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2015年11月
がん死亡率が最も低い市町村は? |
がん死亡率が最も低い市区町村は?
人口10万人以上の市区町村の中で、がんによる死亡率が最も低いのは掛川市です。全国平均を100とした場合、女性で77。平均より20%以上も少ない死亡率でした。男性でも第2位の80.7。トップ10に名を連ねる掛川市、藤枝市、磐田市、浜松市。これらの市は同じ県にあります。この県とはどこでしょうか?
静岡県です。なぜ、静岡県にはがん死亡率の低い市区町村が多いのでしょう? その鍵が「緑茶」にあるのかもしれません。以前より、緑茶には胃がんの抑制効果があると言われてきました。緑茶に含まれるポリフェノールの一種であるカテキンにがん予防効果があるとされています。
JPHC(多目的コホート)研究 |
緑茶とがんの関係について、1990(平成2)年より10年以上にわたる厚生労働省研究班による追跡調査があります。 いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てる研究のひとつです(JPHC研究)。
平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所管内に在住の住民を対象とし、がんや循環器疾患になっていない40~69歳の男女約9万人を、平成23年(2011年)まで追跡調査しています。
そのなかで、習慣的緑茶摂取と全死亡リスクおよびがん、心疾患、脳血管疾患、呼吸器疾患および外因死との関連の調査・研究が行われました。研究開始時に緑茶を飲む頻度に関する回答から、1日1杯未満、毎日1~2杯、毎日3~4杯、毎日5杯以上飲むという4つのグループに分けて検討。その間に12,874人の死亡が確認されています。
■緑茶を習慣的に摂取するグループにおいて男女の全死亡リスクが減少
緑茶を1日1杯未満飲むグループを基準として比較すると、毎日1~2杯、毎日3~4杯、毎日5杯以上のグループでは、男性の全死亡で0.96、0.88、0.87、女性で0.90、0.87、0.83でした。男女とも緑茶摂取量が増えるにつれ死亡リスクが低下する傾向が認められています。
■男性の脳血管疾患と呼吸器疾患、女性の心疾患と外因死による死亡リスクが減少
死因別に調べたところ、がん死亡の危険度には有意な関連がみられませんでした。しかし、心疾患死亡、脳血管疾患死亡、呼吸器疾患死亡については、緑茶摂取による危険度の有意な低下がみられました。
1日1杯未満摂取するグループと1日3~4杯、1日5杯以上摂取するグループの死亡リスクは、それぞれ以下の通りでした。
研究開始から5年以内の死亡例を除いた場合でも、緑茶と死亡リスクとの間には同様の関連がみられました。
■緑茶と死亡リスクの関係
なぜ、緑茶摂取で死亡リスクの低下が見られるのでしょうか?
第一に、緑茶に含まれるカテキンには血圧や体脂肪、脂質を調節する効果や血糖値改善効果があるとされています。
第二に、緑茶に含まれるカフェインが血管内皮の修復を促し、血管を健康に保つとされています。
第三に、カフェインには気管支拡張作用があり、呼吸器機能の改善効果があるのではないかと言われています。これらの効果が循環器疾患や呼吸器疾患死亡につながる危険因子の調整に寄与しているのかもしれません。
また、この研究では緑茶摂取と女性の外因死リスク低下との関連も限定的ながら示唆されました。これについては、緑茶に含まれるテアニンやカフェインが認知能力や注意力の改善に効果があるのではないかとされていますが、はっきりとした因果関係は分かっていません。
■緑茶とがん死亡リスクの関係
残念ながら、がん死亡については有意な関連が見られませんでした。先に行われた部位別の研究では、緑茶摂取と女性の胃がんリスク低下との関連が示唆されています。しかし、全がん死亡では他の部位のがんも総合して分析を行ったため、有意差がなくなった可能性が考えられます。
また、この研究で用いた質問票では、缶及びペットボトル入り緑茶を含む緑茶全般の摂取頻度を尋ねており、緑茶の淹れ方などで分けてはいません。
リンク JPHC(緑茶摂取と全死亡・主要死因死亡との関連について)
緑茶の淹れ方でがん死亡医リスクが変わる |
緑茶の淹れ方でがん死亡リスクが変わる
静岡県立大学の小国と原田による研究から
最初にあげた「静岡県にはがん死亡率の低い市町村が多い」という報告。都道府県別に見ても、がんによる死亡が男女とも全国平均と比較して低い県です。全国平均を100とした場合、1969~1983年のデータでは、全がんで87(男性:85.8、女性:87.0)、胃がん:82.4(男性:80.9、女性:84.7)でした。
