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お断り:グルコース、フルクトースは生化学的事項、ブドウ糖、果糖は栄養学・医学的事項で使用しています。
炭水化物は生命体のエネルギー源であり構成成分である |
炭水化物は地球上の生物にとって生命活動のエネルギー源であり、生体の基本的な構成成分です。藻類や植物は太陽エネルギーを利用し光合成により二酸化炭素と水を炭水化物と酸素に変換します。さらに、植物はグルコース分子を化学的に結合しセルロースやデンプンという多糖類の形で貯蔵します。地球上の生物(植物と動物)の乾燥重量の50%以上がグルコース・ポリマー(重合体)からできていると推定されています。
炭水化物は糖質と食物繊維から、さらに糖質は多糖類と二糖類・単糖類からなっています。単糖は消化液(消化酵素)ではそれ以上には分解(消化)できない炭水化物の最小単位で、ヒドロキシ基(OH)と結合した3~9個の炭素(C)とアルデヒド基(-CHO)またはケトン基(-CO)と水素(H)からできています。
生物学的には5つの炭素からなる5単糖と、6つの炭素ならなる6単糖がよく知られた単糖です。5単糖のうち遺伝子RNAの糖質成分のリボースと遺伝子DNAの糖質成分であるデオキシリボースが、6単糖のうちグルコース(ブドウ糖)とガラクトース、フルクトース(果糖)が重要です。グルコースはほとんどの生命体にとって欠くことのできないエネルギー源です。フルクトースは甘みの強い糖として頻用されますが、体内では肝細胞内でグルコースの誘導体に変換された後、グルコースと同じような経路で代謝されます。
2つの単糖が化学的に結合したものが二糖類です。マルトース(麦芽糖)はグルコースとグルコース、スクロース(ショ糖・砂糖)はグルコースとフルクトース、ラクトース(乳糖)はグルコースとガラクトースの結合です。単糖が3~10個位結合したものがオリゴ糖、さらに20個以上結合したものが多糖類です。3個以上の単糖が結合する場合、そのほとんどはグルコースが結合したものです(図2)。グルコースやガラクトース、フルクトースなどの6単糖はC6H12O6と同じ分子式で、その原子配列が少し異なるだけです(図1)。
グルコースは圧倒的多数存在する6単糖 |
C6H12O6の分子式を持つ6単糖は前述の生物学的に重要な3の単糖を含め全部で12種類あります。そのうちでグルコースが圧倒的に多数存在しています。何故でしょうか? その理由としては次の3点を挙げることができます。
①グルコースは全ての6単糖の内で化学的にも物理的にも最も安定しています。分子を3次元的に考える領域を立体化学といいます。ごく簡単にいうと炭素に結合した水素原子(H)や酸素原子(O)や水酸基(OH)は互いにできるだけ離れている場合に最も安定した立体配置となります。この条件に当てはまる、すなわち立体化学で最も安定な6単糖がグルコースです。
➁炭水化物をエネルギー源として貯蔵しようとするとき、グルコースやガラクトース、フルクトースなどの単糖のままで貯蔵しようとすると多数の糖が必要となります。その結果、細胞内は高密度の糖により浸透圧が上昇し細胞を破壊するほどの水が細胞内に侵入します。従って、単糖ではなく、その重合体としてより大きな分子で貯蔵される必要があります。グルコースはその重合体の構成成分として最も適しており、植物ではデンプン(註1)、動物ではグリコーゲン(註1)として貯蔵されます。
植物には構造物が必要です。グルコースが直線的に鎖状に結合したものがセルロース1)です。その複数の鎖が相互作用により横に結合し繊維を作り、より強固な構造体を作ります。樹木の幹も枝も、私たちが住んでいる(木造の)家もグルコースからできています。デンプンやグリコーゲンはセルロースと同じグルコースが直線状に結合したものですが、その結合様式がセルロースとは異なります。動物はこのセルロースをグルコースに加水分解する酵素を持っていません。牛や羊、馬などの草食動物はこのセルロースを分解しブドウ糖やアミノ酸、脂肪酸、ビタミンなどの栄養分を合成できる細菌が胃や腸に棲んでいるため牧草や干し草で生きていけるのです(註2)。
