためには、飲食物の成分表示を普段から注意して見るようにしましょう。
註解 |
1)ぶどう糖果糖液糖:トウモロコシなどのデンプンを加水分解してブドウ糖を作り、その一部を酵素で果糖(フルクトース)に異性化(変換)したものを異性化糖(いせいかとう)という。砂糖のように粉の形ではなく、液糖(液体)として使用される。「異性化」とは、「分子の原子数を変えないで、分子内の結合状態を変える」ことをいう。
異性化糖は天然甘味料として多くの食品に利用され、ジュース缶や清涼飲料缶の原料欄に「異性化糖」、または「ぶどう糖果糖液糖」や「果糖ぶどう糖液糖」と表示されている。糖のうち果糖の割合が50%未満のものを「ぶどう糖果糖液糖」、50%以上90%未満のものを「果糖ぶどう糖液糖」、90%以上のものを「高果糖液糖」という。糖の構成成分の多い成分から順に表記する。
1960年代に日本で開発された異性化糖は、1970年代のキューバ危機により砂糖を輸入できなくなった米国で、その代替案として急速に広まり、食文化まで変えてしまった。現在、炭酸飲料、果実飲料、スポーツドリンク、シリアル、ジャム、パン、ヨーグルト、ケチャップなど、米国人が普通に食べるあらゆる飲食物に使用されている。
近年、異性化糖は肥満の最大の原因といわれ、米国をはじめ世界中で深刻な社会問題となっている。日本ではあまり問題視されてはいないが、メーカーは一般消費者に気付かれないように分かりにくい表現、すなわち異性化糖、ぶどう糖果糖液糖、果糖ぶどう糖液糖などを、前述の多種多様な飲食物の成分表示に使用している。
なお当然のことながら、ダイエットコーラではなく「普通のコーラ」の主となる糖分(甘味成分)は天然(本物)の砂糖ではなく、「果糖ぶどう糖液糖(人工的な果糖が50%以上90%未満)」である。
2)甘みセンサー:舌にある味蕾の味細胞が甘味、酸味、塩味、苦み、うま味の5つの基本味を感知し、味覚神経を介して大脳の味覚中枢にその信号が伝達され「味」を感知している。そのうち甘味を感知する甘味レセプターは舌だけではなく、胃や腸、膵臓にもあること分かってきた。そして、胃にある甘味レセプター(甘味センサー)が甘味を感知すると、グレリンというホルモンが分泌される。グレリンは脳の視床下部に働いて食欲を増し、成長ホルモンの分泌を促進する。
3)グレリン (ghrelin) :胃から分泌されるペプチドホルモン。下垂体に働き成長ホルモン分泌促進作用や強力な摂食促進作用があり筋肉増強、体重増加をもたらす。1999年、国立循環器病センターの児島将康・寒川賢治らにより発見された。
4)ドーパミン(dopamine):中枢神経系に存在する神経伝達物質で、アドレナリン、ノルアドレナリンの前駆体でもある。運動調節、ホルモン調節、快の感情、意欲、学習などに関わる。分かりやすくいうと、「快感や多幸感を得る」「意欲を作ったり感じたりする」「運動調節に関連する」といった機能を担う。セロトニン、ノルアドレナリン、アドレナリン、ヒスタミン、ドーパミンを総称してモノアミン神経伝達物質と呼ぶ。ドーパミンは「快感や多幸感」を増幅する神経伝達物質。
5)脳内報酬系:欲求が満たされた時、あるいは満たされることが分かった時に、脳内報酬系(別名:A10神経系)とよばれる神経回路にある神経細胞の間でドーパミンなどの神経伝達物質のやりとりが活性化する。脳内報酬系は、「快感回路」、「快感の伝道師」などとも呼ばれる。
例えば、何かを達成した時、誰かに褒められた時、大好きなチョコレートを食べた時、私たちは「嬉しい」とか「心地よい」と感じます。その時、脳内では快楽物質であるドーパミンが分泌されていて、それが人に快楽を感じさせているのだと言われている。そのシステムのことを「報酬系」という。
6)腸内細菌叢:ヒトの腸内には体内の細菌のうち約9割が棲みついている。その数はおよそ100~1000兆個、種類は約1,000種類、重さにして約1~2kgと言われている。ヒトの細胞は約60兆個といわれているが、身体の中には自分の細胞よりもはるかに多い細菌がいることになる。
大腸に棲む細菌を「腸内細菌」という。通常ウイルスなどの異物は免疫システムにより体内から排除されるが、免疫寛容という仕組みによって排除されない。この仕組みによって共存を許された細菌のひとつが腸内細菌で、回腸の終わりから大腸にかけて、それぞれの種類ごとにグループを作り棲みついている。顕微鏡で見ると、まるで「お花畑(フローラ)」のように見えることから「腸内フローラ」とも呼ばれている。
腸内細菌叢はおなかの調子だけでなく、メタボリックシンドロームや生活習慣病、更には免疫といった全身の健康とも関わっていることが明らかになってきた。
7)耐糖能異常(Impaired Glucose Tolerance; IGT):血糖値が正常ではないが、しかし糖尿病ではないという中間の状態のこと。放置すると糖尿病になる確率が高い。糖尿病予備群、境界型糖尿病ともいわれる。体内のインスリンの分泌量が少ない場合や、インスリンの働きが悪くなり血中の糖(ブドウ糖)の量が増加した(高血糖)状態で生ずる。
8)セロトニン(serotonin):別名、「幸せホルモン」と呼ばれる脳内神経伝達物質(脳内ホルモン)。「ノルアドレナリン(神経を興奮)」や「ドーパミン(快感を増幅)」と並び、感情や精神面、睡眠など人間の大切な機能に深く関係する三大神経伝達物質の一つ。脳は緊張やストレスを感じるとセロトニンを分泌し、ノルアドレナリンやドーパミンの働きを制御し、自律神経のバランスを整えようとする。ストレスが溜まっている時に温泉に入ったり、リラックス効果のある体操などを行ったりすると癒されるのは、セロトニンが増え、ノルアドレナリンが減少するから。逆に、ストレスや疲労が溜まると、セロトニンの分泌量が減ったり、働きが制限されたりする。
9)血液脳関門(blood-brain barrier、BBB):脳には血液脳関門 (Blood-brain barrier、 BBB)と血液脳脊髄液関門(Blood-cerebrospinal fluid barrier、 BCSFB)が存在し、循環血液と脳内の物質の輸送を厳密に制御している。血液中に到達した薬物が脳実質細胞へ移行して作用を発現するには、BBBを通って脳内へ運ばれる必要がある。血液中のグルコースやアミノ酸などはBBBのGLUT-1, LAT-1という輸送担体により脳内へ供給される。逆に、脳にとって有害となる物質や薬物などが脳内へ運ばれると、脳が正常に働かなくなる。BBBには脳にとって有害となる物質や薬物を脳内へ移行しないバリアーとしての働きがある。