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胃食道逆流症(GERD)とは |
■GERD(ガード)とは胃食道逆流症(gastro-esophageal reflux disease)の頭文字をとった略語です。「胃の内容物が食道に逆流しておこる病気」という意味です。
様々な理由により、胃内容物が頻繁に食道に逆流するようになると、胃液の酸のため「胸焼け」「酸っぱいものが上がってくる感じ」がおこります。中には狭心症を紛らわしい「胸の痛み」を感じることがあります。
逆流症状のほか、胃酸による「食道のただれ(食道炎)」がおこります。症状があっても食道炎がないとか、逆に食道炎があっても症状が軽いこともあります。
したがって、逆流による「症状」あるいは「食道炎」の、どちらかがあればGERDと診断します。
■GERDと逆流性食道炎の違い
GERDには次の2つのものが含まれています。
逆流性食道炎も非びらん性胃食道逆流症のGERDの一部です。非びらん性胃食道逆流症のことをnon-erosive reflux disease NERD(ナード)と呼ぶこともあります。
GERDの原因は? |
GERDの原因には①食道が逆流しやすい状態がある、②食道の粘膜を刺激する強い酸が胃から分泌されている、③(逆流が少なくても)食道の粘膜が過敏になっている場合があります。
■食道が逆流しやすい状態がある
胃粘膜は自身の酸によって障害を受けないように、自身を保護する機構があります。しかし、食道にはこのような機構がありません。したがって、胃酸や消化酵素が食道へと日常的に逆流すると逆流症状がでたり、食道粘膜に障害が生じます。
食道の最下部には下部食道括約筋(LES)と呼ばれる輪状の筋肉があって、正常なら胃の内容物が食道に逆流しないように防いでいます。この機能が低下していると胃酸や消化酵素の逆流が起こります。
立っているときや腰掛けているときは、重力が、胃の内容物が食道に逆流するのを防ぐのに役立っており、横になっているときに逆流が悪化しやすいのはこのためです。
また、食後すぐは胃の内容物の量が多く、酸性度も高く、下部食道括約筋が適切に機能しにくくなるため逆流が起きやすくなります。
なお、GERDを起こしやすくする病態に、食道裂孔(れっこう)ヘルニアがあります。
逆流が生じやすくなる要因には、体重増加、脂肪分の多い食物、チョコレート、カフェイン入り飲料や炭酸飲料、アルコール、喫煙、ある種の薬などがあります。
■食道の粘膜を刺激する強い酸が胃から分泌されている
ピロリ菌に感染していない胃は粘膜の萎縮が進んでおらず胃酸分泌が十分に保たれています。また、逆にピロリ菌に感染した高齢の方は胃から酸の分泌が弱まっています。このような方はGERDにはなりにくいされています。
■食道の粘膜が過敏になっている
食道に逆流してきた酸に敏感に反応すると、内視鏡では食道炎はなくても胸焼けなどの逆流症状がおこります。
GERDになりやすい人とは? |
当然のことながら、GERDの原因となる状況を持っている人がGERDになりやすいという訳です。そして、それらは①生活習慣の問題、②体型など身体的問題、③その他の問題に分けることができます。
■ 生活習慣の問題
食後、とくに食べ過ぎた後は胃が膨らんで過剰な力がかかります。その力を減らすため下部食道括約筋(LES)が一時的に緩み(弛緩)し、ゲップとして空気を外に逃がします。この時、同時に胃酸の逆流も起こります。
高脂肪食の摂取も胃酸の逆流が起こりやすくなります。脂肪摂取によりコレストキニンというホルモンが分泌されます。このホルモンによりLESが緩み、胃酸の逆流が起こります。
また、アルコール、喫煙も胃酸の逆流を引き起こしやすくなると言われています。
食後は胃酸逆流がおこりやすい時間帯です。食べてすぐ寝ると、寝ている時間帯が胃酸逆流発生時間となってしまいます。また、「横になる」ということは食べたものが逆流しやすくなる状態といえます。
■体型の問題(お腹に圧力がかかる体型)
庭仕事や床掃除などお前かがみ姿勢、腹部を締めすぎる服装、お腹に力を入れる仕事あるいはその癖のある人では、お腹全体が圧迫され逆流が起こりやすくなります。
■その他の要因
狭心症治療薬、一部の高血圧治療薬は血管の平滑筋を緩めることで効果を発揮します。この作用は食道の平滑筋にも作用することがあり、逆流をおこすことがあります。
症状 |
胃食道逆流症の症状には胸やけや呑酸などの定型的症状と、喘息様症状、嗄声、胸痛などの非定型的症状があります。
■定型的症状
定型的症状とは胃酸の逆流に伴う症状のことで、胸焼けと呑酸があります。
胸骨の後ろに感じる灼熱感(焼けるような感じ)のことです。酸性の胃液が食道に逆流して起きる症状です。もやもやした感じ、むかむかする感じ、何か上がってくる感じ、痛み(胸痛)を同時に感じる感じることがあります。
