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2014年7月
1.早食いの女子大学生は平均5kg以上太っている
昔から「早食いは肥満のもと」といわれています。はたして、本当でしょうか?
国立健康・栄養研究所などの研究グループが全国の女子大生を対象に実施した調査です。早食いの人ほど太っている傾向がありました。「とても速く」食べる人は、「とても遅く」食べる人より体重が平均5kg以上重く、「早食いは肥満のもと」という言い伝えが実証される結果となりました。
食べる速度と肥満度の関係
調査は1997年に全国22大学の18歳の女子大生を対象に実施されました。食べる速さのほか、身長・体重、食事の内容、生活習慣について聞いています。回答した1,744人のうち、摂取カロリーが過多や過少な人、生活習慣についての回答が不十分な人を除く1,695人分のデータを解析しました。
食べる速さは「とても遅い」「比較的遅い」「普通」「比較的速い」「とても速い」の5段階で自己申告してもらっています。女子大生は友人同士で食事を摂る機会が多く、他人と比べた自分の食べる早さをよく知っています。
さらに、申告の確かさを調べるため1大学(222人)で友人にも評価してもらったところ、9割以上が本人の申告とほぼ一致していました。
解析の結果、身長と食べる速さとの相関関係はありませんでした。一方、「とても速い」と答えた人の平均体重は55.4kg、「とても遅い」は49.6kgで、5.8kgの差がありました。
身長差があるためBMI(体格指数)(*1)という肥満の基準を用いて検討しています。「とても速い」が22.0、「とても遅い」が19.6で、ゆっくり食べる人ほどやせている傾向がありました。
食べる速度と摂取カロリーの関係
1日当たりの摂取カロリーは早食いの人ほど多く、摂取カロリー当たりの食物繊維の量は遅食いの人ほど多い傾向がありました。また、早食いの人ほどダイエットに取り組んだ経験のある割合が高かったことも分りました。一方、運動習慣やたばこなどの生活習慣と食べる速度との関連はありませんでした。
早食いは満腹感を感じる前に食べ過ぎる
研究は「生活習慣や運動量などのばらつきが少ない」との理由から女子大生を対象にしています。現在は他世代の男女でも同様の調査を進めているそうです。
同研究所の佐々木敏・栄養所要量企画・運営リーダーは、遅食いの人ほど食物繊維の摂取量が多いことに注目し、「早食いの人たちは食物繊維の少ない速く食べやすい食事をしているため、満腹感を感じる前に必要以上に食べてしまうのではないか。早食いの人は、自然にゆっくり食べられる食べ物を選ぶよう心がけてほしい」とコメントしています。
2. ただ食べる速度が速いだけで太ってしまう
2002年、愛知県のある団体職員の調査です。35~69歳の男女4,742人(男性3,737人、女性1,005人)の食べる速さとエネルギー摂取量や喫煙習慣、飲酒習慣、身体活動に関するアンケート調査と健康診断時の成績と合わせて検討しています。
データを分析すると、男性では食べるのが速い人は食べる量も多い傾向がありました。しかし、女性では食べる速度と食べる量には一定の関係は認められませんでした。
そこで、食べる量の違いが体重に与える効果を統計的に除去。同様に運動習慣の効果も消し、純粋に食べる速さと肥満との関係を求めました。
その結果、食べる速さが「普通」の男性の平均的な身長である168.3cmで見ると、「普通」の人の体重64.8kgに対し、「かなり速い」人は3.9kg重く、「かなり遅い」人は3kg軽い計算となりました。また、女性では、156.6cmで「普通」の人の体重52.8kgに対し、「かなり速い」は3.2kg重く、「かなり遅い」は2.7kg軽い結果でした。
それを、肥満度(BMI、体格指数)に換算すると、男女とも食べる速度が速いほど肥満する傾向が認められました。しかし、女性ではただ食べる速度が速いだけでも肥満傾向が認められました。
早食いそのものが肥満を招く理由はまだよくわかっていません。早食いだとエネルギーの取り込みを促進するホルモン、インスリンが過剰に分泌される可能性などが考えられるそうです。
グループの玉腰浩司助教授は「“早食いのくせ”は若いうちに身についているようだ。よく噛んでゆっくり食べる習慣を、子どものころから身につけてほしい」とコメントしています。
3. なぜ、早食いは太るのか?
早食いは大食いのもと
人の食欲は脳の視床下部にある満腹中枢と摂食中枢によりコントロールされています。お腹が空いてくると摂食中枢が刺激され食べる行動に駆り立てます。そして、お腹が一杯になると満腹中枢が刺激され、食べるのをやめます。
満腹中枢は主として摂取した食事が消化・吸収され血液中に増えたぶどう糖により刺激されます。ぶどう糖が上昇したことを満腹中枢が感知するまで約20分かかるとされています。すなわち、食事を始めて満腹感を感じるまで約20分位かかる訳です。早食いの人はこの20分の内に食べ終わっていることが多く、ついつい食べ過ぎてしまうことになります。
これが、「早食い」は「大食い」につながり、結果として「肥満のもと」となる理由の一つです。
早食いはインスリン分泌を高める
次の理由として、早食いは「肥満ホルモン」でもあるインスリン分泌を促進し肥満をもたらします。
食べる速度が速いと食物の消化・吸収が速くなり血糖値の上昇を招きます。すなわち、同じ食事をしていても早食いでは血糖値がより上昇します。すると、急激な血糖の上昇を抑えるためインスリンの分泌が増えます。
インスリンは筋肉と脂肪組織にぶどう糖を取り込み、血糖値を一定の範囲に保つ働きがあります。脂肪組織に取り込まれたぶどう糖は中性脂肪にかえられます。これが、インスリンが「肥満ホルモン」とも呼ばれる理由です。
その他の理由
ゆっくり食べることは「よく噛む」ことにつながります。よく噛むことにより食欲抑制作用を有する物質(脳内満腹シグナル物質)のヒスタミンなど(*2)の分泌が亢進します。そして、満腹中枢がより早く刺激されるとのことです。また、食欲増進作用のある物質の分泌を抑制する物質が分泌されることも分かってきました。
早食いの人は必然的に噛む回数が少なり、これらのよい効果の恩恵が受けられません。
4. ゆっくり食べるには…!
早食いは子供の頃からのクセでなかなか改善することは困難だとされています。どうすれば早食いのクセが直せるのでしょうか?
① 一口30噛み。
② 一口ごとに箸を置く。
③ 食物繊維の多いもの、硬いものを食べる。
④ 野菜から食べる。
⑤ ながら食いをしない。
註解
*1)BMI 体格指数:体重(Kg)÷身長(m)÷身長(m)で表される値。肥満度を測るための国際的な指標。医学的に最も病気が少ない数値として 22 を「標準」とし、18.5以下なら「痩せ」、25以上を「肥満」としている。最近では理想的数値の22は加齢とともにやや高めがよいとされている。
*2)ヒスタミン:鼻詰まりや、かゆみなどのアレルギーを引き起こすやっかいな物質。しかし、一方で食欲を抑えてくれる働きがある。脳の中だけこのヒスタミンを増やすことができれば食欲を抑えることが可能となる。「噛む」ことで、体内のヒスタミンは増やさず(アレルギー反応をおこさず)、脳内のヒスタミンだけを増やすことが分かってきた。
ヒスタミン以外にも食欲抑制物質としてのセロトニン、レプチン、GLP-1などが「噛む」ことで増えてきます。