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2014年11月
卵とコレステロール
ー 動脈硬化をめぐる論争と混乱 ー
Ⅰ. コレステロールと動脈硬化
アニチコワの発見
コレステロールと動脈硬化の関係を初めて見出したのは約100年前(1913年)のロシアの病理学者ニコライ・アニチコワ(Nikolai Anitischow)です。
彼はウサギにコレステロールが大量に含まれている餌を与えました。その結果、血液中のコレステロールが急増し、人に認められる動脈硬化によく似た血管病変を作り出すことに成功しました。高コレステロール食による高コレステロール血症とその結果起こる動脈硬化の図式が生まれた訳です。
しかし、彼の発見はある誤解を生むことになりました。そして、それはつい最近まで続くことになってしまいます。その誤解とは「卵は動脈硬化の原因になる」でした。たしかに、卵にはコレステロールが豊富に含まれています。
動物にはコレステロールは必要な物質
コレステロールは動物が生きていくためには必要不可欠な物質です。そして、コレステロールは体内でコレステロール以外の物質から作られます。詳しくは後で説明します。
草食動物のウサギ
ウサギは草食動物です。普段食べている食物にはコレステロールはほとんど含まれていません。したがって、コレステロールの吸収を調節するバリアーは必要がありません。また、備わっていません。このウサギにコレステロールが多く含まれている餌を食べさせればどうなるでしょう。コレステロールが急上昇するのは当たり前のことです。
ライオンとコレステロール
肉食動物のネコやライオンではどうでしょう。草食動物と同じ様に体内でコレステロールは合成されます。しかし、その吸収に関しては大きな違いがあります。ウサギの様にほとんど制限なしに吸収される訳ではありません。
肉食動物の食物にはコレステロールが豊富に含まれています。したがって、体内のコレステロールが多いとコレステロールの吸収は抑えられます。また、胆汁として排泄される量は多くなります。逆に、少ないと吸収する量は多くなり排出は抑えられます。すなわち、体内のコレステロール値を一定に保つシステムが備わっているのです。
「人」とコレステロール
私たち人間は雑食性です。コレステロールの調整機構は肉食系のネコやライオンに近いといえます。
アニチコワの実験とは
アニチコワの実験は草食動物のウサギにコレステロールを与える実験であって、肉食や雑食動物に対するものではありません。雑食性の人間にもウサギと同様の作用を生じると考えたことに大きな間違いがありました。
この実験では体重1700g位のウサギに1日に0.2~0.5gのコレステロールを投与しています。人が卵を食べたことに換算すると、体重60kgの人が毎日30~70個の卵を食べたことになります。コレステロール吸収バリアーを持たないウサギならどうなるか。容易に想像がつくと思います。
また、その餌はヒマワリ油にコレステロールを溶解したものでした。すなわち、通常のコレステロールではなく劣化した「酸化コレステロール」でした。
その後、雑食性の別の動物(ラットなど)を使った研究(追試)では高コレステロール食の投与によるコレステロールの上昇や典型的な動脈硬化は見られませんでした。
Ⅱ. コレステロールの働き
動脈硬化の元凶と言われてきたコレステロール。しかし、私たち人間を含めて動物にとって、なくてはならない重要な働きをしています。
まず、第一に細胞膜の構成成分の一つです。私たち人間の場合は約60兆個の細胞で構成されています。細胞膜は細胞内部を外部から保護し独立した領域を作り上げています。ただし、建物の壁のように細胞の外部と内部を完全に隔ててしまっているのではありません。細胞膜を通して細胞の内と外での物質やエネルギーを出入りさせています。このような機能を持つ細胞膜はリン脂質とたんぱく質、そしてコレステロールから出来ているのです。
例えば、神経系での働きです。体内に100~150gにあるコレステロールの3分の1は脳や神経線維に存在します。その大部分は神経細胞の軸索を包み保護している鞘、ミエリン鞘(しょう)にあります。ミエリン鞘は脳から体の各部分に神経情報が伝達されるとき、情報がほかの回路に迷い込むことなく正しく伝えられるように神経線維(軸策)を保護しています。いわば、電線の絶縁体に相当します。
第二の働きとしてホルモンの原料となります。体内で一番多くコレステロールを含む臓器は副腎です。ここでは50種類ものホルモンが作られており、その代表が副腎皮質ホルモンです。他にもアンドロゲン、エストロゲンなどの性ホルモンもそうです。
第三の働きとしてコレステロールは胆汁となり肝臓から排出されます。この胆汁は脂肪の消化・吸収を助けます。
Ⅲ. 「卵とコレステロール」の誤解
昔から「コレステロール値が高い人は卵を控えめにしましょう」と言われていました。はたして、これは本当でしょうか?
