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2015年3月
脂肪細胞のヒミツ ー わがままな脂肪細胞
脂肪細胞 ”O” のつぶやき |
私のこと、「デブ」とか「疫病神」とか言っているあなた。
私のこと、もっとよく見て!
私は働きもの。あなたの食べ残し、すべて私が片づけます。
それが、私の仕事…。
ただ、あなたが食べた分だけ、私の仕事は増えていきます。
そして、私はデブに…。
本当は、私だってスリムでいたい。
あなたを守るためにデブになっているの!
でも、あなたはそのことを分かってくれない。
そして、あなたは無理難題を押し付けます。
これ以上あなたを守りきれない。
だから、あなたに「殺し屋」を差し向けます。
コードネームは、TNF-α、PAI-1、…。
【院長の独り言 第19号(平成27年2月号)より】
これでは、最近頻発している凶悪殺人事件の犯人が発する「意味不明の動機」と同じになってしまうかも知れません。狙われた理由が理解でききません。
脂肪細胞”O”には、「それなりの理由」があったのです! 実は、「本当は、私だってスリムでいたい」以下には、大事なメッセージが隠されていました。以下がそのメッセージです。
本当は俺だってスリムでいたい。
あんたは分かってない様だが…。それは、あんたのため。
俺は善良なる市民。
あんたが俺をこき使わない限り、俺はあんたのために働く。
ただ、あんたは知らないだろうが…。
俺は「内臓脂肪ファミリー」の構成員。これが俺の本当の姿。
いざとなったら、あんたのことより「ファミリー」の方が大事。
ファミリーを守るためなら、あなたなんか死んでもかまわない。
あんたは食べ過ぎて、俺のファミリーをこき使った。
ファミリーはひどく怒っている!
だから、親分はあんたに「殺し屋」を差し向けた。
コードネームは、TNF-α、PAI-1、…。
あんたは、10年早く死ぬだろう。
わがままな脂肪細胞 |
■脂肪細胞は善玉サイトカインを分泌する
前回説明した通り、肥満のない人の内臓脂肪細胞はスリムです。その内臓脂肪細胞からは動脈硬化を予防する働きのある善玉サイトカインであるアディポネクチンが分泌されます。
■太った内臓脂肪細胞は悪玉サイトカインを分泌する
一方、太った人の内臓脂肪はそのサイズも数も増えています。中性脂肪の塊(脂肪滴)でお腹一杯になった脂肪細胞をイメージしてみてください。その様な脂肪細胞からはTNF-α、PAI-1、アンジオテンシノーゲンなどの悪玉サイトカインが分泌されます。
■太った脂肪細胞はわがまま
太った脂肪細胞は集団となりファミリーを形成します。まるで「○〇団」です。このファミリーは大変わがままで凶暴です。さまざまな要求を出します。
「ファミリーは大人数で、養うには栄養が要る」
「栄養が足らないぞ!」
「ならば、血圧を上げて栄養をたくさん運んでこい!」等、様々な要求を出し続けます。
■太った脂肪細胞は血圧を上げる
そして、血管を通してより多くの栄養を運んでこさせるため、脂肪細胞は血圧を上げる物質(昇圧物質)アンジオテンシノーゲンを分泌します。栄養を運ぶトラックのスピードをあげるイメージです。肥満者が高血圧になる理由の一つです。
■お腹一杯の脂肪細胞はTNF-αを分泌する
お腹一杯になった脂肪細胞は、「お腹一杯!」「もう栄養は要らない、食べたくない」と思いました。どうするのでしょうか?
インスリンはぶどう糖を脂肪細胞に取り込む働きをするホルモンです。太って数の増えた脂肪細胞ファミリーを養うためには、大量のぶどう糖が必要です。そのため、血液中のインスリンは増えています。
しかし、「もう、これ以上ぶどう糖を食べたくない」と思った脂肪細胞は、インスリンの効きを悪くして(インスリン抵抗性)ぶどう糖を口に入れない様にします。すなわち、TNF-αという物質を出して、ぶどう糖を食べる口(糖輸送体)を閉ざそうとします。すると、体(膵臓)はインスリンの効きが悪くなった分だけ、益々たくさんのインスリンを分泌して(高インスリン血症)、その口を開けさせようとします。この様にして糖尿病という病気が始まり、そして進行していきます。
一方で、インスリンは腎臓に働きかけナトリウムの排泄を低下させ、血液中のナトリウム量を増加させます。それを薄めるため水分が血管内に入り、循環血液量が増え血圧が上昇します。
また、インスリンは交感神経を緊張させ血圧を上昇させます。
■お腹一杯の脂肪細胞はさまざまな要求をする
太った脂肪細胞は、ぶどう糖という「食べ物を要求」する一方、「もう要らない」と支離滅裂な要求を出します。内部分裂です。また、アンジオテンシノーゲンやTNF-α以外にも、下の図の様に様々な悪玉サイトカインを出しあなたを困らせます。
■なぜ、わがままな要求を出すのか?
太った内臓脂肪は、なぜこの様な「わがまま」で「支離滅裂」な要求を出すのでしょうか?
本来、人の各組織・臓器はお互いの組織・臓器や身体全体の健康が保てるよう協力・協調しあっています。しかし、ある組織・臓器にとって不都合ななことが起こると、それが他の組織臓器にとって不都合なことになったとしても、自分の組織・臓器を守るため様々な命令を出す様になります。たとえ、それが自分の体全体に不都合なことであってもです。
たとえば、内臓脂肪は肥大化し数が増えすぎると、自身を守るため様々な要求をだすことは既に述べた通りです。
終わりに |
脂肪細胞はジキルとハイドに例えることができるかも知れません。
しかし、ご安心ください。あなたが「いい子」でいる限り、脂肪細胞は決してハイドにはなりません。脂肪組織は「断熱材、クッション、エネルギー貯蔵庫、掃除屋、善玉サイトカイン分泌」など、あなたにとって大切なパートナーのままでいるでしょう。
だだし、あなたが「悪い子」になると脂肪細胞はハイドに変身し、あなたに「殺し屋」を差し向けるかも知れません。すべては、あなた次第です。