炭水化物の消化と吸収 |
炭水化物のうちグルコースの貯蔵体であるデンプンやグリコーゲンはアミラーゼにより二糖類の麦芽糖(マルトース)に分解されます。二糖類の麦芽糖(マルトース)は小腸粘膜の微絨毛に存在する二糖類分解酵素のマルターゼによりブドウ糖とブドウ糖、ショ糖(スクロース)はスクラーゼによりブドウ糖と果糖、乳糖(ラクトース)はラクターゼによりブドウ糖とガラクトースの単糖に分解されます。グルコースとガラクトースはSGLT1(註3)により、フルクトースはGLUT5(註3)という糖輸送体3)により小腸壁の上皮細胞に取り込まれます。小腸上皮細胞内のグルコース、ガラクトース、フルクトースは全てGLUT2(註3)により小腸血管内に取り込まれ門脈経由で肝臓まで運ばれます(図2)。
グルコースは大部分の臓器において重要なエネルギー源 |
哺乳動物にとってグルコースはほとんど全ての臓器において重要なエネルギー源です。糖尿病の急性合併症の糖尿病ケトアシドーシスは別として、長時間の絶食時や糖質制限中を除く、いわゆる非飢餓状態においてはグルコースは脳が利用する唯一のエネルギー源です(註4)。赤血球においては全ての状態で利用できる唯一のエネルギー源です(註4)。
血糖値は驚くほど狭い範囲に調節されている |
血糖値は健康な人では空腹時や食後にかかわらず70~140mg/dLと極めて狭い範囲内にコントロールされています。これはインスリン(註5)やグルカゴン(註6)や自律神経による調節以外にも肝臓、膵臓、筋肉、脂肪の絶妙な協調作業によります。
①肝臓とグルコース
門脈を経由して肝臓に到達したグルコースは肝細胞内外のグルコース濃度や肝臓内でのグルコース代謝産物の状況により取り込まれる量やスピードが変化します。簡単にいうと、血糖値が高い(グルコース過剰)時には肝臓に取り込む(取り除く)グルコースの量を増加させ高血糖を防止します。逆に、血糖値が低い(グルコース不足)の時は肝臓に取り込むグルコースの量を減少させ、肝臓以外の全身の臓器にグルコースを供給します。さらに、肝臓内のグルコース源であるグリコーゲンからグルコースに変換したり、アミノ酸や脂肪酸からグルコースを合成(糖新生)7)して、肝臓から全身に送り出します(図2)。
➁膵臓とグルコース
肝臓を通過したグルコースは膵臓のインスリン受容体に結合し、インスリンの分泌を促進します。インスリンの標的臓器は肝臓、筋肉(骨格筋・心筋)や脂肪組織です。
③肝臓とインスリン
肝細胞内に取り込まれたグルコースはヘキソキナーゼⅣ(グルコキナーゼ)の作用により速やかにグルコース-6-リン酸(G-6-P)に変換されます。これにより肝細胞内のグルコースの濃度が低く維持され細胞内外のグルコース濃度勾配が保たれ摂食時の効率的な肝臓でのグリコースの取り込みが促進されます(註8)。インスリンはこのグルコキナーゼの働きを増強させ肝臓でのグルコースの取り込みを促進します。また、インスリンはグリコーゲンの分解によるグルコース変換を抑制やアミノ酸や脂肪酸からの糖新生の抑制により肝臓からグルコースの放出を抑制することで血糖上昇を防ぎます。
④骨格筋とインスリン
インスリンは細胞質内にある糖輸送体4(GLUT4)(註3)を細胞膜に移動させグルコースを取り込みます。骨格筋に取り込まれたグルコースは筋肉活動のエネルギー源のグリコーゲンとして貯蔵されます。ただし、骨格筋に貯蔵されたグリコーゲンは肝臓とは異なり他臓器に供給されることはありません。骨格筋自体のエネルギー源としてのみ消費されます。なお、骨格筋のGLUT4の細胞表面への移動は運動によっても生じます。すなわち、運動によりグルコースは筋肉に取り込まれ血糖値を下げます。これが糖尿病の時に運動療法の原理です。
⑤脂肪組織とインスリン
