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今は昔のニセコ
ニセコデビュー |
ニセコとの出会い。それは30年ほど前の30代後半、スキー歴4年目のことです。勤務先のスキー仲間に連れられ4泊5日のスキー旅行に出かけました。現在のニセコ・ユナイテッド(NISEKO UNITED)の一つ、ニセコマウンテンリゾートのグランヒラフの前身のニセコひらふスキー場です。
ニセコ・ユナイテッドはパウダースノーの雪質、広大なゲレンデ、バリエーション豊富なコースを有し、世界屈指のゲレンデとも言われ世界中からスキーヤー・スノーボーダーが集まってきます。その中心といえるゲレンデがニセコマウンテンリゾートグラン・ヒラフです。かつては「ニセコひらふスキー場」という名称でしたが、2004年に現在の名称に変わりました。
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ひらふスキー場(グランヒラフ)はニセコ・ユナイテッドの中でもバリエーション豊富なコースを誇ります。しかし、残念ながら当時の私が滑ることのできるコースは極々限られていました。中間地点より上はキング第3クワッド(当時はトリプル)を使ったジャンボコースかセンターコース横の白樺コースでした。ジャンボコースは直進すると30度強の壁となるため途中から迂回路を滑らざるを得ません。アルペンスキー場側ではセンターコースではなく初級の白樺コースを滑り、初級者迂回コースを通り再びキング第3トリプルを使っていました。
中間地点より下を滑る場合は国体コースの第2の壁に入らないように、グリーンコースからアルペンコース、途中から「せんの木コース」へと迂回。そして、山田温泉ホテルの前を硫黄の臭いを嗅ぎながら板を担ぎ徒歩で高原リフトのキング第1ペアリフトに移動していました。
ニセコひらふスキー場のバリエーション豊富なコースから見ると実につまらないコースです。なぜ、その様なコースになったのか? ほとんどのコースには30度を超すような壁が最低一か所はあり、スキー歴4年目のハの字スキーヤーには必然的にこのようなコースとなりました。
また、当時は高原リフトとアルペンリフトは別会社で共通券は存在しませんでした。高原リフトを使った場合、初心者はこの様なコースを選ばざるを得なかったようです。
散々なニセコデビューでした。しかし、開放感のある広大なゲレンデ。全く歯が立たなかったが、バリエーション豊かなゲレンデ。いつかはここを「ストレスなく、気持ちよく滑りたい」と思ったものでした。
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ただし、ニセコは日本有数の豪雪地帯で いつも雪が降っている 羊蹄山は見えないことの方が多い |
初めてのニセコでは風と雪で ダイナミックコースより上部は見えなかった 当然、怖くてリフトにも乗れず滑ってもいない |
東洋のサンモリッツ |
サンモリッツ(St. Moritz)はスイス東部のグラウビュンデン州にある標高1800m級の都市。美しい森と湖、ベルニナアルプスの名峰に囲まれ、爽やかな高地気候と晴天に恵まれた世界有数のマウンテンリゾート。世界のVIP が集う高級リゾートで5ツ星ホテルや有名ブランドショップが建ち並んでいる。
1928年と1948年の2回の冬季オリンピックをはじめ、数多くのアルペンスキーやボブスレー国際大会が開催されてきたウィンタースポーツの聖地として有名。冬のトップリゾートのみでなく、四季を通してハイキングやサイクリング、ゴルフ、ヨット、乗馬など多彩なアクティビティが楽しめるという。
ひらふスキー場のある倶知安町は1964年このサンモリッツと姉妹都市提携をしています。蝦夷富士と呼ばれる羊蹄山とアンヌプリをはじめとしたニセコ連峰、点在する豊富な温泉、バリエーション豊かなスキー場。資質はそれなりにありますが、本家のサンモリッツとは随分と異なる様でした。メイン通りの「ひらふ坂」は右の写真の様に日本のどこにでも見かけるスキー宿が並んでいました。なにより、外国人を見かけることはほとんどなく、世界的なリゾートと呼ぶには無理がある様に思われました。ただし、日本有数の名スキー場であることに間違いはありませんが…。
その後のニセコ(グランヒラフ) |
ここは外国? |
2000年代に入ると南半球にあるオーストラリアの人たちがニセコのパウダースノーの魅力に惹かれ、それが口コミで広がり続々とやって来るようになりました。オーストラリアの首都キャンベラとニセコの時差は2時間。ヨーロッパやアメリカ・カナダと比べると圧倒的に短い移動時間。2005年にはオーストラリア-札幌(新千歳)直行便も就航し“オージーブーム”が到来。その後、香港やシンガポール、マレーシアなどのアジア圏の人々がやって来るようになりました。当然、中国の人たちも。