卵はコレステロールが豊富な食品
卵にはコレステロールが豊富に含まれています(50gの卵1個に210㎎のコレステロールを含有)。また、日常的に摂取量も多くよく食べられる食品です。そのため、「卵の摂取量と病気」の関係は「コレステロールと病気」の関係を推定するには大変有用です。
最近の信頼できる科学的な方法による研究によると「卵の摂取量と冠動脈疾患や脳卒中などの病気の発症とは関係がない」ことが明らかにされています。
一方では、血液中のコレステロールが高い(高コレステロール血症)では、これらの病気になる確率が高くなります。特に悪玉コレステロール(LDL-コレステロール)との関係は動かしようのない確立された科学的事実です。
「卵摂取量が多い = 高脂血症」ではなかった!
「卵の摂取量が多くても冠動脈疾患・脳卒中は増えない」ことと「高脂血症(コレステロール高値)は冠動脈疾患・脳卒中の原因になる」は一見すると矛盾しているように感じます。
しかし、冷静に考えれば全く矛盾していません。先に説明いたしましたように「人では卵を食べてもコレステロールはほとんど増えない」からです。あのアニチコワの発見から「コレステロール=悪者」のイメージが生じ、「卵=コレステロール=悪者」の誤解にまで発展してしまいました。
実際のところ、1日に5個や6個の卵を食べたとしても、多くの人では血中コレステロール値は上昇しません(*1)。
Ⅳ. 卵は「いくつまで食べてもよい?」
では、卵は「いくつまで食べてもよい」のでしょうか?
先に述べた「信頼できる科学的な方法による研究」のいくつかを紹介します。
卵の摂取量と虚血性心疾患や脳卒中による死亡との関連はなかった。
卵を1日2個以上摂取したグループとほとんど摂取しないグループの死亡率に差はなかった。
女性では2個以上摂取するグループではがんによる死亡が増える可能性がある。(*2)
卵の摂取量と冠動脈疾患との関連はなかった。
糖尿病患者においても糖尿病の発症率および冠動脈疾患との関連はなかった。
食事のコレステロール摂取量と虚血性心疾患による死亡率は摂取量が多いと死亡率は高い。
ただし、飽和脂肪酸摂取量の影響を調整すると差はなくなった(*3)。
コレステロール摂取量の目標値がなくなりました!
今までは、厚生労働省が勧める「日本人のコレステロール摂取の目標値」は18歳以上の男性では750㎎未満、女性では600㎎未満とされていました。18歳未満・妊婦・授乳中の女性は、これを参考に適度な摂取が推薦されています。
しかし、その目標値はNIPPON DATA、JPHCやハワイ在住の日系人の観察研究などの科学的事実の基づき2015年に改定される予定です。その改訂版では「コレステロール摂取量の目標値」の「目標値」は削除されることとなりました。
そして、以下のような注釈が添えられています。
高コレステロール血症の患者さんは?
では、コレステロール特に悪玉コレステロール(LDL-コレステロール)が高い人はどうすればよいのでしょう。2015年版の指針を要約すると次のようになります。
他の危険因子とは…冠動脈疾患の既往、喫煙、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病、非心原性脳梗塞(*4)
まとめ
① コレステロールは体内で合成できる脂質。細胞膜の構成成分。なくてはならないもの。
② 肉食・雑食動物ではコレステロールの吸収は体内のコレステロール量により調整されている。多いと吸収は少なく、少ないと多くなる。その結果、体内ではほぼ一定の量に調整されている。
③ 卵はコレステロールを豊富に含む。また、他の栄養素も含んでいる。
④ 卵は1日2個位までなら冠動脈疾患や脳卒中の発症の危険性は増加させない。
⑤ 女性では2個以上だとがんの発生の危険性が増すかもしれない。1個以内なら大丈夫。
⑥ 悪玉コレステロール(LDL-コレステロール)は動脈硬化の重要な危険因子。一定の範囲内に保つ必要がある。脂質に関する栄養管理以外に肥満の是正や運動などが必要。
⑦ コレステロールや脂質の厳しい摂取制限は栄養不足や栄養素不足を招く危険性がある。特に高齢者では注意が必要。
註解
*1)家系的にコレステロースが異常に高くなる家族性高脂血症では高くなることがある。
*2)女性における「卵の摂取量とがんの危険性」に関しては今後の検討が必要。
*3)肉などに多く含まれている脂肪の成分。常温で固まりやすい性質がある。
*4)心原性脳梗塞とは心房細動が原因で心臓の中にできた血栓が脳の血管に詰まってできる。一旦発症すると重篤なことが多い。有名人には、小渕恵三元首相、長嶋茂雄元監督、オシム元監督などがいる。非心原性脳梗塞とはそれ以外の原因による脳梗塞のことをいう。