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スキーと私(その7)

やせるのは難しい

 

コロナ下での初スキー

 

 2020年12月6日、キロロスキー場。私の今シーズンの初スキーです。近年は次第に雪が降るのが遅くなり、12月になってからのオープンでした。例年、日本で天然雪によるスキー場で最も早いオープンは大雪山黒岳スキー場です。今シーズンは11月11日オープン予定が雪不足のため約10日遅れの11月19日のオープンとなりました。札幌近郊では札幌国際スキー場が11月28日、札幌テイネスキー場が12月2日、キロロスキー場が12月5日のオープンでした。

 

 今シーズンは新型コロナウイルス感染症のため各スキー場は色々な対策を講じています。ここキロロではゴンドラや4人乗りクワッドはグループ間での利用なら制限なし。それ以外は人数制限(6人乗りゴンドラは2人まで、4人乗りクワッドは左右端に2人)があります。当然マスク着用は義務化。

 

 当日は解放されたコースとリフトが限定されていたためリフト待ちの混雑は大変なものでした。一時はリフト待ちの列が一直線ではなく途中でUターン。その長さは優に150mは超えていたと思われます。こんなことは北海道では初めての経験でした。

 

 私がスキーを始めた頃の中国地方のリフトは、ダブルは少なく、ほとんどがシングルでした。当然のことながら、3、4人乗りの高速リフトなどはありません。したがって、長蛇の列かやや閉じた扇状の塊となっていました。待ち時間30分位は当たりまえ、時には1時間超にもなることがありました。この日のキロロはまさにそれを彷彿させるに十分でした。

 

 

 

スキーを始めて35年・・・

 

 私の生まれは広島県尾道市、大学は岡山。いわゆる無雪地帯です。その私が初めてスキーなるものを教わったのは30代半ばでした。職場の忘年会で同僚にスキーに誘われ、アルコールで気が緩んでいた私はつい「OK」と言ってしまいました。そのスキーが私の人生を変えることになるとは…。当時は想像もできませんでした。最初の2年間は年2回位のサンデースキー。上手くなる筈がありません。

 

 3年目。職場の同僚に野沢温泉スキー場に連れていってもらいました。当時の職場は岡山県倉敷市、スキー場は長野県。土日を挟んでも休暇を取る必要があります。若干の後ろめたさを感じながらのスキーツアーでした。それまでは「医者たる者、24時間、365日、患者さんのためにあるべし」という教えを「当然」「守るべきもの」と考えていました。ただし、実践できたといえませんが…。しかし、行ってみると、ビックリ。中国地方のスキー場とは全てにおいてスケールが違います。ゲレンデの広さバリエーション、土日でもさほど込みません。それがスキーに嵌るキッカケとなったようです。

 

 勤務先も変わり、下に研修医やレジデントが付くようになり、休暇を取りスキーに出かけるようになりました。当然、院長はそんな私を許せるはずはありません。医局の教授に「けしからん奴だ」と手紙を送ったそうです。医局をクビになった私が選んだのは北海道。ニセコは私にとってホームゲレンデでした。ここなら自由にスキーができる。よし、北海道に移住しよう! まさに「人間万事塞翁が馬」です。

 

 それから、20年。さぞかし上手くなっていると思いきや、未だに悪戦苦闘の連続です。札幌に来て2年目にRIレーシンググラブに入りました。15年間位、佐藤コーチが撮った練習中のビデオや連続写真をまともに見ることができませんでした。私が思っているイメージと現実とのギャップが余にもあり過ぎたからです。ほとんどは1回、多くて2回見ると、その酷い滑りにいつもがっくり項垂れていました。これでは駄目だと、少しは正面から見ることができるようになったのが、ここ5年位です。

 

 

 

 

スキーの真ん中に乗る

 

「スキーの真ん中に乗って…」 アルペンスキーのワールドカップ(WC)で前人未踏の86勝を挙げ「スキーの神様」とも呼ばれたンゲマル・ステンマルクの初級・中級スキーヤーへ向けたアドバイスです。実に簡単そうです。しかし、これができません。「どんな時でも、どの様な状況でも」重力の方向ではなく、「スキー板(斜面)に垂直」に力を加えると言う意味です。簡単な状況なら初級・中級者にもできますが、すこし難しい状況になると出来なくなってしまいます。

 

 

 

板をたわませる

 

 加えて、競技スキーでは斜めに傾いた体軸の方向にスキー板を強く踏み(加重)「たわませる」ことが必要です。加重により「たわんだ」板に元に戻ろうとする力が蓄えられます。その「たわみ」が解放された時、反発力で板が元に戻ります。その力を利用して身体を前に加速していきます。

 

 まるで「弓矢」や「アーチェリー」のようです。矢をつがえて引き絞ると、弓の棒状部分が弦に引かれて大きく「たわみ」、もとに戻ろうとするエネルギーを蓄えます。手を放すと、そのエネルギーが一瞬に「解放され」、弦が引っ張られ固定されていた矢がそのエネルギーで飛び出します。すなわち、弓の棒状部分がスキー板で矢が身体です。

 

