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単なる「風邪」「のどの風邪」ではない!
本当は怖い 溶連菌感染症
溶連菌感染症とは |
溶連菌感染症(Streptocccal infection)とは連鎖球菌(Streptococcus、複数形-cocci)によって惹き起こされる感染症のすべてを指す。連鎖球菌のうち感染症を惹き起こす頻度が高く、一般によく知られているのは化膿連鎖球菌である。通常単に「溶連菌」といえば化膿連鎖球菌を、「溶連菌感染症」といえば化膿連鎖球菌による感染症のことを指す。
化膿連鎖球菌は別名「A群連鎖球菌」、さらに「A群β溶血性連鎖球菌」とも呼ばれる。上気道炎や化膿性皮膚感染症などの原因菌としてよくみられるグラム陽性菌で、菌の侵入部位や組織によって多彩な臨床症状 を呈する。また、心臓弁膜症の原因となる急性リウマチ熱や連鎖球菌感染後の糸球体腎炎を惹き起こすことがあり注意が必要。
溶血性とはヒツジ赤血球加血液寒天培地の赤血球を壊す(溶血)という意味。その溶血パターンにより、α(部分溶血し緑色)、β(完全溶血し無色)、γ(非溶血で赤色)に分類される。
連鎖球菌とは液体培地で培養すると球状の菌が鎖状に繫がっていることから名付けられた。また、細胞壁の多糖体の抗原性によりLancefield A〜H 群、K~T群に分類されている。本疾患の原因菌はこのうちのA群に属する。
A群β溶血性連鎖球菌とはLancefield分類A群でβ溶血性の連鎖球菌のことで、感染症を引き起こす頻度が最も高い菌の一つ。感染力が非常に強く、しばしば流行を起こす。また、80種類以上の異なる抗原性(M蛋白)を持っていて、繰り返しかかることがある。
溶連菌による疾患 |
日常よくみられる疾患として、急性咽頭炎・膿痂疹・蜂巣織炎、あるいは特殊な病型として猩紅熱がある。これら以外にも、中耳炎・肺炎・化 膿性関節炎・骨髄炎・髄膜炎などがある。また、菌の直接の作用でなく免疫学的機序を介して、リウマチ熱や急性糸球体腎炎を起こすこともある。
さらに、発症機序や病態生理は不明だが、軟部組織壊死を伴い敗血症性ショックを来たす劇症型溶血性レンサ球菌感染症(レンサ球菌性毒素性ショック症 候群)があり、重篤な病態として問題となっている。
ここでは、感染症法下における感染症発生動向調査で4類感染症定点把握疾患となっている、A群β溶血性レンサ球菌咽頭炎について説明する。
疫学 |
A群溶血性レンサ球菌感染症は温帯地域では普遍的な疾患。亜熱帯地域でもみられるが、熱帯地域ではまれな疾患。
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎はいずれの年齢でも起こりうる。なかでも、学童期の小児に最も多く、3歳以下や成人では典型的な臨床像を呈することは少ない。季節間での発症は冬季および春から初夏にかけての2 つのピークがある。年単位では発生数は増加傾向。ただし、迅速診断キットの普及などで診断技術が向上したことによる見かけ上の増加の可能性もある。
感染経路 |
患者からの感染と健康保菌者からの感染がある。
■患者からの感染
おもに次の2つ経路がある。
ヒトとヒトとの接触の機会が増加するときに起こりやすく、保育園・幼稚園・学校などの集団感染や家庭内での感染が多い。感染性は急性期でもっとも強く、その後徐々に減弱する。急性期の兄弟間では25%と高い感染率を示す。一方、潜伏期での感染性については不明である。
■健康保菌者からの感染
咽頭培養を用いた 研究などによる推定では、健康保菌者は15 〜30%と推定されている。しかし、彼らからの感染・発症はまれとされる。
臨床症状 |
潜伏期は2〜5日。突然の発熱と全身倦怠感、咽頭痛によって発症し、しばしば嘔吐を伴う。咽頭は浮腫状で扁桃は浸出を伴い、軟口蓋の小点状出血あるいは苺舌がみられることがある。
猩紅熱の場合、発熱開始後12 〜24時間で点状紅斑様、日焼け様の皮疹が出現。針頭大の皮疹により、 皮膚に紙ヤスリ様の手触りを与える(sandpaper rash )ことがある。特に腋窩、ソケイ部など皮膚のしわの部分に多く、これに沿って線が入っているようにみえる(Pastia’s sign )こともある。顔面では通常このような皮疹は見られず、額と頬が紅潮し、口の周りのみ蒼白にみえる(口囲蒼白)ことが特徴的。 また、舌の変化として、発症早期には白苔に覆われた舌(white strawberry tongue )がみられ、その後白苔が剥離して苺舌(red strawberry tongue )となる。1週目の終わり頃から顔面より皮膚の膜様落屑が始まり、3週目までに全身に広がる。
合併症として、肺炎、髄膜炎、敗血症などの化膿性疾患、あるいはリウマチ熱、急性糸球体腎炎などの非化膿性疾患を生ずることもある。
病原診断 |
咽頭培養により菌を分離することが基本であるが、A 群多糖体抗原を検出する迅速診断キットも利用でできる。迅速診断キットの特異度は一般的に高く、また感度は80%以上。しかし、抗原量すなわち菌量に依存するため、咽頭擦過物の採取方法が重要とされる。
血清学的には抗streptolysin‐O 抗体(ASO)、抗streptokinase 抗体(ASK)などの抗体上昇を見る方法があり、診断の参考となる。
治療 |
治療にはペニシリン系薬剤が第一選択薬。ペニシリン系薬剤にアレルギーがある場合には、エリスロマイシンが適応となり、また第1世代のセフェムも使 用可能。いずれの薬剤も少なくとも10~14日間は確実に服用することが必要。除菌 が思わしくない例では、クリンダマイシン、アモキシシリン/クラブラン酸、あるいは第2世代以降のセフェム剤も使用される。
予防 |
溶連菌に有効なワクチンはない。また、溶連菌には抗原性(M蛋白)が異なる80上の菌種があるため、繰り返し発症することがある。予防としては、患者との濃厚接触をさけることが最も重要で、うがい、手洗いなどの他の感染症と同じ。飛沫感染予防のためマスクも有用。接触者に対する対応としては、集団発生などの特殊な状況では接触者の咽頭培養を行い、陽性であれば治療を行う。
登園・登校に関しての明確な規定はない。一般的には抗生剤を1~2日服用し熱が下がれば、他への感染の恐れはないとされている。ただし、(患者自身の)合併症予防のため10~14日間は抗生剤の服用を続ける必要がある。社会人の職場復帰も同様と考えてよいとされている。
まとめ |