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食事とライフスタイルの変更と体重増加

 

 

 

 2019年2月より糖質(炭水化物)制限の功罪(光と影)をみてきました。結論として「炭水化物摂取量は多すぎても少なすぎても死亡リスクを増加させる」でした。しかし、それらでは糖質(炭水化物)の量のみの検討で、質の検討はなされていません。そこで、質の面から検討した研究を紹介します。米国の約12万人を12~20年間追跡し、食事とライフスタイルの変化が体重に与える影響を調査しています。

 

Changes in Diet and Lifestyle and Long-Term Weight Gain in Women and Men (食事とライフスタイルの変化、および女性と男性の長期体重増加)

Dariush Mozaffarian ,et al. N Engl J Med 2011; 364:2392-2404

 

 

 

初めに

 

 「体重を減らす」ための努力は非常に大きな課題です。体重増加の一次予防1)は世界的にみて優先されるべき事項です。体重の安定には消費カロリーと摂取カロリーのバランスが必要です。「食べる量を減らして運動量を増やす」というアドバイスは簡単に思えます。しかし、体重の増加は数十年にわたり徐々に発生することが多く、ほとんどの人にとって特定の原因を認識することは困難です。通常の減量試験は肥満または過体重の人を対象として短期間で特殊食を用いたものです。そのため、調査結果は非肥満の人を対象とした長期にわたる緩やかな体重増加の要因の決定には限界があります。

 

 いくつかの生活習慣行動は人が長期にわたりエネルギーバランスを維持できるかどうかに影響を与える可能性があります。例えば、砂糖で甘くした飲料、お菓子、加工食品の摂取はそれを困難にします。しかし、全粒穀物、果物、野菜の摂取はそれを容易にします。

 

 

方法

 

 Nurses’ Health Study(NHS)は米国11州から1976年に登録された121,701人の女性看護師、Nurses’ Health StudyⅡ(NHSⅡ)は米国14州から1989年に登録された116,686人の若い女性看護師、Health Professionals Follow-up Study(HPFS)は米国全50州から1986年に登録された51,829人の男性医療専門職の前向きコホート研究2)です。参加者は病歴、ライフスタイル、健康習慣に関してアンケート調査を隔年毎に受けています。ベースラインでは食事、身体活動、喫煙習慣に関する詳細な調査が行われました。肥満(BMI≧30)3)、糖尿病、がん、心血管疾患、呼吸器疾患、腎臓疾患、肝疾患を持つ参加者は除外されました。また、生活習慣に関するベースラインデータが欠如している人、エネルギー摂取が信じられないもの(<900または>3500kcal/日)、食事アンケートで9つ以上の空欄がある人、経過中に新たに妊娠した人、年齢に関連した徐脂肪筋肉量の損失を考慮して65歳以上の人も除外されました。

 

 最終分析にはNHSの女性50,422人、NHSⅡの女性47,898人、HPFSの男性22,557人、計120,877人の男女が研究対象となりました。全員が肥満と慢性疾患がなく、ベースラインでの体重と生活習慣に関するデータは完全でした。また、データが欠如しているため除外されたメンバーの特性は、分析対象となったメンバーのそれと似ていました。

 

 ライフスタイルとして身体活動、テレビ視聴、飲酒、睡眠時間と食事、交絡因子4)としての喫煙が調査対象となりました。食事は果物、野菜、全粒穀物、精製穀物、ポテト(ゆで、マッシュポテト、フライドポテトを含む)、ポテトチップス、全脂乳製品、低脂肪乳製品、砂糖入り飲料、お菓子とデザート、加工肉、未加工赤肉、揚げ物、トランス脂肪酸、ナッツ、100%果汁ジュース、ダイエットソーダ5)、各種アルコール飲料が評価されました。

 

 NHSで20年、NHSⅡで12年、HPFSで20年にわたる4年以内のライフスタイルの変化と体重変化の独立した関係が、身長と体重はベースライン時に、体重変化は4年毎に評価されました。

 

 

結果

 

■ベースラインの特性と体重増加

 各コホートでの4年間の体重増加はHPFSでは男性0.74kg(5~95パーセンタイル6)-5.0~8.0、平均年齢50.8±7.5歳)、NHSでは女性1.06kg(5~95パーセンタイル-5.5~10.7、平均年齢52.2±7.2歳)、NHSⅡでは女性2.38kg(5~95パーセンタイル-2.3~12.4、平均年齢37.5±4.1歳)でした。コホート全体の平均体重増加は1.52kg(5~95パーセンタイル-4.1~12.4)、または2.4%(5~95パーセンタイル-3.0~8.4)でした。この変化は20年で7.62kgの体重増加に相当します。