 では、どうすればこの様な力が引き出せるのでしょうか? 簡単にいうと、①ターンの始動時にスキー板のヘッドで雪面を捉え、②そのままずらさないように板に圧をかけることでスキー板は丸い軌道を描きつつホールライン方向に移動(進行)します。③すると、身体は遠心力で外側に投げ出されようとします。④それを防ぐには身体(体軸)を内側に傾けスキー板を強く踏みつけることで遠心力に対抗しなければなりません。⑤すなわち、遠心力を利用することで自分の体重以上の力をスキー板に伝える(加圧)ことで「たわみ」ができるのです。

 

1973年から1989年までのワールドカップ(WC)で前人未踏の通算86勝を挙げたインゲマル・ステンマルク。誰もこの記録を破ることはできないであろうとされていた。それに次ぐ通算67勝を挙げたマルセル・ヒルシャー(オーストリア)。WC総合優勝連続8回、五輪で金メダル2個、世界選手権で金メダル7個を獲得。アルペンスキー史上最高のスーパースター。ステンマルクの大記録を抜くのは確実と期待されていたが、「勝っているうちに止めたい」と2019年9月、30歳で現役選手生活に終止符を打った。両スキー板は常に2本のレールのように平行が保たれている。やや外足重視もバランスよくたわんでいる。雪煙は立っていない。まさに理想の滑り。

 

 「ずらすスキー」はスキー板のテールを外に押し出すことでターンします。抵抗が大きくスキー板のたわみは少なく減速に繋がります。

 

 

さらに、蓄えられた力を開放する方向も大切です。真横だと前に進みません。真上だとスキー板は前に進んでいるのに体が置いていかれます。いわゆる「後傾」です。イメージとして斜面に向かい身体を斜面の真下(フォールライン)に投げ出す感じです。すると、スキー板の反発力とのベクトルで斜め前方に板と身体が加速されつつ移動します。身体が先でスキー板は身体の後ろから付いてくるイメージです。

 

 最近、やっと理屈(頭)では朧ながら理解できるようになりました。しかし、残念ながら私にはそれを実現する技術がありません。身体能力や体力的にも無理のようです。精々フリースキーで、その真似事をする位が関の山でしょう。

 

 

やせるのは難しい

 

 糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病を持っている患者さんには肥満の人が多くみられます。肥満はBMI(Body Mass Index、体格指数)が25以上と定義されます。BMIは[体重(Kg)÷身長(m)2]で求めることができます。

 

 一方、肥満症とは肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測される場合で、医学的に減量を必要とする病態と定義されています(日本肥満学会)。当然、肥満症の治療の中核をなすのは「減量」です。減量が必要とされる患者さんの多くは、ある程度はその必要性を理解しています。しかし、理解はしていても、実際のところ「やせるのは難しい」ものです。何故でしょうか? 

 

 第一に、痩せたいとは思ってない人を除くと、ほとんどの人は「肥満は健康によくない」ことは知っています。しかし、食べることへの誘惑に勝てないようです。当然です。「食べるという本能」により人間をはじめとした生き物はその生命を維持し次世代に繋げているからです。

 

 第二に、肥満者には食習慣に特有の癖があります。「自分は太りやすい体質だ」「水を飲んでも太る」「そんなに多くは食べていない」などの間違った思い込み。食品に関する知識、認識不足により無意識に太りやすい食生活を送っている。「好きなものならお腹一杯でも手がでる」「早食い・大食い」「夜食」「食べ物を残すのは勿体ない」「ストレス解消のため食べる」などの好ましくない食習慣です。これらの肥満をきたしやすい食習慣は案外自分では気が付いておらず無意識のうちに行っているようです。別紙の日本肥満学会の食習慣に関する問診票(食行動質問票:食事に関するアンケート)を参考にしてみてください。

 

☞ 食事に関するアンケート

 

 

 認知行動療法

 

 このような人に「肥満は万病のもと」「肥満は諸悪の根源」と説明してもほとんど効果はありません。恐怖心やネガティブ思考では人は動きません。しかし、肥満者の「やせたい」という思いは、動機や目標に差はありますが、ほぼ共通です。そこで、自分の間違った食習慣に関する癖をまず認識し、それを受け入れてもらいます。そして「これならやってみたい」「続けられそう」という行動目標を肥満者自らが決定します。その場合、70~80%の確率で成功しそうなものを選ぶことが大切です。成功率50%だと、上手くいけば達成感は大きいが、失敗した場合の失敗体験も大きいようです。小さな成果でも70~80%の確率で成功すれば、人は嬉しくなりさらに大きな目標を設定します。医療における認知行動療法の一つです。

 

 これはスポーツの世界では以前より取り入れられていたコーチング法だそうです。また、犬を褒めてしつける方法とも似ています。「人と犬を一緒にするな」とお叱りを受けそうです。しかし、最近「人もそんなもんだ」と思えるようになりました。

 

 

 私の場合

 

 30半ばで始めたスキー。しかもサンデースキーヤー。こんなもんでしょう。ただ、最近までは減量が必要な肥満者が自分の食習慣の悪い癖に気が付かないか、分かってはいても目を背けているのと同じような行動をとっていたようです。スキー板を力強く正しく踏み、板をたわませ加速する滑り。可能ならチャレンジしてみたいと思います。クリアーすべき課題は山ほどあります。そのためには自分の欠点から目を背けず、できそうなことから一歩ずつ。さて、何から始めようか!?

 

 ☞ 食事に関するアンケート