インスリンは骨格筋と同様にGLUT4の細胞表面へ移動させグルコースを取り込み、取り込んだグルコースを中性脂肪に合成します。お腹の脂肪(内蔵脂肪)や皮下脂肪はグルコースの単なる貯蔵庫だけはなく、過剰なグルコース(高血糖)の害から身を守る働きもあったのです。脂肪は河川の水というエネルギーの貯蔵庫であり、洪水などの自然災害から守るダムのようなものに例えることができます。
フルクトースは危険な糖? |
グルコースとフルクトースはC6H12O6と同じ分子式の6単糖です。しかし、フルクトースは次の点でグルコースとは大きく異なります。
①フルクトースは老化物質(AGEs)の原因となる糖化反応を起こしやすい。
②フルクトースは肝臓でグルコースの代謝物に変換された後グルコースと同じ経路で代謝される。
③グルコースは全身の臓器で代謝(利用)できるが、フルクトースはほとんどが肝臓で代謝される(肝臓を除くほとんどの臓器では代謝(利用)できない)。
フルクトース(果糖)は糖化反応を起こしやすい |
糖化反応(Glycation)(註9)とは、フルクトースやグルコース、ガラクトースなどの糖分子が有するケトン基やアルデヒド基(図1)にタンパク質または脂質などが結合する事を起点として起こる一連の化学反応でAGEs(最終糖化産物)を産生します。AGEsは老化、糖尿病性血管障害(合併症)、動脈硬化、心臓病、アルツハイマー病、癌、末端神経障害、難聴、失明などの原因となります。フルクトースはグルコースより糖化反応を10倍起こしやすいことが知られています。
フルクトース(果糖)の消化・吸収 |
フルクトースは自然界では果物、蜂蜜、野菜などに含まれるスクロース(ショ糖・砂糖)中の単糖として、または単独で存在します。食品業界では甘味料として高濃度のフルクトースを含む果糖ブドウ糖液糖10)として存在しています。ショ糖は二糖類分解酵素のフルクターゼにより単糖のグルコースとフルクトースに加水分解された後、グルコースは糖輸送体SGLT1、フルクトースは糖輸送体GLUT5を通して小腸上皮細胞に取り込まれます。その時の取り込み速度はフルクトースの糖輸送体GLUT5はグルコースは糖輸送体SGLT1より遅いことが知られています。さらに、フルクトースの一部は小腸上皮内で直ちにグルコースに変換されます。
次いで、フルクトースはグルコースやガラクトースは共に糖輸送体GLUT2から小腸の血管に入り門脈から肝臓に入ります。グルコースはその一部(20~50%)が、フルクトースとガラクトースはほとんど全てがGLUT2から肝細胞内に取り込まれ、それぞれ特有の代謝を受けます(図2)。
果物は安心。果物ジュースや清涼飲料水は危険! |
果物にはショ糖やフルクトースが多量に含まれています。では、糖化反応を受けやすいフルクトースを多く含む果物は危険な食物ではないのでしょうか? ご安心ください。果物は危険な食物ではありません。
果物には食物繊維が豊富に含まれています。そのため、果物中の二糖類のショ糖が小腸粘膜から吸収可能な単糖のフルクトースとグルコースまで消化されるまで時間がかかります。また、フルクトース輸送体のGLUT5(註4)はグルコース輸送体のSGLT1(註4)より取り込み速度が遅いためゆっくりと小腸上皮細胞に取り込まれます。さらに、フルクトースの一部は直ちに小腸上皮細胞内でグルコースに変換されます。残ったフルクトースは門脈経由で肝臓に運ばれると、そのほとんどは肝細胞内に取り込まれ、直ちにグルコースの代謝物に変換されます。このように、フルクトースが単糖のままで生体内に留まっている時間はごく短時間のため、人体の体温では「糖化」の危険性は極めて少ないといえます(註7)。さらに、果物には各種ビタミン、ミネラルが豊富に含まれています。ただし、果物の食べ過ぎには注意しましょう! (2016年のWHOの勧告では遊離糖の摂取量は1日25g未満を推奨)