「胸やけ」の強さや頻度は、必ずしも食道粘膜障害の程度とは相関せず、内視鏡的には明らかな粘膜障害の認められないNERD(非びらん性胃食道逆流症)と明らかに粘膜障害の認められる逆流性食道炎で差が認められないことが明らかになっています。食道粘膜が非常に敏感になっていうる場合は、胃液の逆流がなくても「胸やけ」症状と感じるためです。
胃酸の逆流が喉や口まで及ぶと、喉や口に酸味や苦味を感じることがあります。
■ 非定型的症状
食道以外の臓器でもおきる症状には次のものがあります。
狭心症や心筋梗塞と似たような胸が締めつけられるような痛みを感じることがあります。食道への強い酸の刺激によります。狭心症は運動後に、GERDによるものは食後に起きることが多いとされます。しかし、必ずしも明確に区別できるわけではありません。
慢性的な咳や喘息の原因になることがあります。逆流による食道への刺激、逆流したものに一部が気管支に吸い込まれて(誤嚥)おこります。ただし、喘息や気管支炎などでもおこります。また、食道炎の治療を行うと喘息の症状が改善する場合もあります。しつこい咳が続く場合は一度、医師にご相談ください。
喉の違和感や何か詰まっている感じ。声のかすれ。
まれに、中耳炎の原因になることがあります。
GERDの患者さんでは睡眠障害がしばしば認められます。夜間の逆流により目が覚める、あるいは逆流の原因にもなる肥満により睡眠時無呼吸症候群なるため、などが原因と考えられています。
口の中まで逆流がおきると虫歯の原因となることがあります。
診断 |
GERDの診断は、①胸焼けや呑酸などの自覚症状、②食道内視鏡検査で行います。補助的な診断法として③24時間pHモニタリングや ④PPIテストを行うこともあります。
■自覚症状による診断(問診)
胸焼けと呑酸はGERDに特徴的な症状です。この2つの症状があればGERDと診断します。胃の痛みやもたれた様な症状、喉の症状、咳など一見食道とは関係のなさそうな症状をきたすこともあり注意が必要です。
GERD診断用の自己記入式アンケートを使用する場合もあります。この問診アンケートは治療の効果判定にも有用とされています。
自己記入式アンケート(Fスケール)
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■内視鏡による診断
内視鏡はGERDの診断には極めて重要な検査です。GERDを疑う場合には、食道炎(ただれ)の有無と重症度の確認が必要です。また、がんなどの悪性疾患や他の病気がないことを確認するためにも、一度は内視鏡検査を受けることが勧められます。内視鏡で特に異常がないのにGERDの症状がある場合は、非びらん性胃食道逆流症(NERD)と診断します。
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■24 時間 pH モニタリング検査
専門的な検査ですが、食道への酸の逆流状況を連続的に観察する 24 時間 pH モニタリング検査というものがあります。先端に小さな pH 測定装置のついた細い管を鼻孔から食道内に入れて 24 時間にわたって食道内の pH を測定します。
症状の出方と逆流の状況の関連から、検討解析します。食事や睡眠など、通常の生活をおこないながら検査します。専門的な施設でしかおこなっていません。
■PPIテスト
GERD 治療の代表的な薬剤である酸分泌抑制薬のプロトンポンプ阻害薬(PPI)を短期間、試験的に投与することにより症状の改善があるかどうかをみる方法です。通常は PPI を約 2 週間使用して、胃酸の分泌がほとんどなくなった状態にして、症状が改善したかどうかの反応をみます。症状がよくなる場合には胃酸逆流による病気、すなわち GERD と診断します。薬剤を内服するだけで、食道に器械を入れたりしない簡単な方法です
治療 |
Ⅰ. 食事・生活習慣に関して
GERD では、ほとんどの患者さんが食事中や食後に、胸やけなどのつらい症状を感じています。食事に関係して症状がおこりやすい原因には、次の 2 つがあります。
①食べた食品が胃酸の分泌を増やしたり、一過性下部食道括約筋(LES)の弛緩を誘発して逆流をおこす。
②食品そのものが、食道の粘膜を刺激し不快な症状をおこす。
■注意すべき食べ物と食べ方
原因①
原因②
■食事への向き合い方
GERD のつらい症状を予防するためには、アルコール飲料、たばこ、暴飲暴食、高脂肪食を避けるとともに、酢や和菓子も避けたほうがよいといわれてきました。確かに食事に注意すると症状は軽くなりますが、過度の食事制限は食事の楽しさを奪い、生活の楽しみも少なくなってしまいます。食事制限をどこまで厳格におこなうべきかについては、必ずしも明確な基準はありません。
ただし、GERD といわれた方は、まずは次の点に注意してみましょう。
①飲酒と喫煙量を減らす。
