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砂糖などの遊離糖の摂取量は総摂取エネルギーの 5%未満に抑えることが望ましい(WHO)

 

 

WHOは遊離糖の摂取量を総摂取エネルギーの5%未満に抑えることを推奨

 

 2002年、WHO(世界保健機構)は遊離糖(free sugar)を総エネルギー摂取量の10%未満に抑える事を推奨しました。そして、2015年3月「肥満や虫歯予防を目的に、1日の 遊離糖(free sugars)の摂取量を総エネルギー摂取量の10% 未満に減らす」ことを強く推奨しました。さらに、最終的には5%未満に抑えるなら、より健康効果は増大する可能性があるとしました

 

 遊離糖とはコーヒーなどに入れるテーブルシュガー、すなわち二糖類(註1)のショ糖(砂糖)やジュースや清涼飲料などに含まれる単糖類(註1)のブドウ糖・果糖など、人が食品・飲料に添加する糖類や蜂蜜・シロップ・果汁・濃縮果汁中に天然に存在しているものをいいます。ただし、単糖類ではガラクトース、二糖類では麦芽糖(ビールの主原料)と母乳や牛乳などに含まれる乳糖は遊離糖ではありません。表1の赤字で表示されたものが遊離糖に該当します。当然のことながら、アスパルテームなどの人工甘味料(註4)は炭水化物(註1)でも遊離糖でもありません。

 

 5%の遊離糖とは、平均的な成人の1日の総摂取エネルギーが2000kcalとすると、100kcal、25g(小さじ8.3杯)(註2)に相当します。

 

 

 2002年の時点では、「遊離糖の摂取量エネルギーを総摂取量の10%未満に抑えるなら、肥満や過体重、虫歯のリスクを減らせる」という明確な証拠が不十分であり、それに対する反論もありました。その後、データが集積され2015年では明らかな証拠が揃い、「強く推奨する」に格上げされました。なお、このガイドラインは、生鮮果実・野菜中の糖類及び乳中に天然に存在する乳糖は対象には含めていません。これらについては、「摂取による有害事象を裏付ける証拠がない」ためとのことです。

 

 糖分(註5)の制限を推奨する理由は、①糖分の摂取量が少ない成人は摂取量の多い成人より体重が少ない、②糖分を増やすと体重増加につながる、③糖分の多い高カロリーの清涼飲料を多く飲む子どもは、あまり飲まない子どもに比べ肥満が多い、④糖分の摂取が総エネルギー摂取量の10%未満であると、虫歯になる割合が減るという調査結果に基づいています。

 

 第2次世界大戦の終結直後の1946年の調査では、成人の糖類の摂取量は総エネルギー摂取量の5%を下まわっていました。大戦前は平均して1人で年間15kgを摂取していたが、終戦直後には0.2kgに減っていて、虫歯が劇的に減少したというデータもあります。

 

 遊離糖の消費量は年齢・環境・国によってばらつきがあります。例えば欧州諸国の場合、成人ではエネルギー総摂取量の7~8%(ハンガリー、ノルウェー)から16~17%(スペイン、英国)の範囲ですが、児童では更に数値が跳ね上がり、12%(デンマーク、スロベニア、スウェーデン)から25%(ポルトガル)となっています。田園地帯と都市部でも違いがあり、同じ南アフリカでも田園部の7.5%に対して都市部では10.3%となっています。下図は2015年の世界各国の1人1日当たりの砂糖の消費量です。開発途上国を除くと100kcal未満の国は少数です(図1)。

 

 

 

加工食品中の遊離糖

 

 今日消費される糖類は、加工食品中に「隠れて」いるものが多いため注意が必要です。例えば、大さじ1杯(15mL)(註2)のケチャップにはl4.9g(19kcal)の糖類が含まれています。同じく、ウスターソースには4.8g(22kcal)、中濃ソース5.4g(35kcal)、みりん7.8g(31.2kcal)や白味噌3.1g(12.4kcal)の糖類が含まれています。蜂蜜には18g(72kcal)も含まれており、糖尿病の方は注意が必要です。

 

 

清涼飲料水や果汁・野菜ジュースには注意が必要

 

 水やお茶、炭酸水(ノンカロリー)などの無糖の飲料水を除くと各種飲料水には想像以上の糖類(ショ糖、果糖)が含まれています。例えば、500mLのコカコーラ1本には56.5g、角砂糖(4g、16kcal)に換算すると14.4個分の糖分が含まれています。エネルギーでは230kcalにもなりますコーラ1本でWHOが推奨する1日の糖分10%(200kcal糖分50g)未満を優に超えてしまいます。より厳しい5%だと2倍以上の超過となります。