そうなってくると外国の資本が大挙押し寄せてきます。その結果、ひらふ坂周辺の宿泊施設のほとんどは外国資本となってしまい、旅館、ロッジ、ペンションなどはホテルやコンドミニアム※1に建て替えられています。また、グランヒラフまでの国道343号線周辺(泉郷地区)には外国資本のホテルやコンドミニアムが多数建てられています。
ひらふ坂の高台にあるスカイニセコ。以前あった山田温泉ホテルやホテルニセコスコットは外資系(中国)に売却されニセコ温泉ポポロの湯となりました。その後2018年、国定公園内に初めて建つ全105室のコンドミニアムとして生まれ変わりました(図左下)。
宿泊料はスキーシーズン中では最もシンプルなスタジオルーム(2人、ダブルベッドまたはツインベッド、キッチン付き)で1泊72,000円。3ベットルームスイートは224,000円です。もちろん、食事代は別会計です。一般の日本人がこんな高級なところに泊まりたいと考えるでしょうか? ただし、4月以降のオフシーズン中はスタジオルーム24,000円、3ベットルームスイート73,000円となっています(スカイニセコの公式サイトより)。
ハナゾノリゾート(旧花園スキー場)も外国(香港)資本となってしまいました。その底部にあるレストラン&カフェHANAZONO 308は外国人でごった返しています。ここは「本当に日本か?」と思ってしまいます。値段はラーメン(蟹ラーメン)1杯2,600円、ポカリスエット1本350円とかなり高めです。それでもオーストラリアの人にとって、ニセコの方がリフト券と食事代共にも安いそうです。また、ニセコにスキーに来るような外国の富裕層にとって、世界的リゾートと比べると、ここの物価は決して高くはないとのこと(図右下)。
HANAZONO 308のすぐ隣に地下2階、地上5建て、客室100のホテルと地下1階、地上9建て、分譲戸数100のコンドミニアムが建設中です(2019年11月完成予定)※2。さらに、15年かけて花園周辺にホテル2軒、温泉旅館、コンドミニアム300戸の建設予定もあるとか…。こうなってくるとニセコは本当に世界のリゾートとなり、我々一般の日本人が近寄れない別社会になってしまうのでしょう。
※1)コンドミニアム(condominium)とは、アメリカやカナダの分譲マンションこと。所有権と利用権を分けて考え、オーナーが利用しない間は旅行者に賃貸されることも多く、その収益はオーナーに還元される。リゾート地などでよく見られるので、借りる側からみると「賃貸型リゾートマンション」という意味でも使われる。コンドミニアムは、ベッドルーム、リビング、キッチンから成るユニットがあり、家具や什器類もそろっており、長期滞在に適している。ニセコひらふ地区はこのコンドミニアムの建設ラッシュとなっている。
※2)パークハイアット ニセコ ハナゾノレジデンス(Park Hyatt Niseko Hanazono Residense):世界有数の高級ホテルグループ ハイアットホテルアンドリゾートが運営するコンドミイアム。2019年11月完成予定。占有面積は72.70m2~146.60m2。分譲価格は1戸当たり17,900万円~34,500万円とのこと。1,790万円~3,450万円ではありません。1億7,900万円~3億4,500万円です!
車から眺めると |
私はシーズン中の日曜日、競技スキーの練習のため15回前後ニセコ・ユナイテッド奥のモイワスキーリゾートを訪れます。その途中、道道343号線でひらふ地区を通ります。往路はまだ午前7時30分位と早いため人影はまばらです。しかし、復路の午後3時~3時30分頃はファットスキー(幅広で新雪用のスキー板)を担いだ多くの人々が道端を歩いているのを見かけます。日本人はほんの少数で、ほとんどが外国人です。
「ここは外国?」は、全てを私が実際に見たり調査したりした訳ではなく、ネットからの情報も多く含まれています。なぜなら、最近はひらふ地区はモイワスキーリゾートへの往復に通り過ぎるだけで、ここを滑ることは殆どなくなっているからです。それでも、車でひらふ地区を通り過ぎるだけでも「ここは外国?」を実感できます。
少し心配 |
倶知安町の公示地価上昇率は4年連続して日本一とのこと(2018年)。言うまでもなく外国資本がニセコ、特にひらふ地区に投入されたためです。また、外国の富裕層がスキー場やその関連施設にお金を落としてくれます。しかし、ほとんどが外国資本となったニセコのひらふ地区や花園地区。ひょっとすると地元も国内資本も思ったほど恩恵を受けていないのかも知れません。
こんな警告もあります。「外国人の、外国人による、外国人のためのリゾート」となりつつあるニセコ(高橋克英 金融アナリスト)。少し心配です。