②高脂肪食、大食、早食いを控える。
③上にあげた「注意すべき食べ物」は控えめにする。
繰り返しになりますが、③に関しては、あまり厳格な食事制限でなくても結構です。すなわち、食べた後「胸やけ」などの症状がつらくて困った食品であれば「その食品は避ける」。これ位で十分です。
しかし、禁酒や禁煙、また高脂肪食・大食・早食いを控えることは、GERD だけではなく一般的な生活習慣病の予防にも共通する事柄です。これらは健康的な生活習慣として考えるほうがよいのかも知れません。
なお、肥満は GERD の増悪要因です。したがって、肥満にならないための注意は必要です。
Ⅱ. 日常生活上での注意点
日常生活の場面で食事以外の原因で逆流がおこりやすくなるのは、 次の2 つの要因に分けられます。
①腹圧により胃が圧迫されたとき。
②食道胃接合部が解放状態のときの姿勢の影響。
腹圧上昇の回避
腹圧上昇は胃を圧迫し、逆流がおこりやすくなります。日常動作では、前かがみの姿勢(庭仕事など)、大きな声を出すこと(歌や演説など)、お腹に力が入る運動(重量挙げなど)、腹部をきつく締める服装は逆流の引き金になることがあります。したがって、これらの行動はできるだけ回避しましょう。
骨粗鬆症
骨粗鬆症のために腰が曲がり背中が丸くなった時や妊娠した時は、いずれも腹圧が上昇します。しかし、この状態は回避することはできません。したがって、できるだけ背中をのばすようにしましょう。
肥満
肥満は内臓脂肪のために腹圧を上昇させ逆流につながります。また、生活習慣病という観点からも、肥満は諸悪の根源とされています。できるだけ減量につとめましょう。
Ⅲ. 薬物療法
GERD の治療は、①逆流を止める、②逆流しても酸を弱める、の2つがあります。内服薬で効果的なものは胃酸の分泌を抑える方法です。なかでも、プロトンポンプ阻害薬(PPI)とよばれる薬がもっとも効果的です。
このほかに、酸を中和したり、酸による刺激を弱める薬剤を使ったり、逆流をおこりにくくする薬剤を併用することもあります。
■制酸薬・アルギン酸
■酸分泌抑制薬
胃 酸 の 出 方 を 抑 え る 薬 に は プ ロ ト ン ポ ン プ 阻 害 薬(PPI)と H2 受 容 体 拮 抗 薬(H2RA)とがあります。2つの薬剤を比較すると、GERD に対しては PPI のほうが効果的です。ただし、十分に効果を発揮するまでに数日かかることがあります。
■PPI(プロトンポンプ阻害剤)
薬剤の種類によっては、体質的に十分な効果が得られないことがあります。効果が感じられないときは主治医に正しく伝えましょう。
この薬は胃酸の分泌を抑えることはできても、胃液の食道への逆流自体を抑えることはできません。したがって、薬を中止すると症状や食道炎が容易に再発します。
GERD と診断がついたときの最初の治療を初期治療と呼びます。およそ 8 週間、PPIを服用します。
いったん症状がとれて食道粘膜の傷が治った後に、薬をさらにつづけるかどうかは一定の決まりはありません。症状や食道粘膜の傷が軽い場合には、日常生活の注意・改善を心がけるだけで不快な症状なく過ごすことができることもあります。このような場合には薬は不要です。
一方、食道粘膜の傷害が高度な場合には、薬をやめると厄介な合併症(食道狭窄、バレット食道、食道腺癌の発生)につながる可能性があります。したがって、一般的には症状がよくなっても、薬を続けて服用することが勧められます。これを維持療法といます。
■その他の薬
消化管運動賦活薬に分類される薬には、噴門の逆流を防ぐ力と食道蠕動運動を増強する作用を持つものがあります。GERD の症状改善のために使うことがありますが、補助的な役割にとどまります。
よくある質問 |
■薬はどれぐらいの期間飲まなければならないのでしょうか?
GERD 治療の代表的な薬のプロトンポンプ阻害薬は、8 週間でほとんどの患者さんの症状は改善し食道炎も治癒させます。しかし、重症の症状あるいは重症の食道炎がある患者さんでは、薬を中断するとほとんどの人で症状も食道炎も再発してしまいます。そのため、薬を長期間にわたって続ける必要があります。
■薬を長く飲んでも安全ですか?
薬の安全性は高く、長期に服用する場合も心配はありません。
PPI は優れた効果を示す一方で、強力に胃酸の分泌を抑えます。したがって、長期使用に際して、その安全性に懸念が示されることもありました。そのため、世界各国で注意深い観察がおこなわれてきました。
PPI が臨床で使用されるようになって 20年以上が経過しています。その間、長期投与による臨床的に問題となる有害事象(副作用)はほとんど認められませんでした。すなわち、PPI による維持療法の安全性は高いことが確認されています。したがって、長期に服用する場合も主治医とよく相談して、自分に合った薬の飲み方をしていれば安全性の面で心配はありません。