 

 果汁ジュースや野菜ジュースにも注意が必要です。ほとんどは糖類(主に果糖)で甘みを補充しています。果汁ジュースでさえ100%天然果汁のジュースはあまり見かけません。また、原産国註6も大半は外国産で国産註6)のみは希少です。また、自然の果物や野菜に含まれている食物繊維やビタミン・ミネラルは入っていません。食物繊維は糖質・糖類の吸収を遅くすることで急激な血糖の上昇を抑えてくれます。添加されているビタミンやミネラルも自然のものとは異なります。理屈合わせ程度でしょう。生の果物・野菜は経済的負担がありますが、季節毎の新鮮なものを適切な方法で摂取する事をお勧めします。下の表3は私から見て代表的な清涼飲料水や果物・野菜ジュースなどの糖類の成分表です。

 

註2)カロリーフリー註7)を謳う 「コカコーラ ゼロ」などには遊離糖(糖類)は含まれていない。全ての甘みを人工甘味料で出している。WHOは2023年5月、人工甘味料の危険性を指摘し「使用しない」様に勧告を出している。当然のことながら、ダイエットコーラではなく「普通のコーラ」の主となる糖分(甘味成分)は天然(本物)の砂糖ではなく、「果糖ぶどう糖液糖」である。詳細は次回以降の「院長の独り言」で解説予定。

 

 

 

ほとんどの清涼飲料水や果汁・野菜ジュースには異性化糖が加えられている

 

 表3にあるように、清涼飲料水や果汁・野菜ジュースには私たちの想像を上回る大量の糖類が入っています。そして、この糖類にはショ糖(砂糖)だけではなく果糖ブドウ糖液糖などの異性化糖が加えられています。

 

 

異性化糖とは

 

 トウモロコシやジャガイモ、サツマイモなどのデンプンを加水分解してブドウ糖を作り、その一部を酵素的に果糖に異性化(変換)したものを異性化糖といいます。異性化とは、分子の構成原子を変えないで、原子の配列を変えることです。異性化糖はトウモロコシやイモなどデンプンの天然の素材を原料としているため、人工甘味料ではなく「天然甘味料として取り扱われます。

 

 異性化糖は1960年代後半に日本で発明・開発されました。しかし、当時我が国ではさほど注目されていませんでした。それが、1970年代に米国に導入されると、砂糖の使用さらには食文化にまで大きな変化をもたらしました。というのは、1959年のキューバ革命でキューバから砂糖を輸入できなくなった米国が、この技術に着目し商業化しました。さらに、原料となるトウモロコシの生産農家に莫大な助成金を扶助したため、瞬く間に砂糖の代替物となりました。

 

 安く大量に生産でき、しかも低温では砂糖より1.7倍の甘みがあるため(表1)、メーカーにとっては大変ありがたい存在です。異性化糖は果糖の割合が50%未満のものを「ぶどう糖果糖液糖」、50%以上90%未満のものを「果糖ぶどう糖液糖」、90%以上のものを「高果糖液糖」といいます。ほとんどの場合、メーカーにとって甘みが砂糖以上の「果糖ぶどう糖液糖」が使われています。現在、多くの飲食物、すなわち清涼飲料水、冷菓、シリアル、ジャム、パン、ヨーグルト、ケチャップなど、我々が普通に食べているあらゆるものに使用されています。日本では砂糖の需給の43%を占めています(2022年農林水産省)。このようにメーカーにとって商品価値が高い異性化糖ですが、近年、「肥満の最大の原因」とも言われ、米国をはじめ世界中で深刻な社会問題となっています。事実、米国では政府が規制に乗り出し需給は減少に転じているとのことです 

 

 

果糖(フルクトース)は危険

 

 異性化糖は危険な糖です。人工的(工業的)に異性化された糖だから危険な訳ではありません。果糖(フルクトース)そのものに危険性があるのです。

 

 ショ糖(砂糖)は単糖のブドウ糖(グルコース)と果糖(フルクトース)が結合した2分子からなる二糖類です。そのブドウ糖と果糖はC6H12O6と同じ分子式の6単糖で、その原子配列にわずかな違いがあるだけです(註8)しかし、両者には生化学的にも生物学的にも驚くほど大きな相違があります。

 

 

ブドウ糖と果糖の違い

 