 

 研究集団全体でのライフスタイルの変化は小さかったが、個人間での変化は大きかった。最大の変化は果物と野菜、加工肉、未加工赤肉でした。例えば、NHSでは変化の上位レベルと下位レベルの差は、野菜では1日3.1サービング7)、1週間で25.3メッツ8)でした。逆に、最小の変化は全脂肪食品と低脂肪食品でした。

■食生活の変化と体重変化の関係

 ほぼ全ての食事要因で独立して体重変化と関連がありました。男性と女性及び3つのコホート全体で変化の方向(体重増加・減少)と程度は同じでした。1日当たりで1食分(1サービング)の食品および飲料と4年間での体重変化は以下の通りです(図1)。

 

 

 

 

■摂取量が増加すると

  • 体重が増加するもの

ポテトチップス(0.77kg)、ジャガイモ(0.58kg)、砂糖入り飲料(0.45kg)、未加工赤肉(0.26kg)、

加工肉(0.42kg)、ジャガイモのサブタイプ:フライドポテト(1.52kg)、ゆで・焼き・マッシュポテト(0.26kg)

精製穀物(0.18kg)、お菓子・デザート(0.19kg)

 

  • 体重が減少するもの

野菜(-0.1kg)、全粒穀物(-0.17kg)、果物(-0.22kg)、ナッツ(-0.26kg)、ヨーグルト(-0.37kg)

 

  • 変化なし

チーズ、牛乳、ダイエットソーダ

 

■摂取量が減少すると

  • 体重増加が抑制されるもの

ポテトチップス、加工肉、砂糖入り飲料、ジャガイモ、

トランス脂肪酸

 

  • 体重が増加するもの

野菜、全粒穀物、果物、ナッツ、ヨーグルト

 

■他のライフスタイル要因と体重変化の関係

身体活動、アルコール摂取量、睡眠、テレビ視聴時間、喫煙などの他のライフスタイルの行動も独立して体重変化と関連していました。ただし、ここでは省略(→別紙)。

 

追加の分析

 食事の変化をより詳しく分類して、広範囲の潜在的な影響を検討しています。食事変化の上位10分位9)の参加者と比較して食事変化の下位1分位の参加者は体重増加が2.49kg(95%CI:2.20~3.15)10)多く認められました(図2)。

 

 

考察

 

 特定の飲食物の消費量、身体活動、アルコール消費、テレビ視聴、喫煙習慣などのライフスタイルの変化は長期的な体重増加と独立して関連しています。非肥満集団の平均長期体重増加は緩やかで年間0.36kgです。しかし、体重増加は時間の経過とともに蓄積され、肥満代謝関連機能障害、糖尿病、心血管疾患、がんに影響を及ぼします。この3つのコホート研究では単一のライフスタイル要因に関連する体重の変化は比較的控えめでした。その中で食事と身体活動の変化が体重増加に大きく関連していることが示されました。

 

 食品や飲料の摂取により消費されるエネルギーの総量が変わる場合があります。体重増加の割合は様々な部分のサイズ、食事パターン、満腹感への影響、他の食品・飲料への置換に関連する場合があります。

 

  • デンプン、精製穀物、加工食品は体重増加と明らかな関連があります。これらは限られた短期試験により示唆された結果と一致していました。デンプンと精製された穀物は満足感(満腹感)を得にくく、精製されていない穀類や食物繊維に富む食品(健康的な脂質やたんぱく質を含む)と比較すると、それに続く空腹信号を増幅させ総カロリーを増加させます。デンプン、精製穀物脂肪、糖分の多い加工食品の消費は体重増加をきたします。ヨーグルの摂取は3つのコホート全てにおいて体重減少と関連していました。これに対する説得力のあるメカニズムは不明です。腸内細菌の変化が体重減少に関与するという興味深い証拠もあります。また、ヨーグルルト消費と交絡する未知の因子がある可能性もあります。例えば、ヨーグルト摂取を変更する人は、この研究手段では測定されなかった体重変化に影響する他の行動を取っているかもしれません。

 