一方、ほとんどの果物ジュースには食物繊維は含まれていません。清涼飲料水には全く含まれていません。また、これらの飲料のほとんどに果糖ブドウ糖液糖という人工の果糖が使用されています。中には100%が果糖ブドウ糖液糖という飲料もあります。これらを一度に大量に摂取すると、小腸上皮での果糖からグルコースへの変換能力を超えた大量のフルクトースが肝臓に押し寄せます。肝臓はこの危険なフルクトースの処理を優先させます。肝臓内の多量のフルクトースは高尿酸血症・痛風の原因となる尿酸や脂肪肝の原因となる中性脂肪の合成を促進します。成分表示に「果糖ブドウ糖液糖」があるジュースや清涼飲料水などは避けた方が無難です。
註解 |
1)デンプン、グリコーゲン、セルロースの構造
デンプン、グリコーゲン、セルロースはグルコースからできている。グルコースは溶液中では下図のように環状構造となる。デンプンとグリコーゲンの構成成分のαグルコースは水酸基(OH)が下に位置し、セルロースの構成成分βグルコースは水酸基(OH)が下に位置している(図3)。デンンプン、グリコーゲンのαグルコースが折れ曲がりやすい構造のα1-4グリコシド結合で、エネルギー貯蔵に適している。一方、セルロースは直線状になるβ1-4グリコシド結合で構造的役割を担っている(図4)。
2)草食動物
動物はα1-4結合を加水分解する酵素を持っている。アミラーゼで二糖類のマルトースに、マルターゼで単糖類のグルコースに加水分解(消化)され、小腸から吸収される。一方、動物はセルロースのβ1-4結合を加水分解する酵素をもっていない。従って、動物はセルロースをグルコースに加水分解できず消化吸収できない。しかし、草食動物は胃や腸などの消化管にセルロースを分解しブドウ糖やアミノ酸、脂肪酸、ビタミンなどの栄養分を合成できる細菌が胃や腸に棲んでいる。
例えば、牛、羊、山羊などの反芻動物は4つの胃を持っている。第1~3胃には様々なバクテリアや微生物が棲息していて、セルロースを餌としてブドウ糖に分解したり、嫌気発酵してアミノ酸や脂肪酸やビタミンなどに変換したりし菌外に排出する。牛はこれらをエネルギー源、栄養源としている(図5)。
馬では1m位ある長い盲腸に棲息している微生物がセルロースを発酵させている。ユーカリの葉を食べるコアラも長い盲腸に棲む微生物が有毒なユーカリの葉を発酵させている。元々は肉食であったパンダは栄養価の高い笹や竹の部分を食べている。動物園ではタケノコなどを餌として与えているとのこと。
3)糖輸送体
細胞内外へのブドウ糖などの糖(単糖)の移動は、細胞膜上に存在する糖輸送体(glucose transporter)を介して行われる。糖輸送体はglucose transporter(GLUT)とsodium/glucose cotransporter(SGLT)の2タイプに分類される。GLUTは細菌から哺乳類に至るまですべての細胞に存在し、細胞内外のグルコース濃度が等しくなるように、糖を自由に細胞内外へ移動させる。一方、SGLTは哺乳類の小腸や腎尿細管などの限られた臓器にのみ存在しており、細胞外の高いナトリウムイオン(Na+)濃度を利用してグルコースとNa+を細胞内へ同時輸送する。腎脳細管ではSGLT2が、小腸ではSGTLT1が存在する。SGLT1はフルコース以外のグルコース、ガラクトースや他の稀少糖の輸送を行う。
GLUT1は多くの細胞の細胞膜に存在しほぼ一定の速度で絶えずグルコースを細胞内に取り込む輸送体である。GLUT2は小腸上皮細胞と肝臓、膵臓β細胞に存在し血糖値の上昇に平行してグルコースの取り込みを増加させる。小腸上皮細胞では細胞内のグルコースやフルクトース、ガラクトースを血中に放出する。肝臓では余剰のグルコース取り込むことで、膵β細胞ではインスリン分泌を促進しGLUT4により筋肉や脂肪組織でグルコースを取り込む事で血糖を下げる。GLUT3は主に神経細胞や胎盤に存在し一定の速度でグルコースを細胞内に取り込む。GLUT4はインスリン刺激により筋肉細胞や脂肪細胞の細胞質内に潜んでいた輸送体が細胞膜上に移動しグルコースを取り込むことで血糖値をさげる。筋肉細胞ではエネルギー源となるかグルコーゲンに変換され貯蔵される。脂肪細胞では中性脂肪に変換され貯蔵される。GLUTのうち、インスイリン作用の元で機能するのはGLUT4のみで他のGLUTはインスリン作用を必要としない。GLUT5は小腸粘膜上皮に存在しフルクトースの輸送体として機能する。なお、小腸上皮細胞内では取り込まれたフルクトースの一部はグルコースに変換された後GLUT2から血中に放出される。