 何がどう違うのか? その答えはかなり専門的な知識が必要です。ここではその概要のみ説明します。

  1. グルコースは身体全ての細胞の最も基本で最も重要なエネルギー源である。グルコース以外にもアミノ酸や脂肪酸などもエネルギー源となるが、脳や赤血球にとってはグルコースが唯一のエネルギー源である(脳ではグルコース以外にケトン体註9)も利用できる)。
  2. 血液中のグルコース(ブドウ糖)が血糖で、血糖が上昇した状態を高血糖という。フルクトース(果糖)を摂取しても高血糖とはならない。果糖は肝臓で取り込まれエネルギー源として利用できる。フルクトースは身体にとっては有害な物質(理由は後で説明)のため同時に取り込まれたグルコースより迅速に肝臓内で代謝される必要がある。その結果グルコースの代謝が後回しとなり、渋滞をおこした代謝物の一部は中性脂肪に変換され脂肪肝の原因となる。
  3. ブドウ糖摂取後に血糖値が上昇するとインスリン註10)分泌が刺激される。上昇した血糖とインスリンは食欲を抑える働きのあるGLP-1註11)やGIP註11)の分泌を促進し、食欲を刺激するグレリン註12)の分泌を抑制する。その結果、満腹感註13)が得られる。
  4. 果糖摂取後では直接的には血糖は上がらずインスリン分泌は刺激されないため、GLP-1やGIP、グレリンの分泌は刺激も抑制されない。その結果、満腹感が得られず空腹感も満たされず、逆に過食となってしまう。
  5. 一見すると、直接的な血糖値の上昇ない果糖は糖尿病の人にはお勧めの栄養素の様に思えるが、摂り過ぎると長期的にはその逆で不利益をもたらす。
  6. 植物界、動物界を問わず自然界では、グルコースは最も安定な単糖類であり圧倒的大量に存在する。果糖は原則として単独では存在せずグルコースと結合しショ糖の形でのみ存在する。「グルコース、フルクトースとは?」「ネコは甘みを感じない」「果糖は毒?」「・・・」 ⇒続きは次回以降へ

 

 

 

註解

 

1)炭水化物、糖質、糖類、二糖類、単糖類

 地球上の生命体は太陽エネルギーにより生命活動を行っている。植物は太陽エネルギーを利用した光合成により低エネルギーの二酸化炭素を原料として、酸素と高エネルギーの炭水化物を作り、それを養分として成長する。草食動物はその植物を食べ、草食動物を肉食動物が食べる。このような食物連鎖の元は太陽エネルギーであり、炭水化物は太陽エネルギーを蓄える缶詰・蓄電池であるとも言える。

 

 炭水化物は炭素(C)、水素(H)、酸素(O)からなる分子で、大部分の分子式がCm(H2O)nの形なので炭水化物ともいわれる。

 

 炭水化物は糖質食物繊維から構成される。すなわち、炭水化物から食物繊維を除いたものが糖質である。糖質は単糖類二糖類からなる糖類と小糖類(オリゴ糖)、多糖類、糖アルコールに分類される。

 

 デンプンやグリコーゲンなどの多糖類はアミラーゼによりグルコース2分子からなる二糖類のマルトース(麦芽糖)、または3~8分子からなるグルコースの重合体(ポリマー)に分解される。これらは、最終的にはマルターゼなどの消化酵素により単糖類のブドウ糖(グルコース)まで分解される。他の二糖類のショ糖(スクロース)はスクラロースによりブドウ糖と果糖に、乳糖(ラクトース)はラクターゼによりブドウ糖とガラクトースという単糖類に分解される。

 

 単糖類はこれ消化管内ではこれ以上分解されない炭水化物の最小単位で小腸(粘膜)から吸収される。二糖類、オリゴ糖、多糖類、糖アルコールは小腸から吸収されない。

 

2)小さじ、大さじ1杯のショ糖(砂糖)のカロリー

 小さじ、大さじは量を量る調理器具で重さを量るものではない。小さじ1杯=5mL/大さじ1杯=15mL。砂糖は種類により含まれている糖質の重量やカロリーが異なる(重さ:g/カロリー:kcal)。

 

3)甘味度(かんみど)

