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糖質制限ダイエットーその光と影(13)

まとめ

 

 

 2019年2月より12回にわたり糖質制限ダイエットの功罪(光と影)を見てきました。結論として、それは「推奨できない」または「危険である」と言わざるをえません。再度、その理由を説明することでこのシリーズを終わることにします。

 

 糖質制限ダイエットを1)糖尿病治療の主幹をなす食事療法として捉えるか、2)減量の一方法と捉えるか、により多少考え方が違ってきます。

 

 

糖尿病治療の目標とは?

 

日本人の推定エネルギー必要量と炭水化物の摂取基準

 

 厚生労働省の日本人の食事摂取基準2020によると1日の推定エネルギー必要量は年齢、性別、身体活動レベルによりかなりの幅があります(表1)。

また、炭水化物の摂取基準(%エネルギー)は、おおむね50~65%です(表2)。

 

 

■各種糖質制限ダイエットの炭水化物摂取率とARIC研究とPURE研究との関係

 

 ここでは仮に1日の摂取エネルギー量を2000kcalとします。その場合の代表的な糖質制限ダイエットの炭水化物摂取比率をみてみましょう。アトキンス・ダイエットの流れを汲む「厳しい糖質制限ダイエット」は60g/日以下バーンスタイン・ダイエットの流れを汲む「緩やかな糖質制限」は130g/日以下です。炭水化物摂取率は、前者では(60×4)/2000=0.12(12%)、後者では(130×4)/2000=0.26(26%)となります。

 

 もし、1日の摂取エネルギー量を2500kcalとすると、厳しい糖質制限では(60×4)/2500=0.096(9.6%)、緩やかな糖質制限では(130×4)/2500=0.208(20.8%)となります。

 

 ARIC研究での最小死亡リスクの炭水化物摂取率50~55%の死亡率(ハザード比)を1とすると、厳しい糖質制限では1.5倍、緩やかな糖質制限では1.3倍となります。一方、日本人の食事摂取基準2020で推奨される炭水化物摂取量は50~65%はほぼ1です(図1)。

 

 

糖質制限ダイエットを斬る

 

■アトキンス・ダイエット、スーパー糖質制限食 ⇒ 危険なダイエット

  • アトキンス・ダイエット

 

 

アメリカの医師(心臓外科、循環器病)のロバート・C・アトキンス(Robert Coleman Atkins 1930-2003年)が考案したダイエット法です。アトキンス式低炭水化物ダイエット、ケトン体ダイエット、ローカーボ・ダイエット、糖質制限ダイエットとも呼ばれています。砂糖やパン、白米、パスタなどの炭水化物を一日20〜40gまで制限し、替わりに肉(牛肉・豚肉・羊肉)やベーコン、バター・チーズ、卵などのタンパク質や脂肪(脂質)は自由に摂取してよいというダイエットです。

 

 一時期、米国ではアトキンス・ダイエットはブームになったことがありました。しかし、2003年元祖アトキンスが頭部打撲で死亡。死亡時の体重が116kg(身長180cm、BMI35.8)の肥満であったことによりブームは一気に終焉に向かいました(院長の独り言 第53号 平成31年3月)。

 

  • スーパー糖質制限ダイエット

 高雄病院(京都)の理事長、江部康二医師が推奨する糖尿病のためのダイエットです。近年、TVなどでもしばしば登場しています。基本的にはアトキンス・ダイエットの流れを汲んでおり食事1回の糖質摂取量は20g以下、1日60g以下に制限します。糖質の替わりのたんぱく質や脂肪は動物性のものでも好きなだけ食べてよいというダイエットです。

 

 江部氏が「糖質制限ダイエットの正しさが証明された」と、必ずといって良いくらい引用するDIRECT研究。低脂肪食群と地中海食群はエネルギー制限付き、糖質制限群はエネルギー制限なしというハンディ付きでした。低脂肪食群に比べ、地中海食群と糖質制限群は24か月後の体重減少効果が有意に優れていました(p<0.001)。しかし、論文に批判が寄せられ、エネルギー摂取量の推移が公表されました。その結果、エネルギー制限なしのはずの糖質制限群でもエネルギー摂取量が他の2群同様に低下していた。これでは糖質制限の効果を見ているのかエネルギー制限の効果を見ているのか分かりません。また、この研究では卵、牛乳・乳製品以外の動物性の脂肪やたんぱく質の摂取は推奨されていません。すなわち、肉や油(脂)に関しては、元祖アトキンスや江部氏の「肉は好きなだけ食べてよい」という主張とはかなり異なっています。江部氏はこの部分には全く触れようとはしません。

 

 自説に都合の悪い部分を隠し、都合のよい部分のみ抽出する。これを捏造と言わずして何と言うのでしょう(院長の独り言 第58号 令和元年8月、第59号 令和元年9月)。

  • ARICコホート研究を含めた8つのメタアナリシスからの結論 ⇒ 厳しい糖質制限は危険

 糖質制限ダイエットの血糖コントロール効果は別として、前2者のダイエットは炭水化物に替わるたんぱく質や脂質(脂肪)の摂取制限をしません。また、植物性、動物性のたんぱく質や脂質(脂肪)の区別もしません。しかも、「肉や油(脂)はいくらでも食べてもよい」というキャッチコピー付きです。これでは危険なダイエットであると言わざるをえません。