なぜ、単糖のうちフルクトースのみが小腸でSGLT1ではなくGLUT5から輸送されるのであろうか? あくまで私見ではあるが、フルクトースは生体にとって好ましい糖ではないため、ゆっくり吸収され速く他の物質に代謝される必要があるのではないであうか。実際、小腸上皮細胞内ではGLUT5により取り込まれたフルクトースの一部は上皮細胞内で直ちにグルコースに変換され、残ったフルクトースはGLUT2により肝臓までに運ばれ、肝臓内でグルコースより優先的に他の物質に代謝されている。
4)脳、赤血球とブドウ糖
脳(神経)は糖輸送体GLUT1とGLUT3からブドウ糖のみを取り込む。フルクトースはGLUT1やGLUT3を通過できない。ただし、長期絶食時や飢餓時などではケトン体も利用できる。ケトン体とは脂肪の合成や代謝時の中間代謝産物でアセト酢酸、3-ヒドロキシ酢酸、アセトン(揮発性のため生体内では利用できない)で血液脳関門を自由に通過できる。赤血球ではブドウ糖のみが利用可能なエネルギー源である。
前述の如く、GLUT1とGLUT3は血糖値に依存せず常にほぼ一定の速度でブドウ糖を取り込むことができる。GLUT1は脳、赤血球以外にも網膜、胎盤、乳腺、精巣で発現している。もちろん、GLUT1、GLUT3ではインスリン機能は不要である。もし、インスリン機能が必要であったら、糖尿病(特にインスリン分泌が障害された1型糖尿病)では、重篤または危機的な脳神経障害、失明(網膜)、胎児発育障害(胎盤)、母乳分泌障害(乳腺)、不妊症(精巣)などに陥るであろうことは想像に難くない。
5)インスリン
血糖値上昇に反応して膵臓のランゲルハンス島のβ細胞から分泌されるホルモン。インスリンは筋肉細胞や脂肪細胞のインスリン受容体(リセプター)に結合し、細胞質内に埋もれているGLUT4を細胞膜(表面)に移動させ、ブドウ糖を取り込み血糖値を下げる。肝臓ではGLUT2によるブドウ糖の取り込みには直接は関与しないが、①肝臓内に取り込まれたブドウ糖からのグリコーゲン合成を促進(ブドウ糖を消費)する事で肝臓内外のブドウ糖の濃度差を拡大することでGLUT2のブドウ糖取り込み速度を増加させ、➁肝臓内でのグリコーゲン分解によるブドウ糖変換を抑制する事で血糖上昇を抑制する。
フルクトースやガラクトースは膵β細胞からのインスリン分泌刺激には関与しない。従って、果糖を多く含む果物や飲料水(ほとんどが果糖ブドウ糖液糖)はブドウ糖を多く含む炭水化物と比較すると、摂取後も血糖値(血液中のブドウ糖濃度)を上げ難くインスイリン分泌も促進し難い。すなわち、満腹感を感じ難く「食べ・飲み過ぎる」「過食」に陥る危険性がある。
6)グルカゴン
血糖値が下がってくると膵臓のランゲルハンス島のα細胞から分泌されるホルモン。肝細胞内で(蓄えられていた)グリコーゲンからブドウ糖への変換の促進やブドウ糖からグリコーゲン合成の抑制、(後述の)糖新生などによりブドウ糖を血中に放出を促進する。インスリンとは反対に血糖値を上昇させるホルモン。
7)糖新生
糖新生(gluconeogenesis)とは、ヒトや動物がグルカゴン分泌などによりピルビン酸、乳酸、アミノ酸、プロピオン酸、グリセロールなどの糖質以外の物質からグルコースを生産する手段・経路のこと。血糖値が下がった時にグリコーゲンを分解しブドウ糖に変換することは糖新生とは言わない。
8)肝臓でのブドウ糖と果糖の取り込みとその後
