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糖質制限ダイエットーその光と影(8)

DIRECT研究、その後4年間の観察研究

 

 

DIRECT試験

 

  2005年7月~2007年6月の2年間、イスラエルで行われた322人を対象とした3つの減量食(低脂肪食,地中海食,低炭水化物食)の有効性および安全性を比較するDIRECT研究では、地中海食、および低炭水化物食は、いずれも減量効果のみならず、代謝系因子に関する望ましい効果が示されました。この結果より、地中海食および低炭水化物食が低脂肪食に並ぶ有効な選択肢となり、食事の好みや代謝障害の状況などに応じた食事介入を行うことができる可能性が示唆されました(図1、表1・2)。(院長の独り言2019年8月号)。

 

 

 

DIRECT試験後の観察研究

 

 2年間の介入試験の終了後、4年間のフォローアップ研究が行われました。介入試験を完遂した272人のうち、呼びかけに応じた95.2%に当たる259人を対象としたIntention-to-treat(IT)解析による追跡調査です。当初の介入試験の参加者322人の80.4%に相当。対象者は年1回の定期健診と食事療法継続のための指導を受け、カフェテリアでの食事は継続して提供されました。

 

 ちなみに、IT解析とは臨床試験の進行に伴い、参加者に割り付けられた食事の続行が不可能になった人もすべて含めて解析することをいいます。

 

 最終的に、6年間を通して67%の人が介入時の食事療法を継続でき、11%は他のダイエットに変更、22%はダイエットを中止しています。各群の脱落率は提示されていませんが、3群間に有意差はなかったとのことです。

 

 4年間の観察期間中に低脂肪食群2.3kg、地中海食群1.3kg、低炭水化物食群4.0kgのリバウンドが認められました(全グループとの比較でp=0.004)。

 

 試験開始からの全6年間での体重減少は、低脂肪食群で0.6kg(p=0.28)、地中海食群では3.1kg(P<0.001),糖質制限食群では1.7kg(P=0.02)でした。低脂肪食群と地中海食群の体重減少には統計学的に有意差が認められましたが(p=0.02)、低脂肪群と低炭水化物食群、および地中海食群と低炭水化物食群の間では有意差は認められませんでした(図2)。

 

 6年後のLDL/HDLは3グループ間で類似していましたが、有意差があったのは低炭水化物食群でした(図3)。中性脂肪の低下も3グループで類似していましたが、低炭水化物食および地中海食で有意でした(図4)。総コレステロールは3グループ共に有意に低下していました(図5)。

 

 

低炭水化物食の減量効果

 我が国の炭水化物制限食を牽引する2人の論者は「DIRECT試験により低炭水化物食・糖質制限食の減量効果は低脂肪食や地中海食より優れていることが証明された」と結論づけています。はたして、そうでしょうか?

 

 

江部康二氏(高雄病院理事長)のコメントの矛盾点

 

 DIRECT試験での低炭水化物食では「摂取エネルギー(カロリー)制限なし」になっています。しかし、実際には12か月までは各減量食の摂取エネルギーは低炭水化物食で591.1kcal、低脂肪食559.1kcal、地中海食321.7kcal減少していました。すなわち、本来「摂取エネルギー制限なし」のはずの低炭水化物食のエネルギーは3つの減量食のなかでは最低となっていました。24か月後では摂取エネルギーは低脂肪食よりやや少ないものの、地中海食より明らかに少ない量となっていました(表3)。

 

 これに関しては、低炭水化物食群が炭水化物摂取を制限したことによる直接的な結果なのか、低炭水化物食群が総エネルギーを減らすため自らの意思で炭水化物以外にも何らかの制限を行った間接的な結果なのは不明です。

 

 いずれにしろ、これでは炭水化物制限の効果をみているのか、摂取エネルギー制限の効果をみているのか、不明としか言わざるを得ません。もし、地中海食群が低炭水化物食群と同じ位まで摂取エネルギーを制限して(できて)いたら、地中海食群の方が減量効果は大きかったかもしれません。

 

 

 

山田悟氏(北里大学研究所病院糖尿病センター長)のコメントの矛盾点

 

 DIRECT試験の24か月目(終了時点)での減量効果は確かに低炭水化物食群が4.7kgと、低脂肪食群の2.9kg、地中海食群の4.4kgと比べて最も優れていました。しかし、その後4年の観察期間終了時でのリバウンドは、地中海食群が1.3kgと最も小さく、次いで低脂肪食群2.3kgで、低炭水化物食群4.0kgと最も大きくなっていました。これは、低炭水化物食を維持することが困難であることを意味するのかもしれません。また、地中海に面するイスラエルにとって、地中海食は比較的受け入れやすい食事だということを意味するのかもしれません(表4)。

 

 山田氏は「ADA(米国糖尿病学会)は糖質制限食を採用した」と主張しています。しかし、2013年のADAのガイドラインにおいては「糖質制限食、低脂肪食、カロリー制限食、地中海食は短期間(2年まで)の減量には有効」とのみ記述されています。

 

 また、最新版の2019年のADAのガイドラインには「低炭水化物食(糖質制限)は短期的には血糖コントロール改善に役立ち投薬を減らせる可能性がある。しかし、長期継続は困難で大半の人は元の栄養バランスに戻り、効果は持続しないため、この食事療法に興味がある人には定期的な個別化指導が重要である」とあります。

 

 参考までにADA(米国糖尿病学会)の2019年版の糖尿病診療ガイドラインの内、食事・運動療法・肥満管理の抜粋を下に示します。

 

 

 

 第12回 米国糖尿病学会(ADA)の2019年版診療ガイドライン

 

食事療法・運動療法・肥満管理(抜粋)

  • 肥満糖尿病患者には、エネルギー摂取制限(体重に合わせて500-750kcal/日減少)と生活習慣改善による体重減少(>5%)は血糖・脂質・血圧に対し効果がある。
  • 総エネルギーの適正化を念頭に、個別化を図る。総エネルギーが同じなら栄養素率は異なっていても効果は同じである。誰にでも当てはまるような三大栄養素の理想的な割合はない。
  • 低炭水化物食(糖質制限)は短期的には血糖コントロール改善に役立ち投薬を減らせる可能性がある。しかし、長期継続は困難で大半の人は元の栄養バランスに戻り、効果は持続しないため、この食事療法に興味がある人には定期的な個別化指導が重要である。
  • 蛋白質摂取量も個別化する。ただし、糖尿病性腎臓病を合併している場合は0.8g/kg/日が推奨される。
  • 脂質は全エネルギーの20-35%とすることが推奨される。脂質摂取は量より質が重要で、飽和脂肪酸エネルギー制限が推奨される。n-3脂肪酸のサプリメントは血糖コントロール改善や心血管疾患リスク低下につながらない。
  • 週に3回以上、合計150分以上の有酸素運動をするべきである。