 

 

■バーンスタイン・ダイエット、緩やかな糖質制限食 ⇒ 推奨できない

  • バーンスタイン・ダイエット

 

 1型糖尿病患者であるアメリカの医師リチャード・K・バーンスタイン(Richard K Bernstein)が考案したダイエット法です。自らを実験台として試行錯誤を繰り返した末に、「血糖コントロールがうまくいかない原因は、その当時は常識とされていた低脂肪・高炭水化物食である」との結論に達しました。一日の炭水化物摂取量を130gまで制限し、炭水化物に替わる脂肪(脂質)の積極的摂取を勧めます。ただし、動物性・植物性のたんぱく質・脂質の区別がありません(院長の独り言 第58号 令和元年8月、第59号 令和元年9月)。

 

 近年の米国民に蔓延する肥満(BMI≧30、日本ではBMI≧25)は深刻で社会問題となっています。その原因は脂肪の過剰摂取ではなく、糖質の過剰摂取にあることは種々のデータからも明らかです。その大半は果糖(コーン等のデンプンからのブドウ糖を化学的に果糖に変換した果糖ブドウ糖液糖を含む)の過剰摂取によります。その場合、糖質制限は有効でまず行うべき対策です。また、1型糖尿病や2型糖尿病で肥満例や食後高血糖を呈する例でも有効でしょう。ただし、炭水化物に替わるたんぱく質や脂肪の供給源として、動物ベースを避け、植物ベースを中心にする必要があります。

 

  • 緩やかな糖質制限ダイエット

 

 北里大学病院糖尿病センター長の山田悟医師が推奨する糖尿病のためのダイエットです。基本的にバーンスタイン医師の1日130gの糖質制限を受け継いでいます。糖質は1食あたり20~40g、3食で120gまでに制限、間食は10gまで可。1日合計130gまでとしています。やはり、炭水化物に替わるたんぱく質や脂肪の供給源(植物性、動物性)に関する検討が、ほとんどなされてないことに注意が必要です。動物性のたんぱく質・脂質は原則として制限がありません。

 

 山田氏はDIRECT試験でも江部氏と同じく、自説に不都合な部分に関する記載やコメントを避けています。また、ARICを含む8つのコホート研究の結果を証明するには「無作為割り付け臨床介入研究」が必要であるとも主張しています。ならば、糖質制限ダイエットの正しさを証明するには、それが生命予後を改善するという「無作為割り付け臨床介入研究」を行うか、それを行ったコホート研究のメタアナリシスを行うべきでしょう。どちらも、極めて困難で現実的にはまず不可能と言ってよいでしょう。これにチャレンジしたDIRECT試験をみても明らかです(院長の独り言 第58号 令和元年8月、第59号 令和元年9月)。

 

 

ARIC研究を含む8コホートからみた糖質制限ダイエット(まとめ)

 

 マウスの実験から始まり、アトキンス・ダイエット(厳しい糖質制限)、バーンスタイン・ダイエット(緩やかな糖質制限)、DIRECT試験、能登氏のメタアナリシス、PURE研究、ARIC研究を含む8つのコホート研究で糖質制限ダイエットをみてきました。私見も交えてこれらを纏めてみたいと思います。

 

■糖尿病の血糖コントロールに関して

  • 糖質制限(低炭水化物)ダイエットは糖尿病の食後高血糖に対しては有効な手段かもしれない。
  • 糖尿病治療の目標本来の目標は「健康な人と変わらない日常生活の質と寿命を確保する」ことである。
    • 単に血糖コントロールのみではない。
    • 糖質制限ダイエットが糖尿病治療の本来の目標に寄与するというエビデンスは存在しない。
  • 糖質制限ダイエットの長期継続は困難な傾向がある。
  • 糖質制限だけ拘らず食後高血糖にならない炭水化物も検討すべき。
  • 例えば、食物繊維が豊富な穀類は糖尿病発症を抑制し糖尿病状態の改善に有効というコホート研究がある。

 

■糖質制限ダイエットと死亡リスク

  • 5大陸18ヵ国を対象としたPURE研究での高炭水化物食群は、低所得国・地域で貧困のバロメータかもしれない。その場合の死亡リスク上昇は、貧困というバイアスが関与している可能性がある。
  • 米国のARIC研究での高炭水化物群は、果糖(果糖ブドウ糖液糖を含む)をはじめとする糖質の過剰摂取群の可能性がある。その場合の死亡リスク上昇は、肥満というバイアスが関与している可能性がある。
  • 糖質の過剰摂取は肥満の原因となり避けるべき。
  • 食事に関する個人の嗜好・習慣や国・地域の食文化はそれぞれ固有・特有であり、大きな変更を強いるのは困難で非現実的である。
  • ARIC研究での最低死亡率の炭水化物摂取量(比率)50~55%は米国での話。
  • 日本では食習慣・文化から炭水化物摂取量(比率)50~65%は現時点では妥当であろう。
  • 炭水化物に替わるたんぱく質と脂質(脂肪)の供給源(植物性、動物性)が問題となりそうだ。