  • 砂糖入り飲料に関する調査結果は、以前の観察研究や短期介入の結果と一致していました。100%フルーツジュースは砂糖入り飲料より体重増加が少なかったのは、より少ないサービングで消費される可能性があるためです。アルコール摂取と体重変化の関係は複雑で、性別、飲料の種類、摂取量、変化の方向、追跡期間に関して不均一であり、さらなる検討の必要性を示唆しています。

 

  •  液体飲料は短期の比較試験では固形食品より満足感(満腹感)が得にくく、摂取される総エネルギーが増加することが示唆されます。牛乳を除く全ての液体飲料は消費量の増加が体重増と正の関連がありました。高炭水化物飲料は食品の精製炭水化物とデンプンの調査結果と一致していました。米国の飲料消費量の全カロリーに占める比率は1965年の8%から2002年の21.0%と増加、1日あたり222kcal増加していました。砂糖入り甘味飲料が60%、アルコール飲料が32%を占めていました.

 

  • 乳製品はほとんどの場合、消費量の変化と体重増加の関係は中立的でした。

 

  •  全体としては特定の食品または飲料と長期的な体重増加の間には多様な関係が示されました。そして、食事の質(食品と飲料の種類)が食事量(総エネルギー)に影響することが示唆されました。現在強調されている脂肪含有量、エネルギー密度、添加糖などのいくつかの食事指標は長期的な体重増加に関連していることが分かりました。例えば、体重増加に積極的に関連している食品のほとんどはデンプンまたは精製炭水化物でした。低脂肪と脱脂肪、全脂肪では有意な差は認められませんでした。ナッツの消費は体重増加と逆相関しました。体重変化と食事成分のエネルギー密度との関係には明確な関連は認められませんでした。例えば、エネルギー密度の低い飲料は体重増加と強い関連がありました。菓子やデザートなどの精製炭水化物や精製された穀物は体重増加と関連していました。ポテトは体重増加と最も強い関連性を示しました.

 

  • 精製または加工された食品と液体炭水化物は体重増加と正の相関がありました。全粒穀物、果物、ナッツ、野菜などの未加工の食品は負の相関がありました。これらの結果は肥満を予防するための将来的方針と研究努力が食品の構造と加工を将来的な基準として考慮すべきことを示唆しています。

 

 

■この研究の欠点(限界)

  • 食事アンケートはポーションサイズ7)を使用した。しかし、(食べ)残された食品のそれは測定されていない。
  • ライフスタイルの変化は自己選択であり、他のライフスタイルと交絡するかもしれない。例えば、体重が増えている人は砂糖入りの飲料やお菓子の摂取量を減らしたり、野菜の摂取量を増やしたりして、観察される関連性に逆バイアスに繋がっているかもしれない。
  • この3つのコホートは主として教育を受けた米国白人成人で構成されており、一般的米国民の平均を表していない可能性がある。逆に食事摂取量の幅は広く米国の推定値と重複していた。また、食事と肥満に関する横断的傾向とほぼ一致していた。
  • 1971年から2004年にかけて、米国の平均エネルギー摂取量は女性で22%、男性で10%増加していた。これは精製された炭水化物、デンプン、砂糖入り飲料の消費が増加したため。
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■結論

 毎日約50~100kcalの習慣的なエネルギーの不均衡は、ほとんどの人に見られる漸進的な体重増加を引き起こすのに十分かもしれない。これは意図しない体重増加が容易に起きるだけでなく、ライフスタイルのわずかで持続的な変化が、そのようなエネルギー不均衡を緩和または逆転させる可能性があることを意味する。特定の食品や飲料の消費量の削減(あるいは増加)を目標としている場合、個人または全体で特定の食料品の消費を削減(あるいは増加)する戦略が最も効果的である可能性が示唆されました。総体的な食事の変化は身体活動とテレビ視聴の変化(ここでは省略)からの追加的な寄与をしているかもしれない。

  • 野菜、ナッツ、果物、全粒穀物などの一部の食品は、実際に消費量を増やすと体重増加が抑制されました。これらの食品はカロリーを提供し、熱力学的法則に違反することはできません。体重増加との逆の関係は、消費量の増加が他の食品の摂取量を減らし全体的なエネルギー摂取量を減らしていることを示唆します。これらの食品は食物繊維含有量が多く消化が遅くなり満腹感が増し、加工食品の摂取量を減少させます。