肝臓ではブドウ糖も果糖もGLUT2から取り込まれる。GLUT2では取り込まれる細胞内外の糖の濃度差により取り込まれる速度差がある。すなわち、細胞外の濃度が高く細胞内の濃度が低い、すなわち濃度差が大きいほど速く(多く)取り込まれる。仮に、肝細胞外のブドウ糖と果糖の量(濃度)が1対1で細胞内の濃度が0.5:0.5と同じであったとする。ブドウ糖と果糖は同じ速度でGLUT2から取り込まれるはずである。しかし、肝細胞内では果糖の代謝が優先されるため、その後は肝細胞内では果糖の方がブドウ糖より低くなり(濃度差が拡大し)果糖の取り込みがブドウ糖より大きくなる。しかも、果糖は肝臓で取り込まれてブドウ糖の代謝物に変換され代謝される経路でしか利用方法がない(他臓器では取り込まれない)。ブドウ糖は全身のあらゆる臓器で利用可能な糖である。
肝細胞内に取り込まれた過剰の果糖は脂肪酸に変換され脂肪肝をもたらす。脂肪組織に輸送された脂肪酸は肥満の原因となる。また、果糖を代謝するために肝臓のATP(※)と無機リン酸(※2)を枯渇させ肝機能障害や高尿酸血症・痛風の原因となる。
※)ATP(Adenosine tri-phosphate、アデノシン三リン酸)とは、すべての植物、動物および微生物の細胞内に存在するエネルギー分子。細胞の増殖、筋肉の収縮、植物の光合成、菌類の呼吸および酵母菌の発酵などの代謝過程にエネルギーを供給するためにすべての生物が使用する化合物。
※2)無機リン酸:ATPはアデノシン(アデニンとリボース)と3分子のリン酸により構成される。2分子のリン酸の場合ADP(Adenosine dii-phosphate、アデノシン二リン酸)、1分子のリン酸の場合AMP(Adenosine mono-phosphate、アデノシン一リン酸)という。ATPが加水分解によりリン酸(無機リン酸)が一つ外れてADPになるときエネルギーを発する。
9)糖化反応
糖化反応(Glycation)とは、フルクトースやグルコースなどの糖の分子が有するケトン基やアルデヒド基が酵素の働きなしにタンパク質または脂質などのアミノ残基やヒドロキシ基に結合する事を起点に起こる一連の化学反応の事である。特に食品科学分野を中心にメイラード反応とも呼ばれる。糖化反応で生成された物資をAGEs(Advanced Glycation Endproducts、最終糖化産物)という。
糖化反応は生体内でも生体外でも起こりうる。生体内糖化反応は主に血液中のグルコース、フルクトース、ガラクトースなどの単糖で起こる。このうちフルクトースとガラクトースはグルコースに比べて約10倍も糖化反応が起こりやすい。AGEsは反応性が高く老化現象の主原因としてアンチエイジングの観点から注目されており、糖尿病、心臓病、アルツハイマー病、癌、末端神経障害、難聴、失明などの原因となることが明らかになってきている。
AGEsは体内からゆっくりと排出され、糖化生成物の半減期は細胞の平均寿命の約2倍にもなる。赤血球細胞は体内での寿命は平均約120日であり、AGEsの半減期は240日である。このため、血中の糖化されたヘモグロビン(HbA1c)の濃度を観察することにより糖尿病患者の血糖管理状態を把握することができる。逆に、神経細胞など寿命の長い細胞、コラーゲンのように寿命の長いタンパク質やDNAではダメージが長時間蓄積される。また、腎臓の糸球体、目の網膜細胞、ランゲルハンス島のβ細胞など代謝の活発な細胞でも、ダメージが蓄積しやすい。さらに血管の上皮細胞は糖化によって直接傷つけられ、冠動脈の入り口など血流の多い場所にアテローム性動脈硬化症などを引き起こすこともある。
10)果糖ブドウ糖液糖
トウモロコシやジャガイモ、サツマイモなどのデンプンを加水分解してブドウ糖を作り、その一部を酵素的に果糖に異性化(変換)したものを異性化糖という。安く大量に生産でき、しかも低温では砂糖よ1.7倍の甘みがある。異性化糖は果糖の割合が50%未満のものを「ぶどう糖果糖液糖」、50%以上90%未満のものを「果糖ぶどう糖液糖」、90%以上のものを「高果糖液糖」という。(→院長の独り言 2023年8月号)