 甘さの感じ方を評価したもの。ショ糖(砂糖)の甘さを1とした時の、人の舌による相対的な官能評価で絶対的評価ではない。ショ糖は温度によっても甘味度は変わらないため甘味度の基準物質となるし、煮物にも適している。一方、果糖の甘味度は低温では強いが高温では低下するため煮物には適さない。また、果糖が多く含まれているリンゴやキウイ、梨、ブドウなどの果物は冷やすと甘さを強く感じるが、ブドウ糖やショ糖が多く含まれているバナナや柿、桃などは冷やしても甘みは増さない。また、清涼飲料水やアイスクリームなどにも人工的な果糖(果糖ブドウ糖液糖)が多用されている。

 

4)人工甘味料

 天然に存在せず化学合成によって作られる高度の甘みを有する甘味料。ショ糖の数百倍~1万倍以上の甘みを有するためカロリーを抑えた砂糖の代替品として使用されている。しかし、「糖尿病や心血管病のリスクを高める」「発がん性がある」などの危惧があった。そして、2023年5月WHOはダイエット目的では人工甘味料を使用しない様に勧告を出した。さらに、アスパルテームの発がん性の可能性を指摘した。

 

5)糖分

 炭水化物のうち、糖質は炭水化物から食物繊維を除いたもので、そのうち糖類は単糖類と二糖類からなり甘みがある。一方、糖分とは「甘いもの」一般を指す言葉で明確な分類や定義はない。

 

6)国産、外国産

 令和4年4月1日より生鮮食品ではその産地、加工食品では製造地の表示が義務づけられた。原材料や原産地は多いものから順に表示する。下はウインナーソーセージや果物ジュースでの表示例。

 

7)カロリーフリー

 食品100g(飲料では100mL)当たりのカロリーが5kcal未満の場合にのみ表示できる。食品に含まれているカロリーが「ゼロ」という意味ではない。

 

8)グルコースとフルクトース

 グルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)の分子式は同じ、C6H12O6。すなわち6個の炭素・酸素原子と12個の水素原子からなっている。違いは実線で囲まれた部分(原子団)がグルコースではアルデヒド基、フルクトースではケトン基になっている。破線で囲まれた部分はグルコース、フルクトース共に同じ。原子配列がわずかに異なっているだけである。しかし、この二者では生化学的にも生物学的にも大きな相違がある(後述)。

 

9)ケトン体

  ケトン体は脂肪の合成や分解における中間代謝物。通常、血液中にはほとんど存在しない。糖尿病の急性合併症の糖尿病ケトアシドーシスや糖質制限時、絶食時には血中のブドウ糖が不足するとブドウ糖の代わりの(代替)エネルギーとなる。脳では通常ではブドウ糖以外はエネルギー源とはならないが、血中のブドウ糖が不足する場合にはケトン体がエネルギー源となりうる。アセトンは呼気で排出されるため、アセト酢酸、ヒドロキシ酢酸が体内で利用可能なケトン体。

 

 

10)インスリン

 インスリンは血糖(血液中のブドウ糖、グルコース)が上昇した時に膵臓のランゲルハンス島のβ細胞から分泌され血糖を下げるホルモン。ブドウ糖(グルコース)にのみ反応し、果糖(フルクトース)やガラクトースには反応しない。インスリンは筋肉細胞(骨格筋、心筋)と脂肪細胞にある糖輸送体4(GLUT4)を通してブドウ糖を細胞内に取り込み血糖を下げる。インスリンによりブドウ糖を取り込んだ脂肪細胞はブドウ糖を中性脂肪に変換する(インスリンは肥満ホルモン!)。

 

11)GLP-1(glucagon like peputido-1、グルカゴン様ペプチド-1)

GIP(gastric inhibitory polypeptide、胃抑制ペプチド)

 食後血糖値が上昇すると小腸から分泌されるホルモン。①膵臓のβ細胞を刺激しインスリン分泌を促進し血糖値を下げる、➁胃腸の動きを抑制し満腹感を持続させる、③食欲中枢に働き食欲を抑制する、④脂肪分解を促進するなどの作用がある。

グルコース(ブドウ糖)で刺激されるがフルクトース(果糖)では刺激されない。GLP-1は上部小腸から、GIPは下部小腸から分泌される。近年、両者とも新しい糖尿病治療薬として注目を集めている。

 

12)グレリン

 グレリンは摂食亢進 や脂肪蓄積作用がある。空腹になると胃内分泌細胞から分泌される。

 

13)満腹感

 食欲は視床下部にある満腹中枢と摂食中枢によりコンとロースされえいる。満腹中枢は血糖の上昇により満腹感が生じ食欲を低下させる指令を出す。フルクトース(果糖)は脳の血液脳関門を通過できないため果糖を摂取しても満腹感は得られず食べ続けることになる。