静岡県立大学の小国らはそのことに興味を持ち、さらに詳しく調査しています。その結果、がん死亡率は静岡県内の各地域に分けると大きな差がありました。胃がんについては、男女とも静岡中・西部の大井川および天竜川の上流と周辺地域が著しく低く、全部位がんや他のがんについても同様の傾向が認められています。
胃がんに関しては、お茶の産地として有名な中川根町では極めて低く、男性20.8、女性29.2で、男性では全国平均の1/5、女性では1/3でした。一方、お茶の産地ではない地域では全国平均より高い所もありました(例えば、東伊豆では男性114.1、女性106.2)。この違いに関して緑茶の飲用習慣に関して調査を行っています。
静岡県は「お茶処」として有名です。その生産量は全国第1位で40%を占めています。静岡県民は他県より緑茶飲用量が多いが、緑茶産地の住民は非生産地の住民と比べて、お茶を飲む回数が多く、茶葉を頻回に取り換えていました。さらに、よりより胃がん死亡率が低い地域では濃い目のお茶を好んで飲む習慣があったそうです。
掛川市よりの報告 |
掛川市よりの報告
冒頭での掛川市。ここでは、お茶の淹れ方・飲み方には独特の工夫がなされています。掛川のお茶畑の多くがなだらかな丘にあり、たっぷりの日差しを浴びるためカテキンをたっぷりと含んだ「渋いお茶」になるそうです。そこで、渋みを和らげ飲みやすくするため編み出されたのが「深蒸し」と呼ばれる方法です。長時間蒸すことで茶葉の組織がぼろぼろになり、渋み成分のカテキンと他の成分がくっ付き渋みを感じにくくなります。お茶の産地としては必ずしも最上とは言い難い土地で、「美味しいお茶」を作ろうとした昔ながらの知恵が、結果的に健康成分を作っていたとのことです。
【日刊ゲンダイ 2015年4月9日より】
「私の88歳になる父と86歳の母は、大きめの茶碗で毎日10杯のお茶を飲んでいますが、掛川ではごく当たり前ですね。小中学生も学校ではお茶を飲んでいます。もちろん、ソフトクリームにも茶葉を振りかけたり、料理にも使ったりもする。東北大の研究では、緑茶が循環器疾患による死亡を減らすという報告もありますし、掛川市民の健康寿命が全国トップなのは、お茶に理由があると思われます」(掛川市役所・お茶振興課 後藤直己氏)。
長生きの指標として最近注目の「健康寿命」。介護を必要としない健康な高齢者のこと。全国平均は男性70.42歳、女性73.62歳(2010年)となっている。単純な平均寿命は男性80.21歳、女性86.61歳。掛川市のある静岡県は健康寿命が男性全国第2位(71.68歳)、女性第1位(75.32歳)。がん死亡率の低い自治体同様、やはり、緑茶が長寿を保つ秘訣といっていいだろう。
注意 |
ただし、小国らの研究報告は「前向き研究」ではなく、「後ろ向き研究」です。前向きのJPHC研究では、予めお茶の摂取習慣に関する調査を行い、その後に全死亡やがんなどの死亡リスクの追跡調査がなされています。調査対象になった人は、おおまかな研究目的は知らされていますが、詳細に関しては知らされていません。したがって、「緑茶はがん予防になるかもしれない」ということについては知らされていません。
一方、小国らの研究報告は、静岡県民なら誰もが期待する「お茶の健康増進作用」に関するものです。胃がんなどの「がん」になった人と、ならなかった人の後から(後ろ向き)の聞き取り調査です。がんになった人は「お茶を飲まなかったから”がん”になった」と思っているかもしれません。したがって、お茶の飲用習慣に関しては、実際より「少なめ」に答えているかもしれません。逆に、がんにならなかった人は「お茶を飲んでいるから”がん”にならなかった」と思っているかもしれません。そして、実際より「多め」に答えているのかもしれません。これを「思い込み」「偏見」と言う意味で「バイアス」と言います。
医学をはじめとした科学的研究においては、後ろ向き研究はバイアスが入りやすく客観性に欠け科学的ではないとされています。一方、前向き研究はバイアスが入りにくく、客観性に優れ科学的とされています。
終わりに… |
終わりに…
前向き研究のJPHC研究では、「緑茶はがん死亡リスクを減少させる」という結果を得ることはできませんでした。しかし、静岡県の「お茶の産地」のように、茶葉を頻回に取り換えた濃いお茶を一日10回以上も飲む習慣で検討すると、結果は変わってくるかもしれません。
JPHC研究の別の検討では、女性においては胃がんによる「死亡リスクを減少させる」という結果が出ています。そして、この研究では、がん以外は男性の脳血管疾患と呼吸器疾患、女性では心疾患と外因死による死亡リスクを減少させることが証明されました。がんに関しては、少なくともリスク上昇の傾向は出ていません。なにより、緑茶は全死亡リスクを減少させています。
私たち日本人は、もっと「濃いお茶」を、もっと「飲む」方がよいのかも知れません。